六時の開店直後、一人の年配の紳士が「ここですき焼が食べられるのですか」と入って来た。「すき焼だけでもよろしいですか」と念を押す。威厳のあるその物言いにこっちも「勿論でございます」「畏まりました」と恭しく応えてすき焼の支度を始める。その紳士の物腰に気押される様に醤油味砂糖味をいつもより慎重に塩梅する。出されたすき焼を紳士はうまそうに食べ終ると「実に結構なお味でした」と頭を下げる。こちらも「お粗末でした」と頭を下げてしまう。最後に紳士はウチで一番高いウイスキー(ロイヤルハウスホールド)をショットで飲み干すと「今度来る時はこのウイスキーを十万円で一本キープします」と云って帰って行った。只それだけの話だけど、以前広尾の店で秋篠宮殿下が来た時以来の慣れない敬語を使って疲れ切る。店はその後本当に暇。女性脚本家のTさん、近所の会社のSさん、新しく常連になってくれたNさんと友人のS君、そして記録更新中のNさんが最後のお客さんで合計六人のみ。サッカーの北朝鮮戦の影響か?