プロメテウスの政治経済コラム

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クリントン米元大統領訪朝  とりあえず、金正日総書記の作戦成功か

2009-08-05 19:03:43 | 政治経済
クリントン米元大統領が4日、北朝鮮を電撃訪問し、金正日(キムジョンイル)朝鮮労働党総書記と会談した。訪朝の直接の目的は、北朝鮮で拘束されている米「カレントTV」の女性記者2人の解放交渉のための「私的な活動」ということだが、朝鮮中央通信は、会談で「朝米間の懸案の問題が真摯な雰囲気の中で虚心坦懐に深く議論された」と伝えている。北朝鮮は核実験やミサイル実験を行えば、米国のオバマ政権がすぐに、交渉のテーブルに着くだろうと予測していた節がある。ところが、ヒラリー米国防長官は、北朝鮮を「常に注意を引きたい幼い子供や10代の子供のよう」と言って無視してきた。後継者問題を立てて米国の関心を引こうとしたが、金正雲氏にばかり関心が集まって、これもうまくいかなかった(最近では、金正雲氏の話は意識的避けているようだ)。クリントン元米大統領による訪朝は、とりあえず、金正日総書記の作戦の成功といってよいだろう。記者2人は即座に釈放された。

 クリントン元大統領と米国人記者のローラ・リンさん(32)、ユナ・リーさん(36)は5日午前8時ごろ、北朝鮮を無事に出国、給油のために青森県の米軍三沢基地に立ち寄った後、リンさんとリーさんの家族が待つロサンゼルスに向かった。米政府当局者によれば、クリントン元米大統領による今回の訪朝は核問題とは無関係との認識で、北朝鮮も事前に合意しており、金総書記との会談はあくまで「個人的」なものだということだが、クリントン氏の訪朝が、今後の米朝間の直接対話につながる可能性があるとみるのが自然であろう

 今回の訪朝が、北朝鮮の核開発問題で対立状態にある米朝両国が対話を再開するきっかけになるのか、6カ国協議は過去のものという北朝鮮を話し合いの場に引き戻すことができるのか、今後の成行きが注目される。平壌の空港では、北朝鮮の核問題をめぐる6カ国協議の首席代表、金桂冠(キム・ゲグァン)外務次官らがクリントン元大統領一行を出迎え、見送ったという。オバマ政権は、ブッシュ政権と同様に「6カ国協議内でのみ米朝対話は可能」という立場で二国間対話を拒否してきた。

 こう着状態を打開するために、クリントン米国務長官は7月の東南アジア諸国連合(ASEAN)地域フォーラム(ARF)で、北朝鮮に新たな「包括的措置(パッケージ)」構想を提案した。提案の内容は▽北朝鮮の核開発放棄▽米朝などの国交正常化▽休戦協定の平和協定への転換―などを一括して解決する新たな合意をめざすもの。細かな段階設定をした6カ国協議の合意履行に替えて、一気に最終ゴールにもって行くという新たな履行方式の提案である。
金総書記が「包括的措置」などについて、クリントン元大統領に対して何らかの話をしたのか、しなかったのか詳細は不明である。韓国の朝鮮日報は、社説の中で「米政権がどう言おうとも、クリントン元大統領と金総書記の会談は、直接交渉の始まりを意味する。米朝の二国間対話が始まるのは時間の問題だ」と伝えている

金大中政権で秘書室政務秘書官、初代国政状況室長を歴任した張誠(チャン・ソンミン)氏が、金正日総書記の人物像について、興味深い話をしている(「金正日、語られない99%の真実 後継者問題は米国の気を引くために仕組まれた」NBonline2009年7月31日)。
張誠氏は、「女好きや酒好きという要素があたかも金正日氏のすべてのように語られますが、それは金正日氏の10分の1、いや100分の1のレベルの話でしかありません。それよりも、彼の政治的な感覚を語っていくべきだと私は思います。現実に、金正日氏は大学時代、読書家と知られるほどの勉強家でした。党と軍も完全に掌握しています」。そして、「金日成氏が死去したのは1994年7月8日のことでした。その後、クーデターも起きず、15年にわたって北朝鮮の体制を維持してきました。本当はその秘訣や背景を探らなければならないのに、多くの人々はその点を無視しようとするか、独裁者だから可能なのだろう、という簡単な結論を出してしまう。体制が続いている理由として、20年間の後継者教育と現場での経験が大きいと私は考えています」。「彼に会った世界の首脳や指導者は皆、金正日氏の見識の広さや知識に驚嘆の声を上げました。結論を言えば、金正日氏は恐ろしい戦略家と言えるでしょう」と語っている。

 「戦争によって北朝鮮を屈服させること」が現実的でないとすれば、われわれは、この「恐ろしい戦略家」と付き合わなければならない。「核の傘」論とか「日本核武装」論とかを振り回している日本政府や右翼勢力は、金正日に核開発の絶好の論拠を与えてやってるようなものだ。「非核の日本」の立場を名実ともにつらぬいてこそ、北朝鮮の非核化を道理をもって主張し、推進することができるのだ。

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