プロメテウスの政治経済コラム

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米兵少女暴行事件  なぜ日本における米兵犯罪が数も多く凶悪なのか

2008-03-01 20:45:11 | 政治経済
米軍が駐留するところ、犯罪は付き物である。2月25日の「毎日」で欧州総局の町田さんが書いている。欧州では沖縄の中学生暴行事件のような事件を聞いたことがないと思っていたが、欧州でも同種の事件があるはずだとの読者の指摘を受け、いろいろと調べたという。たしかに、イギリス、ドイツ、ポーランド、イタリアで同種の事件が起きたことがあった。だが、米兵犯罪はまれであり、米軍人の評判が良いというイギリスの地元紙記者の話を紹介している(発信箱:欧州の米兵事件=町田幸彦「毎日」2月25日)。
米兵の行動には日欧で明らかに違いがある。なぜ日本における米兵犯罪が数も多く凶悪なのか。

沖縄では、1995年に米海兵隊員三人が小学生の女児に暴行する事件が発生。日米地位協定の抜本改定や米軍基地の整理・縮小を求める県民あげての抗議行動に発展した。しかし、政府は地位協定の改定を拒否し、「運用改善」ですませてきた経緯がある。その後も、米兵による事件・事故は後を絶たず、本土復帰後の73年以来、沖縄だけで米兵による犯罪は五千数百件にのぼる。そのうち実に9割が海兵隊によるものである。
日本における米兵犯罪が数も多く、凶悪なのは、海兵隊が師団規模で駐留しているのは世界では日本だけだというというのが、その第一の理由である。今回の沖縄の事件も海兵隊員の犯行であった。海兵隊員に凶悪犯罪が多いのは海兵隊の属性そのものに原因がある。海兵隊というのは、駐留先の国を守るための軍隊ではなく、駐留先を拠点として侵略の殴り込みをする軍隊だ。日本の防衛に海兵隊は無用である。日米安保を必要と考える人々も海兵隊の撤退は共通の要求となるものだ。

米兵の行動に日欧で明らかに違いがある第二の理由は、政府の態度である。
ヨーロッパの政府には、駐留米兵の犯罪についての統計はないという。米軍による犯罪がゼロではないのだが、自国民による犯罪と区別して対応するものとしては、明確にはとらえられていない。米兵を特別扱いにする意識がないのだ。たしかにヨーロッパに駐留する米軍の裁判の仕組み(NATO軍地位協定)も日米地位協定と同じく、公務中の犯罪か公務外の犯罪かで分類し、前者はアメリカが、後者は駐留国が裁判権を行使することとなっている。同じように米軍が駐留し、その裁判に関する取り決めも同じ。なのに、犯罪の実態が異なる。それはなぜなのだろうか。

10年ほど前に米軍機がイタリアで起こしたロープウェイのケーブル切断事故がイタリア国民の憤激の対象となった。地位協定ではアメリカが裁判をすることになっていた。だが、イタリア政府は、何回にもわたってアメリカに抗議し、自分たちで裁判をしたいと要求した。法律の定めだから、アメリカが裁判するという結論は変わらなかったが、プレッシャーをアメリカに与え続けた。そしてアメリカの裁判の様子が大きく報道されていたという(松竹伸幸「米兵犯罪の日欧比較」―Blog「編集者が見た日本と世界」より)。
77年の横浜ファントム墜落事件の際、当時の共産党の山中郁子議員が、公務中の事件、事故でアメリカ側がどういう裁判をおこなったのか明らかにせよと迫った。ファントム事件のパイロットがアメリカに逃げ帰ったのだから、厳正に裁判をさせなければならないと考えたからだ。ところが、外務省の答弁は、52年以来、公務中の事件、事故ではアメリカは一度も裁判を開いていないということだった。沖縄の少女暴行事件があったので、95年、同じく共産党の聴濤議員が同様の質問を行った。そうしたら、外務省の答弁は、またしても一度も裁判は開いていないというものだった。52年以来、4万7千件以上の事件、事故が公務中に発生し、517人が死亡しているというのにだ(松竹 同上)。

法的な形式が問題なのではない。法的な建前と政治の力関係がぶつかりあう世界では、政治の力を発揮しようとしない国は、力の大きな国に屈してしまう。米兵の犯罪が起きても、日本政府は、「地位協定の改定は必要ない」と、つねにアメリカに屈服してきた。18日の衆院予算委員会で共産党の赤嶺議員が「『占領意識』とは、どういうことかわかるか」とただすと、高村外相は「見下しているということがあったら問題だが、米軍全体にあるとは承知していない」と米軍を擁護するしまつである。米兵は、日米関係が対等でないことを、肌で感じ取っている。何があっても、アメリカの意向に従う日本政府の態度が続く限り、日本における米兵犯罪はなくならない。

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