monologue
夜明けに向けて
 




今は昔、ある所に旭屋という勾玉(まがたま)屋があった。その店の看板は白地に旭であった。
その店の角さんという番頭が人々を高める力を持つ最高の勾玉を作ろうとしてイチローとカズという職人を選んだ。

二人は毎朝、二時に起きて勾玉を磨いた。イチローは機を見るに敏で、旭屋での自分の将来に危惧を抱き、腕を生かして世間に出て他の店を渡り歩いて成功した。
カズの方はその後もひたすらその店で勾玉を磨き続けた。初めは不細工だった勾玉は何年も磨く内に次第に光り始めた。人々はやっとその光に気付きカズの勾玉のまわりに集まった。
そして二十年の月日が経った。 その間にさまざまなことがあり旭屋は経営が苦しくなった。そこで丸さんという番頭が名乗りでて改革に乗り出し、材料費を削った「勾玉増(プラス)」という新製品を売り出した。人々はこの二十年間、カズの本物の勾玉を見てきたので「勾玉増」を「勾玉もどき」と非難した。
 旭屋の店員たちは首をひねった。朝三暮四の猿程度に見なしていた客たちにどうして自分たちにも違いのわからない「勾玉増」を「勾玉もどき」や「勾玉まがい」「勾玉減(マイナス)」と見破られるのかと。
それは、自分の店の勾玉の放つ光が長い間に民衆を照らして高めていたのに、灯台元暗しで旭屋の中の店員たち自身はあまり照らしていなかったからだった。旭屋はどのようにすれば目覚めふたたび栄えるのだろうか。
fumio

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