緩和ケア医の日々所感

日常の中でがんや疾病を生きることを考えていきたいなあと思っています

ビタミンは体によいだけ? 抗がん剤の効果を減弱させるサプリ?

2020年01月13日 | 医療
先週、緩和ケア内科のジャーナルクラブの担当でした。
その時の論文をここでも紹介したいと思います。

ちょっと、衝撃的な論文でした・・・

ビタミンB12、鉄、抗酸化サプリを化学療法前から治療中に用いた化学療法中の乳癌患者さんは、用いなかった患者さんに比較して、再発や死亡のリスクが高かったというものです。

Dietary Supplement Use During Chemotherapy and Survival Outcomes of Patients With Breast Cancer Enrolled in a Cooperative Group Clinical Trial (SWOG S0221)
https://ascopubs.org/doi/abs/10.1200/JCO.19.01203

Christine B. Ambrosone, Gary R. Zirpoli,  Alan D. Hutson,  et al:
JCO., Published at Dec.19,2019

乳癌に対するメトロノーム化学療法ランダム比較試験(SWOG S0221)の
付帯研究として実施された観察研究で、
化学療法の前から療法中にかけての使用状況と
栄養補助食品別に生存に及ぼす影響をみた研究です。

前向き観察研究として実施され、
ランドマーク生存分析と
臨床的、ライフスタイルを
cox比例ハザード回帰分析を用いて
調整がされています。




この研究に至った背景です。

化学療法薬のがん殺傷の
細胞毒性メカニズムの一つは、
活性酸素(ROS)によるものであることから、
この化学療法期間中に
抗酸化サプリを用いると
化学療法薬の殺傷力が減衰するのではないかと
言われてきた背景があります。

わかりやすく書きますと・・
抗がん剤のがん細胞への攻撃の一つが活性酸素。
この活性酸素の攻撃力を抗酸化サプリが抑えてしまうのではないかと
いうのです。




北米で、乳癌SWOG試験に参加していた患者さんで
質問表の返送等で条件を満たした1134人が解析対象です。

抗酸化サプリについては、
化学療法の前に使っていた人も、
化学療法中にはは止める人が多く(使用17.5%)、
北米では抗酸化サプリの悪影響の可能性を
患者さんが知っていたのかもしれません。
患者力に驚きます。


結果ですが、
VitC、E、CoQ10を化学療法前、療法中、ともに使用した場合の再発リスク
 ビタミンE:adjHR、1.36 [95%CI、0.87ー-2.13]
 ビタミンC:     1.47 [95%CI、0.81-2.67 ]
 CoQ10:                1.75 [95%CI、0.77〜4.01])
VitC、E、A, カロチノイド,CoQ10を前、中使用した場合の
 再発リスク adjHR、1.41 [95%CI、0.98ー-2.04]
 死亡リスク     1.40 [95%CI、0.90-2.18 ] 

ビタミンA,カロチノイドはNが少なく(n=5)単独での解析は不可でした。
ビタミンA、カロテノイドの
無病生存曲線(DFS)と生存曲線(OS)をみたところ、
再発と死亡に有意な差を示していました。
(Fig2:ここには掲載していません)


ビタミンB12、化学療法前、中に使用した場合の
 再発リスク(DFS) (HR、1.83; 95%CI、1.15-2.92)
 死亡リスク(OS)   (HR、2.04; 95%CI、1.22-3.40)
鉄の化学療法前、中使用の
 再発(HR、1.91; 95%CI、0.98〜3.70)

ビタミンB12、鉄は再発と死亡に有意に関連(Fig3)
      

A:ビタミンB12 のDFS 
  もっとも下降している赤のYYとは、
  化学療法前の使用あり、化学療法中の使用あり
B:ビタミンB12のOS
C:鉄のDFS
B:鉄のOS

鉄やビタミンB12は既往歴として
それを必要とする
元々の何らかの疾病があった可能性を
考察していますが、
血液毒性で調整しても、
やはり差が認めたと述べています。



結論
ビタミンB12、鉄、抗酸化サプリを化学療法前から治療中に用いた化学療法中の乳癌患者さんは、用いなかった患者さんに比較して、再発や死亡のリスクが高かった。

ただし、本研究の対象者の化学療法は、
メトロノーム化学療法
(休薬期間をおかない低用量療法、
 メトロノームが一定間隔で
 音を刻むことからつけられた名称。)
で、通常の化学療法のレジメとは異なるものであることに
注意が必要です。

また、高リスク群の乳癌に限定しているものであり、
他の癌種や
乳癌であっても他の化学療法薬など
背景が異なってくれば、
結果は異なる可能性があります。

ですから、この結果をもって、
即、絶対、〇〇は飲んでいけないというような
極端な行動はとるべきではありません。

一方、何となく〇〇は体によさそうだから、
飲んで悪いことがなければ飲んでいよう・・といった、
曖昧な理由で漫然と何かを続けることは
実は逆効果な場合も含んでいる
ということを知っておくべきでしょう。





この論文を読んで、
私自身はどのように臨床に活かしていこうと思ったかというと・・

生存曲線の差が大きかったビタミンB12について
欠乏症等ではない漫然とした投与は
終了を選択肢に入れることを推奨していこうと思います。

日本では、化学療法の末梢神経障害性疼痛に対し、
神経を保護してくれるのではないかという推測で、
何となく処方がされている場合が少なからずあります。

このような場合は、
漫然とビタミンB12を継続することは控え、
むしろ・・・
鎮痛薬、一部のオピオイドは神経修復の可能性が
動物実験で示唆されていることから
(これは、日本緩和医療学会第2回東海支部学術大会の
ランチョンセミナーでレクチャーしました)
鎮痛薬の方を積極的に選択したほうが、
患者さんにとって、利益につながるのではないかということを
治療医とともに話し合っていくための根拠としていこうと思った次第です。




余談ですが・・
もともと、抗酸化サプリと言われるビタミンA,C,E,カロチノイド,CoQ10などは、強い日差しなどで生じる活性酸素(フリーラジカル)を押さえて、私たちの細胞へのダメージを守ることは、老化防止(例えば、皮膚の皺など)によいと言われてきていることはよく知られていることと思います。
こうした、抗酸化サプリは、抗がん剤が正常細胞に及ぼすダメージを守るのではないかと思われたりされることもある一方で、
実は、その活性酸素で攻撃する抗がん剤の殺がん細胞力(細胞毒性といいます)を落とすことに懸念されているということが今回、この論文を読んで知ることができました。

これは、以下の総説に様々な癌種での研究報告がまとめられていて、
とても、勉強になります。


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