プロメテウスの政治経済コラム

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07年度税制大綱 「海外と同等の条件に」の欺瞞性

2006-12-15 19:01:46 | 政治経済
07年度税制大綱についてFujiSankei Business( 2006/12/15)は次のようにいう。
最大の目玉は、「減価償却制度」の拡充(償却可能額の上限を撤廃)であり、さらに、来年以降の税制改正論議では、経済界が強く求める法人税の実効税率引き下げが焦点となり、企業優遇の傾向が一段と強まる見通しだ。日本経団連の御手洗冨士夫会長は、国内企業の国際競争力を強める観点から、現在約40%の水準を、欧州や韓国並みの30%へ引き下げるよう提案している。 しかし、実現には、財源として4兆4000億円程度が必要で、国民の税負担増につながる可能性がある(消費税率2%アップに相当)。 半面、企業の税軽減は、どの程度個人の給与所得に還元されるか不透明。政府税制調査会は、法人減税が家計に与える効果を分析する方針だが、来年からの定率減税撤廃で家計負担が年間で総額1兆円以上増える中、国民の反発は必至だ。 景気は、家計への成果の波及が遅れたまま減速懸念が台頭。今後、経済成長を追求する安倍政権に逆風が強まる恐れもある。

確かにこれまで、日本の「減価償却制度」は取得価額の10%が残存価額となるように償却率が設定され、通常の資産は95%が償却可能限度額であった。これを「海外と同等の条件に」するため、100%償却可能なように改めよというわけである。各年度の償却限度額は資産の残存価額だけでなく、法定耐用年数によっても大きく異なる。企業の本当の狙いは耐用年数後の残存価額が5%かゼロかに関心があるのではなく、設備投資の初期に加速度的に償却したい(大企業はたいてい定率法を採用している)、そのために償却率を大幅に引き上げたいのである。日本の法定耐用年数が他国に比べて長いのか短いのかの議論をしないで、償却可能限度額だけを問題にするのは、明らかに欺瞞である。そもそも残存価額を問題にすること自体、法定耐用年数が実際の資産の寿命より、大幅に短いということを証明しているようなものである。

実効税率の表面だけを取り上げ、欧州各国の35%前後やアジア途上国の30%前後に、日本の法人実効税率(現在約40%)を引き下げよという要求もきわめて欺瞞的である。税理士の関本秀治さんは「日本の大企業の法人3税(法人税、法人住民税、法人事業税)の実際の負担率は、数々の大企業優遇税制の結果、すでに32%とか33%とかになっています。それを知っていながら引き下げを要求する財界は、とんでもない」と批判する(「しんぶん赤旗 日曜版」2006年12月10日号)。税率の議論をする場合、表面の税率だけでなく、企業が税引前利益に対して実際にいくらの税負担をしているかで見なければならない。日本の大企業は、租税特別措置法などで多額の減税恩典を利用しているからである。
日本を代表するトヨタ、キャノン、松下電器の法人3税の実際負担率の推移は次のとおりである。
[トヨタ]40・9%(02年)→31・3%(03年)→33・9%(04年)→32・1%(05年)
[キャノン]42・0%(02年)→33・6%(03年)→36・3%(04年)→33・4%(05年)
[松下]6・9%(02年)→8・9%(03年)→7・3%(04年)
松下電器は01年までの繰越欠損金を活用し各年度の税負担をきわめて低率に平準化している。05年の税引前利益は△27億円だが、93億円の納税となっている。いわゆる有税による特別損失を計上してものと思われる。

日本の企業の公的負担(法人所得税+社会保険料事業主負担)は、欧州諸国と比べてきわめて低いこと(約半分から8割)は、経済産業省の資料からも明らかである。そのうえ、非正規社員の処遇など労働法制の厳しさは、欧州諸国とは大違いである。そこで、最近財界、本間税調会長などは、アジア諸国と比較することもひとつのポイントなどと言い出している。外国企業の誘致を産業政策としている途上国並みにしてくれとは開いた口がふさがらない。
日本の大企業が社会的責任も果たさず、好き勝手をいうのは、日本の労働者が怒らず、おとなしいからである。

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