道楽ねずみ

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帝国議会放火事件とゲオルギ・ディミトロフ裁判(ベルリン・ライプチヒ)

2009年02月27日 | 衒学道楽

ナチス政権下の1933年2月27日,ベルリンの帝国議会は炎上しました。3月に選挙を控えた時期の事件でした。
ナチスはこれを共産主義者の犯行と決めつけ,実行犯と見られたオランダ人共産党員ルッペのほか,ゲオルギ・ディミトロフらを逮捕しました。
そして,彼らの裁判はライプチヒに置かれていた帝国大審院(Reichsgericht)で行われることになりました。


話は変わります。
私は,1994年12月,ライプチヒを訪れ,ただ「ライプチヒ造形美術館」とだけ呼ばれている美術館に行きました。何が展示されていたかはもう詳しくは記憶していません。吹き抜けの上に美しいステンドグラスがあったことは記憶しています。
ステンドグラスの写真


この「造形美術館」ですが,統一前の旧東独では「ゲオルギ・ディミトロフ博物館」と呼ばれていました。すなわち,私が訪れた「造形美術館」こそが,ゲオルギ・ディミトロフ裁判の行われた裁判所,すなわち帝国大審院だったのです。戦前のドイツの最高裁判所にあたるReichsgericht(帝国大審院)はライプチヒにありました。今日でも刑法の有名なコンメンタールにLeipziger Kommentarというものがあり,コンメンタールの名にライプチヒの名前を留めています。

冒頭の写真が1994年当時の「造形美術館」=旧帝国大審院です。

1994年当時は単なる「ライプチヒ造形美術館」に衣替えをしていたにもかかわらず,ゲオルギ・ディミトロフ裁判の行われた法廷だけは,裁判当時のままの形が再現されていました。
私が,法廷の跡にいき,美術館員のお婆さんに,ここがゲオルギ・ディミドロフ裁判のあった場所ですかと尋ねますと,その美術館員は非常にうれしそうな顔をして,詳しく解説してくれました。統一前は共産党員の聖地の一つで,多くの観光客が来たでしょうに,94年当時は既に観光客も稀でして,久しぶりに解説をする機会を持てたことが嬉しかったのでしょう。
美術館員のお婆さんは,実際に裁判を昨日傍聴してきたかのように,いきいきと解説してくれました。ゲオルギ・ディミトロフが弁護人もなしに被告人として裁判を受けることになったこと(実際は,弁護人との信頼関係が築けなかったり,ディミトロフの希望する弁護士を裁判所が弁護人として選任しなかったりしたことがあるようです。),それでも果敢に弁論を試みたことなど,解説してくれました。
夏目漱石の随筆に「カーライル博物館」というものが,そして短編小説に「倫敦塔」というものがありますが,それらに相通じる感覚を覚えました。美術館員のお婆さんの話を聞きながら,裁判官や検察官,弁護人,そして被告人のディミトロフがその場に現れ,滔々と論告や弁論が行われている姿が目に浮かぶようでした。

私の思い出話はこの程度にしまして,実際の裁判ですが,実行犯のルッペは有罪となり,死刑判決を言い渡されましたが,ディミトロフらには1933年12月23日,無罪判決が出て,ディミトロフは翌1934年2月27日にはソビエト連邦へ国外退去となりました。ディミトロフはソビエト連邦にライプチヒの英雄として迎えられ,コミンテルンの書記長を経て戦後にはブルガリアの初代首相になります。

ただし,ディミドロフが無罪になったのは,当時,ソビエト連邦がドイツに積極的に働きかけを行ったことや,独ソ両国が不可侵条約締結に向けて接近を検討し始めていたこととも無関係ではないという指摘もあります。

ところで,旧帝国大審院,ゲオルギ・ディミトロフ博物館,美術館と姿を変えた建物は,最終的に現在,再び現役の裁判所,すなわち,連邦行政裁判所(Bundesverwaltungsgericht)として使用されています。連邦行政裁判所は2002年にベルリンのZoologischer Garten駅の近くの場所からライプチヒに移転したのです。かくして,旧帝国大審院の建物は,再びドイツの最上級審の裁判所の一つとして使用されることになりました。2004年6月に学校の教師がイスラム風スカーフを着用することを禁止することが適法である旨の連邦行政裁判所の判決が言い渡されましたが,この判決が言い渡されたのも,ゲオルギ・ディミドロフ裁判のあった法廷でした(ZDFのニュースで放送されました。)。

ただ,2007年3月には連邦行政裁判所の中に,帝国大審院博物館(Reichsgerichtmuseum)がオープンしているので,現在,ディミトロフ裁判のあった法廷がまだ現役として使われれているのか,それとも再び博物館になってしまったのかは分かりません。
確かめるために,再度,訪問したくなりました。

現在の連邦行政裁判所の姿です。
Wikipediaから借用しました。



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