国際女性デーの昨日(3月8日)、「九条の会」全国講演会が、東京都渋谷区CCLemonホールで開かれた。昨年七月に亡くなった「九条の会」呼びかけ人で作家の小田実氏の志を受け継ごうと、北海道から沖縄まで全国各地から会場いっぱいに二千三百人が参加した。小田さんをのぞく8人の発起人のうち7人もが持ち時間をオーバーして熱弁をふるった(梅原猛さんはメッセージ参加)。なぜかこんな大事なことを一般商業マスコミは一言も報道しない。スポンサーである財界の意向が怖いのだろうか。
講演のなかで、評論家の加藤周一氏は「小田さんは戦争がなし崩しに始まり、拡大していくものだということを見抜いた」と指摘。なし崩しの戦争に対して黙っていたら手遅れになる地点があるとして、「小田さんが生きていたらいつ転換点なのか指摘しただろう。小田さんの遺志を受け継ぐということは解釈改憲の継続を許さないことだ」とのべた。
作家の大江健三郎氏は、『HIROSHIMA』を題材に小説家としての小田氏を論じ、哲学者の鶴見俊輔氏は「世界の思想史の中に置いてみたい」として、小田氏の思想を批判的常識哲学だと評した。九十歳ながらかくしゃくとした姿をみせた三木睦子氏(三木武夫記念館館長)は「憲法九条というのはまったくよくできた憲法」と強調。「九条が本当に戦後の日本にふさわしい」とのべ、「謙虚で平和で楽しい日本にしてほしい」と期待を語った(「しんぶん赤旗」3月9日)。
「良心的軍事拒否国家」という小田氏の考えを紹介した劇作家の井上ひさし氏は、第二次大戦中に中立国が人道的な役割を果たした例も示し、「日本にはすばらしい憲法がありこれを国際関係に生かすこと」を提起。憲法研究者の奥平康弘氏は、小田氏も原告となっていた自衛隊のイラク派遣違憲訴訟について触れ、憲法が人々の生活や運動の灯台的な役割を果たしているとのべた。作家の澤地久枝氏は、「日本に市民という言葉を定着させたのは小田さん」と市民運動家としての足跡を評価。「憲法の原点に戻りたい」という一点で集まった「九条の会」が、自公民の改憲議連「新憲法制定議員同盟」に名指しで“対抗”されるまでになったことをあげ「私たちと向き合う対等な関係になりたければ、議員をおやめになったほうがいい」と会場の笑いを誘った(「しんぶん赤旗」 同上)。
会場に直接参加した松竹伸幸さんは、Blog「編集者が見た日本と世界」で次のよう書いている。
「私は、本の販売が仕事。発起人の方が本を出している出版社ということで、岩波、大月の方といっしょに参加した。はっきりいって、本を買う層も高齢化しているけれど、これだけの本が売れる発起人の仕事はスゴイよね。これらの人がスゴイのは、知性は当然なのだけれど、戦闘力なのだと思う。90歳の三木さんは、しゃべりながら息が切れるのだと言いながら、最後まで立ったままだった。澤地さんは、改憲勢力の動向をきびしく批判し、彼らをやっつける力をつけようと呼びかけ、ほとんどアジテーションだった」。
小田さんをしのんだこの日の講演会。
小田さんは、生前よく言っていた。「小さな人間からすべてが始まる。小さな人間が動かなければすべては動かない」。
自民、民主、公明、国民新各党などの改憲派議員でつくる「新憲法制定議員同盟」は、4日民主党幹部を新たに役員に加え、改憲策動を推進する新体制を発足させた。愛知和男・議員同盟幹事長が活動方針の説明の中で「われわれと正反対の勢力、『九条の会』と称する勢力が、全国に細かく組織作りができておりまして、それに対抗していくにはよほどこちらも地方に拠点を作っていかねばなりません。そこが今後の活動の大きな焦点となる」と強調しているように小田さんの教訓に学んで、草の根の改憲運動を推し進めるつもりのようだ。
憲法改正は国会議員だけでは実現できない。国民の過半数を「九条の会」が獲得できるかどうか。粛々と、護憲の世論を広げつづけるだけである。
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