monologue
夜明けに向けて
 



見破られた方が多いと思うが前回の「戸隠」神社にニギハヤヒがわたしたちを誘い用意していたギャグの形のヒントは「戸がクシ」であった。天岩戸がクシであることをこの一見なんでもなさそうで意味が深そうな名前で教えているのだ。駄洒落で解かなければ解けない仕掛けになっていた。
かれらはこの土地の名前「戸隠」に天岩戸を隠しておいたのであった。親子で隠して時が満ちるのを待っていたのだ。
櫛(クシ)がヒントであれば記憶の引き出しに残っている有名な神話がある。
それは古事記の伊邪那岐命と伊邪那美命の黄泉国の場面の「櫛の火」と呼ばれる印象的なエピソード。
以下に読み下し文を参考のために載せておく。
(引用部分は太字)

是(ここ)に其の妹(いも)伊邪那美命を相見むと欲(おも)ひて、黄泉国(よみのくに)に追ひ往きき。爾(ここ)に殿の縢戸(とざしど)より出で向かへし時、伊邪那岐命、語らひ詔(の)りたまひけらく、「愛(うつく)しき我(あ)が那邇妹(なにも)の命(みこと)、吾(われ)と汝(いまし)と作れる国、未だ作り竟(を)へず。故(かれ)、還るべし。」とのりたまひき。爾に伊邪那美命答へ白(まを)しけらく、「悔しきかも、速く来ずて。吾(あ)は黄泉戸喫為(よもつへぐいし)つ。然れども愛しき我が那勢(なせ)の命、入り来坐(きま)せる事恐(かしこ)し。故、還らむと欲ふを、且(しばら)く黄泉神(よもつがみ)と相論(あげつら)はむ。我をな視(み)たまひそ。」とまをしき。如此(かく)白して其の殿の内に還り入りし間、甚(いと)久しくて待ち難(かね)たまひき。故、左の御美豆良(みみづら)に刺せる湯津津間櫛(ゆつつまぐし)の男柱一箇(ひとつ)取り闕(か)きて、一つ火燭(びとも)して入り見たまひし時、宇士多加礼許呂呂岐弖(うじたかれころろきて)、頭(かしら)には大雷居り、胸には火(ほの)雷居り、腹には黒雷居り、陰(ほと)には拆(さき)雷居り、左の手には若(わか)雷居り、右の手には土雷居り、左の足には鳴(なり)雷居り、右の足には伏(ふし)雷居り、并(あは)せて八はしらの雷神(いかづちがみ)成り居りき。
是に伊邪那岐命、見畏(かしこ)みて逃げ還る時、其の妹伊邪那美命、「吾に辱見せつ。」と言ひて、即ち予母都志許売(よもつしこめ)を遣はして追はしめき。爾に伊邪那岐命、黒御かづら(を取りて投げ棄(う)つれば、乃ち蒲子(えびかづらのみ)生(な)りき。是をひろひ食(は)む間に、逃げ行くを、猶追ひしかば、亦其の右の御美豆良に刺せる湯津津間櫛を引き闕きて投げ棄つれば、乃ち笋(たかむな)生りき。是を抜き食む間に、逃げ行きき。且後(またのち)には、其の八はしらの雷神に、千五百(ちいほ)の黄泉軍(よもついくさ)を副(そ)へて追はしめき。爾に御佩(はか)せる十拳劒(とつかのつるぎ)を抜きて、後手(しりへで)に布伎都都(ふきつつ)逃げ来るを、猶追ひて、黄泉比良坂(よもつひらさか)の坂本に到りし時、其の坂本に在る桃子(もものみ)三箇(みつ)を取りて、待ち撃てば、悉(ことごと)に迯(に)げ返りき。爾に伊邪那岐命、其の桃子に告(の)りたまひけらく、「汝、吾を助けしが如く、葦原中国(あしはらのなかつくに)に有らゆる宇都志伎(うつしき)青人草(あをひとくさ)の、苦しき瀬に落ちて患(うれ)ひ愡(なや)む時、助くべし。」と告りて、名を賜ひて意富加牟豆美(おほかむづみ)命と号(い)ひき。
最後(いやはて)に其の妹伊邪那美命、身自(みずか)ら追ひ来りき。爾に千引(ちびき)の石(いは)を其の黄泉比良坂に引き塞(さ)へて、其の石を中に置きて、各対(おのおのむかひ)立ちて、事戸を度(わた)す時、伊邪那美命言ひけらく、「愛しき我が那勢の命、如此為(せ)ば、汝の国の人草、一日(ひとひ)に千頭(ちがしら)絞(くび)り殺さむ。」といひき。爾に伊邪那岐命詔りたまひけらく、「愛しき我が那邇妹の命、汝然為ば、吾一日に千五百の産屋(うぶや)立てむ。」とのりたまひき。是を以ちて一日に必ず千人(ちたり)死に、一日に必ず千五百人(ちいほたり)生まるるなり。故、其の伊邪那美命を号(なづ)けて黄泉津(よもつ)大神と謂ふ。亦云はく、其の追斯伎斯(おひしきし)を以ちて、道敷(みちしき)大神と号くといふ。亦其の黄泉の坂に塞(さや)りし石は、道反之(ちがへし)大神と号け、亦塞り坐す黄泉戸(よみど)大神謂ふ。故、其の謂はゆる黄泉津良坂は、今、出雲国の伊賦夜(いふや)坂と謂ふ。


以上、この場面でイザナギは湯津津間櫛(ゆつつまぐし)に火をつけて黄泉の国に入っている。
かれはここで千引(ちびき)の石(いは)で黄泉比良坂を引き塞いでしまったのであった。
これがわたしたちが解くべき最後の封印なのかも。
次回、明後日には湯津津間櫛の意味を解き千引(ちびき)の石(いは)を取り除く努力をしよう。

コメント ( 2 ) | Trackback ( 0 )



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コメント
 
 
 
くし。 (からす)
2006-04-05 09:13:29
興味深いところですね。。

期待しています。
 
 
 
くし (fumio)
2006-04-06 16:12:35
こんにちは、これは古事記でもかなり難解な部分ですね。なかなかむづかしい。
 
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