Zooey's Diary

何処に行っても何をしても人生は楽しんだもの勝ち。Zooeyの部屋にようこそ!

児童虐待を暴く「オレンジと太陽」

2013年05月01日 | 映画


昨年、岩波ホールで単館上映していたのを見損なってDVDで観賞。
巨匠ケン・ローチ監督の息子ジム・ローチ監督の初長編映画。
英国最大のスキャンダルといわれる「児童移民」の実態を描いた作品。

19世紀から1970年まで英国政府は、貧困家庭や身寄りのない子どもを労働力として
オーストラリアを初めとする英連邦諸国に送っていたというのです。
その数、なんと13万人。
ふとしたことでその事実を知ったノッティングガムのソーシャル・ワーカー、
マーガレットは、孤児たちの自分の出自を知りたいという切望に応えようとする。
事実を隠蔽しようとする権力と戦い、様々な妨害を受けながらも事実を調べ、
孤児たちを支援するためのトラストを設立し、現在もその活動を続けているという彼女の
実話に基づいた映画です。



英国の手厚い福祉政策を「ゆりかごから墓場まで」という言葉で表すのだと
その昔、学校で習ったような気がします。
だがしかし、実はそのゆりかごは空だった。
英国政府は児童福祉予算を減らすために、13万人もの幼い子どもたちを
親の承諾もなしに、ひそかに海を渡らせていたのです。
タイトルの「オレンジと太陽」(原題ORANGES AND SUNSHINE)というのは
「向うに行けば太陽が輝き、オレンジを毎日もいで食べられる」と
子どもたちが聞かされた言葉。
だがその実態は…
劣悪な条件下の労働、暴力、性的虐待。
世の中にいるのは、子どもを慈しむ善良な大人ばかりではない。
何の後ろ盾もない子どもたちが無防備でおかれたら
児童虐待が起こるのは当然でしょう。
「児童移民」という言葉自体が「児童虐待」を意味するように思います。
イギリスとオーストラリアの政府がそれを認め、公式に謝罪したのは
なんとまだ数年前のことというから驚きます。

淡々と描かれる描写から重い事実に打ちのめされる、
良質な社会派の作品でした。
それにしても主役を演じたエミリー・ワトソン。
私がこの人を初めて見たのは、1996年公開のラース・フォン・トリアー監督『奇跡の海』。
そこではガラスのように繊細な、無垢で傷つきやすい女性を演じていたのに
こちらでは、地味なスーツを着た中年太りのソーシャル・ワーカーでした。
真実に取り組む真摯な女性の役どころであり、つぶらな瞳はそのままなのですが
20年の年月の経過の重みをしみじみと感じたのでした。



「オレンジと太陽」 http://oranges-movie.com/
コメント (2)
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする