monologue
夜明けに向けて
 



とりあえず仕事に車がいるのでわたしは急いでドイツの大衆車メーカー、オペル社のアストラ・クーペの中古車を購入した。結局その車をこまめに修理したり手入れして日本に帰国するまで使用することになった。わたしは夜は弾き語り、昼は学校という生活を続けた。そのころふたりで居住したマリポサ通りのアパートにはそれほど長くは住まなかったのだがそれでもいろいろなことがあった。隣の若い黒人が麻薬でおかしくなって窓から飛び降りようと自殺しかけて取り押さえられたり、煙がどこからか流れてきて火事騒ぎで避難したり、駐車場に駐車しておいたGTOのイグニションキーホールのシリンダー部分が工具で外されていたり、そのあたりでは人が見ていないとなるとなんとか車を盗もうとするらしかった。
 そうこうするうちに結婚式が近づく。ブーケ・トスのためのブーケを注文して当日取りに行く約束した。事故でぶつけて腫れた妻の目の上のたんこぶは日を追ってだんだん小さくなって血が下りてきて目のまわりを黒くしてきた。濃いシャドウのようになった。
 当日は金曜ということで先生も生徒もほとんど出席できない。家族も親戚もいない、ただ数人の友達だけの前で執り行うシンプルな結婚式だった。意味がわからない神父さんの言葉をオウム返しに唱える。神父さんは苦笑いしながら祝福する。それでも神の前で永久を誓い正式に結ばれたのだ。なにもないただふたりの出発だった。
 あの日、わたしたちに降り注いだカリフォルニア・サンシャイン は今もふたりの心に輝き続けている。序章、了。
fumio


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