出典: 詩集 「まなざしかいご」 p94 (出版:中央法規)より以下転写。
『手をつないで見上げた空』 詩作:藤川幸之助さん
幼い頃 手をつないで見上げると母がいた
青空は母よりもっと遠くにあって 大きな白い雲が一つ流れていた
幸せのことなんて考えたことなかった
私がつまずき失敗すると 私の手を両手で優しく包んで
母はいつも青空の話をした 雲が流れ雲に覆われ
青空は見えなくなり ときには雨が降るから
青空を待ちこがれて 青空の美しさに 心打たれるんだと
何度失敗して何度つまずいたことか そして何度この話を聞いたことか
認知症の母との日々の中で 苛立ちという雲が出て
悲しみという雨が降った 私は何度も失敗してつまずいても
母は何も言ってくれなくなったが 手をつないで散歩をすると
いつも母は静かに空を見上げていた
青空がただ頭上に広がっている 幸せもまたただあるもの
求めるものではなく 気づくものなんだ
と母と手をつないで 空を見上げるといつもいつも思う