monologue
夜明けに向けて
 



わたしが初めて触れた楽器は尺八だった。隣の家のご隠居さんが自分はもう吹かないからと言って、中学生のわたしにくれたのだ。楽器というよりただの竹の棒に穴を開けてあるだけのようでさっぱり音が出なかったが歌口に口を当てて息の入れ方を変えて果てしなく吹いているうちになんとか音が出るようになった。音が出ると曲を吹きたくなった。簡単ないわゆるヨナ抜きの曲は尺八の音階でも吹けるようだった。クラスメイトの女の子が、その頃流行っていた「北上川夜曲」が好きだというので家で練習した。そして学校に尺八を持って行って放課後その子の前で吹いてみせた。それがわたしが人前で楽器を演奏する最初だった。宿直の先生が教室から流れてくる尺八の音に不審げに見回りに来たが別に何も言わず去って行った。そしてわたしは大人になってギターやブルースハープ(ハーモニカ)、ベース、シンセサイザーなどの楽器を弾いて人前で歌うことになったのだがそのすべての原点が尺八だった。
fumio

コメント ( 0 ) | Trackback ( 0 )



« 水面に書いた... 今週のアクセ... »
 
コメント
 
コメントはありません。
コメントを投稿する
 
コメントをするにはログインが必要になります

ログイン   新規登録