monologue
夜明けに向けて
 



 1967年はやはり歴史的な年であった。ソウルの女王、アレサ・フランクリンがデビューし、オーティス・レディングは6月にモントレイ・ポップ・フェスティバルを興奮の坩堝(るつぼ)に投げ込み、ソウルの世界も黒人だけでなく白人も手をとりあって協調し、ビートルズも6月に衛星中継で全世界のものすごい数のテレビ視聴者の前で「愛こそすべて」と訴え、時代は一気に進むかに思えた。

 その翌年1968年4月4日、前年デトロイトでアレサの成功を祝福したマーチン・ルーサー・キング・ジュニア牧師はテネシー州メンフィス市内の定宿、ロレイン・モーテル(Lorraine Motel)の二階バルコニーでミュージシャン、ベン・ブランチ(Ben Branch)と集会での演奏曲目の打ち合わせ中、"Ben, make sure you play "Take My Hand, Precious Lord" in the meeting tonight. Play it real pretty."「ベン、今夜の集会でTake my hand precious lord をかならず演奏してくださいね。ほんとうに美しく弾いてくださいよ。」と念を押した。

 そのとき、午後6時1分、ジェームズ・アール・レイ が発射した銃弾がソウル音楽にひとつの終焉をもたらした。

 キング牧師暗殺の報が全米を駆けめぐると各地で暴動が起こり集会が開かれ、沈鬱な空気が全米を支配した。フェィム・スタジオにもその衝撃波は伝わりその日のセッションは取りやめになった。影響はそれだけにとどまらず、レコーディングセッションが極端に減ってしまった。白人と黒人の協力関係で成り立っていたソウルの希望の歌声はこの日のひとつの銃声によってかき消されてしまったのであった。
fumio

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