プロメテウスの政治経済コラム

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中東和平アナポリス会議   前進を期待したいが、成功する望みは淡い?

2007-11-29 19:04:19 | 政治経済

事前の悲観論に比べれば、やや前向きの合意文書ができた。イスラエルとパレスチナの数十年にわたる紛争に終止符を打とうという中東和平国際会議が、米東部のアナポリスで開かれ、7年半ぶりに和平交渉が再開されることになった(「産経」2007.11.29 02:30)。中東和平は世界の誰もが願うことであろう(もっとも不安定が儲けに結びつく軍産複合体などの例外はあるが)。和平への前進を期待したいところだが、アナポリス会議の内実はセレモニーを超えるものではない。「米国は和平プロセスに積極的に関与し、彼らを助けていく」というブッシュ大統領の言明は、障害を作り出すことがあっても交渉進展の助けにはならない。

アナポリス会議には、約50の国と国際機関の代表が参加。閉会にあたりライス国務長官は、サウジアラビア、シリア、レバノンの出席を評価。アラブ諸国の中東包括和平構想(アラブ和平案)に言及したサウジの発言を「大変重要だ」と述べ、シリアとレバノンの発言を、イスラエルとアラブ諸国の「包括的和平へ導く協議のステップ」だと評価した(「しんぶん赤旗」11月29日)。しかし、内実は多分にセレモニーに近い。アナポリス会議で決まったことの基本は、03年に米国、ロシア、欧州連合(EU)、国連の四者(カルテット)で合意したロードマップ(行程表)の振出しに戻ったということだけである。これは、イスラエル、パレスチナの両国の存立を目指すものであるが、そのためには、パレスチナ国家の「国境」もしくは「首都」についての問題を解決する必要がある。「国境」では、イスラエル側の入植地凍結・撤退を避けて通れないが、常にこの第一段階で行き詰まってきた。「首都」の問題は、エルサレムを2つに分割し、東エルサレムをパレスチナ人に委譲し、パレスチナ国家の首都にしてやることだが、これもイスラエルの内部調整でいつも頓挫する。

ブッシュ大統領とイスラエルのオルメルト首相、パレスチナ自治政府のアッバス議長は27日、会議開催前に三者会談を行い共同声明に合意した。声明によれば、当事者が各交渉責任者で構成する「運営委員会」を立ち上げ、第一回「運営委員会」は12月12日に開催の予定である。声明は、オルメルト首相とアッバス議長が2週間に1回会談を行い「運営委員会」の交渉を補完するとし、米国が、ロードマップの進捗状況を「監視」し、その状況次第で「平和条約」の締結の時期を「判断」するとした。三者による共同声明を発表したブッシュ米大統領は、2008年末までの「平和条約」締結を目指すとした(「しんぶん赤旗」同上)。

米国が、ロードマップの進捗状況を「監視」し、その状況次第で「平和条約」の締結の時期を「判断」するということは、カルテットやアラブ諸国の役割を無視して、米国の監視下で問題を二者間協議にゆだねるということのようだパレスチナ住民の多数が選挙で支持したハマスを除外して米国傀儡だけで、交渉を急いでも問題の解決には結びつかない。
そもそもブッシュ政権は、中東和平の「仲介者」の役割を担えるのか。
中東和平工作は、米政権が末期になると取り組む恒例行事の感はある。歴史に名を残したいためでもあろう(「産経」同上)。
ブッシュ政権は、イラクを侵略・占領し続け、中東にカオスをもたらしている元凶である。米国に「監視」される中東和平交渉が成功するとは、とても思えないイラクは中東和平アナポリス会議を欠席した。イランのアハマディネジャド大統領は早速、28日の閣議で、米国で開かれた中東和平国際会議を「失敗」と断言し「これでイスラエルの立場が強くなると思うのは間違いだ」と非難した(「日経」11月29日13:23)。

アナポリス和平会議が失敗の烙印を押されたら、中東情勢がさらに不安定化する可能性がある。パレスチナ自治政府のアッバス議長の権威は失墜し、反和平・反米・反イスラエルの姿勢をとる過激派のハマスの力が増し、ガザだけでなくヨルダン川西岸にもハマスの影響力が及ぶ可能性が強い。イスラエルの北のレバノンでも大統領を選任できない政情不安が続いており、野党の反米反イスラエルのヒズボラが台頭する可能性が高い。和平が前進することを願うが、成功する望みは低いと言わざるをえない。「イランやヒズボラ、ハマスの最近の中東での人気は、彼らが反米反イスラエルを貫いているからこその人気であり、イスラエルと和解したら人気は落ち、弱くなる。和平を何としても破壊しようとするイスラエルの右派も、誰が仲裁しようと和平には反対である」(田中宇の国際ニュース解説 2007年11月27日「集中する世界の危機」)。


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