プロメテウスの政治経済コラム

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野中氏「日中、尖閣棚上げ」を確認  なぜ、領土問題が繰り返されるのか

2013-06-04 21:18:45 | 政治経済

野中広務元官房長官を団長とする超党派の訪中団が3日、北京で劉雲山政治局常務委員と会談した。野中氏は会談後の記者会見で、1972年の日中国交正常化交渉の直後に田中角栄首相(当時)から「両国の指導者は尖閣諸島の問題を棚上げすることで共通認識に達した」と直接聞いたと、劉氏に伝えたことを明らかにした。これに関連し、菅義偉官房長官は4日午前の記者会見で「尖閣諸島が我が国固有の領土であることは歴史上、国際法上も疑いはない。解決すべき領有権の問題はそもそも存在しない。棚上げや現状維持を合意した事実はないし、棚上げすべき問題も存在しない」と反論した。
しかし、解決すべき領土問題は本当に存在しないのだろうか。なぜ、戦後60年以上も経っていまだに領土問題が繰り返されるのか。それは、サンフランシスコ平和条約で解決すべき領土問題が、すでに冷戦が始まる中、中国も朝鮮も講和会議に出席しないままアメリカ主導で処理され、未解決のまま残されたからである

「日本は、中国から窃取した中国東北(満州)や台湾などの島を返還すると規定したカイロ宣言(43年)を確認したポツダム宣言を履行する必要がある」と言うのが、中国政府の立場である。しかし、サンフランシスコ平和条約は、第二条で<日本国は、台湾及び澎湖諸島に対するすべての権利、権原及び請求権を放棄する>としたが、第三条で<北緯29度以南の南西諸島(琉球諸島及び大東諸島を含む。)>は米軍の事実上の軍事占領下の領域とされた。蒋介石政権は、講和会議当時、尖閣諸島の領有権を米国側に申し入れたが、握り潰された。よく日本の政府やマスコミの解説の中で、日本共産党も含めて、中国が領有権を主張しはじめたのは、東シナ海でエカフェの調査により石油が出る可能性があることがわかった1970年代からだと言われているが、それはウソである。中国は1951年のサンフランシスコ講和会議で文書を出して尖閣諸島について領有権を主張していたのである(ジョン・ダワー・マサチューセッツ工科大名誉教授の「朝日」2012年10月30日インタビュー参照)。結局、アメリカの圧力を受けて、尖閣諸島は中国の同意のないまま、北緯29度以南の南西諸島の一部として米軍政下におかれ、沖縄返還後は、日本の施政権下に含まれることになったのだ

 

石原前東京都知事が、尖閣諸島の購入を言い出した時、個人所有の三島(魚釣島、北小島、南小島)だけを購入対象にしたのは、久場島(個人所有)と、国有地の大正島は、今も米軍の管理下にあるからである。海上保安本部の文書によれば、これら二島は「射爆訓練場」として米軍に提供され「米軍の許可」なしには日本人が立ち入れない区域になっている。これら二島での米軍の訓練は、実は1979年以来30年以上にわたり全く行われていなという。にもかかわらず歴代政権は、久場島の返還を要求するどころか、高い賃料で借り上げて米軍に提供するという「無駄な行為」を繰り返してきた。ちなみに、2010年9月に中国漁船が巡視船に体当たりしたのが、この久場島海域であった。事件当時、同島を管轄する米軍はいかに対応したのであろうか。果たして、米軍は、日本のために何かして呉れたのだろうか。

 

米国は、尖閣諸島の帰属のありかについて、施政権が日本にあることを認めるが、領土主権については頑なに「中立の立場」をとっている。久場島と大正島の二島を訓練場として日本から提供されていながら、その立場は変わらない。そして、日本政府も、その理不尽な米国の態度を黙認している。日本政府は一貫して「尖閣諸島は日本固有の領土であり、領土問題などは存在しない」と主張しながら、米国が、1971年に中国が公式に領有権を主張して以来、尖閣諸島について事実上「領土問題は存在する」との立場をとり続けてきていることに異論を挟まない。私は、サンフランシスコ平和条約で、冷戦の都合上とは言え、中国の同意のないまま、北緯29度以南の南西諸島の一部として尖閣諸島を米軍政下においてきたことに負い目があるためだろうと思っている。是非、現代史の専門家のご意見を聞きたいものである。


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