桃井章の待ち待ち日記

店に訪れる珍客、賓客、酔客…の人物描写を
桃井章の身辺雑記と共にアップします。

2005・2・28

2005年03月01日 | Weblog
この待ち待ち日記を調べたら、去年の12月14日のこと。あの日、ランチを終えた俺は留守をイベントのリハをする人たちに任せて買い物に出かけ、一時間後帰ってみると、あいつがプロデューサーのSさんとカウンターに座っていた。どうやら一時間近く水一杯も飲まずに俺を待っていてくれたらしい。別に急ぎの用があった訳ではなく、近くまで来たから寄ってみたとボソボソと云う。水割りをチビチビ飲みながら新しく立ち上げる会社のことを語り出すあいつ。こころなしか痩せて疲れて見えたのは、会社設立の心労のせいだったのかと納得。でも、監督一筋でやって来たあいつに経営者なんか出来るのかと茶々を入れる俺に、そう云わず協力してよと企画を求める。あいつとは脚本家時代仕事をしてないし、それどころか面識もなかった。親しくなったのは飲み屋を始めてから。客として来ている内に俺が企画したイベントに色々協力してくれるようになっていた。去年俺が初めて『演出』したウチでやった芝居にも忙しいのに客として来てくれていた。あいつは俺に何を求めていたんだろう?娯楽作品一筋のあいつと俺との接点は皆無に近い。娯楽作品以外の何かをあいつは求めていたんだろうか?「おい、監督としてギリギリ何を撮りたいんだ?」「ウーン、色々あるんだけど……」その「色々」を聞く前に電話が鳴ったり、スタッフが出勤してきたりしてあいつは店を出て行ってしまった。次に会ったのは今日。朝刊を開いたらあいつの顔写真が死亡記事欄に載っていた。「那須博之、映画監督。27日、肝臓ガンで死去。53才。作品に『ビー・パップ・ハイスクール』シリーズや『紳士同盟』など。昨秋『デビルマン』が公開されたばかりだった……」合掌。