道楽ねずみ

ドイツに関するものを中心に美術展,オペラ,映画等の趣味の世界を紹介します。

ヴァロットン展(三菱一号館)

2014年08月10日 | 美術道楽
三菱一号館で開催中のヴァロットン展に行って参りました。

HPによりますと
(引用はじめ)「本展は、日本初のヴァロットンの回顧展です。オルセー美術館およびフェリックス・ヴァロットン財団 の監修による国際レベルの展覧会として、グラン・パレ(仏・パリ)、ゴッホ美術館(蘭・アムステルダム) を巡回。そして2014年という日本・スイス国交樹立150周年の記念すべき年に、当館において開催します。 」(引用終わり)とのことです。

サブタイトルでも「冷たい炎の画家」という訳の分からないタイトルがついていますが、いささか変わった画家のようです。

《赤い絨毯に横たわる裸婦》、《トルコ風呂》に見られるように、裸婦も描いていますが、何か変わっています。いささかも美化していません。テレビの「ぶらぶら美術館」によれば、こうした絵を見ると男性はエロチシズムを感じるのに、女性は美しくないと感じるのだそうです。

有名な「ボール」と題する絵は、無邪気に遊んでいる子を描きながら、そこに影が迫っているように見え、不吉な出来事が起こりそうな不安な予感をいっぱいにたたえています。そして、何といっても《夕食、ランプの光》と題する家族の肖像画です。2人の子持ちの資産家の未亡人と結婚したヴァロットンの疎外感が描かれています。ヴァロットンは奥さんの家族とはあまり仲が良くなかったようですが、このような絵も含めて描いて公表しているところを見ると、実は本当は奥さんとの関係は問題がなかったのかもしれません。

《アンティミテ》intimiteと題する版画も、登場する人間の人物描写などその心理が描かれています。この版画は年数を決めてその範囲でのみ作成ということで、最終的に版木が廃棄されていますが、版木の廃棄を確認するために作成した版画(破壊した版木を組み合わせて印刷した版画)もとても前衛的で大変興味深く思われました。

ホルバインの《死せるキリスト》(バーゼル市立美術館にある絵で、何度も見てとても印象に残っている絵です。)から影響を受けた《短刀で刺された男》という作品もありました。

そして何といっても妙だったのは《竜を退治するペルセウス》です。
アンドロメダは中年の裸の女性として描かれています。どうみてもこれでは、アンドロメダが入浴中に急に便意を催し、裸のままトイレで排便中であったところ、突然、ゴキブリかねずみか何かが出てきて悲鳴を上げ、やむを得ず駆けつけたペルセウスが害虫駆除のため格闘しているようにしかみえません。アンドロメダも排便中のところを見られてしまってバツが悪いと感じているようにしか見えません。
本当に強烈な絵でした。

どれも普通の絵ではない展覧会のようで、単純によいとは思いませんが味があります。
いずれまた出かけてみたいと思います。

(補充)
後で思い出しました。妻を失ってうつ病になったオルフェウスが女性達に八つ裂きにされる絵もありました。
これなどもヴァロットンの女性観をよく表しているように思います。
家族の肖像画など一連の作品を見た後,いかにも「ヴァロットンらしい」と思いました。
もっともオルフェウスは、妻を亡くした後、水に浮かぶ自分の姿に見とれるなど「人類史上最初の同性愛者」なので、ヴァロットンはどうだったのだろうかなどとも考えてしまいました。