桃井章の待ち待ち日記

店に訪れる珍客、賓客、酔客…の人物描写を
桃井章の身辺雑記と共にアップします。

2009・1・11

2009年01月12日 | Weblog
夕方、母の誕生日を数日早く祝う為、部屋を出る。途中、広尾の花屋さんでMがプレゼント用にバラを買っている間、表で煙草を吸っていたら、帽子を被り、マスクをした初老の女性が「章さん、お久しぶり」と声をかけて来る。一瞬誰だか分からない。でも、すぐに朝の連ドラにも出ている大物女優のFさんだと分かる。目だ。顔の殆どの部分は隠れているのに、目だけでFさんと分かってしまうなんて、さすが若い時は大映のスター、そして年取ってからも渋い役柄で主演映画までこなしてしまう大女優だけのことはある。待ち合わせした三光坂のトンカツ屋『D』で会った母も帽子とマスクをしている。Fさんは人の視線を避ける為だろうけど、母の方は風邪予防の為。誕生日のお祝いのことを書いているのだけど、誰が読んでいるか分からない日記に母の年齢を書くのはきつく禁止されているので書けないけど、還暦過ぎの俺の母親だから、自ずと想像できる。でも、元気だ。食欲も凄い。俺たちと一緒にヒレカツ、海老フライ、カキフライ、蟹爪フライに牛刺し、里芋の煮物、オニオンサラダ、それにご飯をきちんと一膳食べていた。数年前に亡くなった父はそれ以上の食欲の持ち主だったけど、俺はきっと両親の胃袋だけは確実に遺伝しているのだろう。これで日記を終われば、幸せな休日だったと云うことになる。それなのに帰りにビデオ屋に寄って去年大ヒットした映画のDVDを借りたことが幸せの休日にケチをつける。これも誰が読んでいるか分からないし、出演者から制作デスクにまで知り合いがクレジットされているし、この映画の大ファンもいるだろうから映画のタイトルを書けない。イニシャルも書けない。とりあえず『××』としておこう。監督の名前も『△△』としておく。前作も我慢できないひどさだったけど、今回はそれ以上。あまりのひどさに言葉を失って画面に釘付けになってしまう。俺だけじゃない。Mも呆れ果てた顔をしている。映画に対してオマージュを捧げる作品みたいだけど、逆に映画を馬鹿にしているとしか思えない。『△△』さんの演劇やテレビの仕事やエッセイなどは大ファンなのに、映画となるとどうにも駄目。多分あんなに大ヒットしたんだし、面白いと思う人が大勢いると云うことなのに、どうして俺は『△△』さんの映画がこんなに駄目なんだろう?子供の頃食べられなかったレバーが今大好物になった様にいつか『△△』さんの映画が大好きになる日が来るのだろうか?それまで俺は生きていられるのか?口直しに一緒に借りてきた廣木隆一監督の『縛師』をみる。こっちは紛れもなく映画だった。