monologue
夜明けに向けて
 





わたしが初めて採用されたリトルトーキョーの「栄菊」という店でエンターティナーとしてしばらく仕事しているとどこかの店でママをやっているという女性がやってきて自分の店でエンターティナーをやってほしいという。「栄菊」のオーナーは「栄菊」では女性ピアニストを探すからかまわない、というので引き抜かれた。次の日に行くとその店は「あしび」といって沖縄語で「遊び」という意味だった。ステージにオルガンが置いてあってそれまで蛇皮線などのバンドが沖縄民謡を演奏していたらしかった。店の経営が思わしくなくなってエンターテイナーを入れ替えてみようということになったらしい。客層は沖縄県人会のたまり場のようだった。「栄菊」では日本の曲も演奏したが「あしび」ではほとんど洋楽で店の女の子がビートルズの「オール・マイ・ラヴィング」をよくリクエストしてくれた。3連符のギターを忙しく弾きながらなんとかこなした。ビートルズの曲目では「オール・マイ・ラヴィング」は人気がある。歌詞が胸に響くようだ。ジョン・レノンの歌う「アクロス・ザ・ユニヴァース」もよく米国人にリクエストされ演奏した。わけのわからない呪文のような歌詞の部分が好きな人が多いようだ。ところがその店も一冬越して次の年にはつぶれてしまった。残念ながらエンターテイナーの入れ替え程度ではもたなかったようだ。そういうわけでわたしはすぐに別の店の仕事を探す羽目になってしまった。引き抜かれなかったほうが良かったのかも。
fumio

コメント ( 0 ) | Trackback ( 0 )