プロメテウスの政治経済コラム

プロメテウスは人間存在について深く洞察し、最高神ゼウスに逆らってまで人間に生きる知恵と技能を授けました。

行革推進法 やるべき「行革」・やってはならない「行革」

2006-04-05 15:50:26 | 政治経済
小泉内閣が今国会の「最重要法案」と位置付ける「行政改革推進法案」の審議が、3日の衆院行政改革特別委員会で本格化しました。行革推進法案は政府が昨年末に閣議決定した「行政改革の重要方針」をベースとして、公務員総人件費削減、政府系金融機関改革、独立行政法人の見直し、特別会計改革、国の資産・債務削減-を五本柱としています。 簡素で効率的な行政府を目指すことは、当然の目標ですが、それには主権者である国民が必要とする公共サービスが十分に提供されることが、大前提になります。逆に戦後の日本型開発主義国家のもとで肥大化した「政・官・業」癒着構造こそ改革・解消されなければなりません。

日本国憲法第15条1項は「公務員を選定し、及びこれを罷免することは、国民固有の権利である」と規定し、 公務員選定・罷免権が基本的人権の一つとして国民固有の権利と宣言しています。すべての国家や地方の機関(公務員)は、国民や住民の信託によってその権限を行使するのであるから、憲法第15条2項の「公務員は全体の奉仕者」でなければならないのです。

国民の立場からは、行政改革は次のような観点でおこなわれるべきでしょう。
第一に、憲法の理念にそって、主権者たる国民の意思が尊重され、時代と社会の状況に応じたナショナル・ミニマムの確立などで基本的人権の実現をめざす「民主・公正・効率的な行政」の確立を目的にすること。
第二に、行政の担い手としての公務員労働者にも基本的人権を保障し、国民全体に奉仕できるように行政内部からの民主化も同時にすすめること。
第三に、行政改革は、中小企業をふくむ業者団体、農民・漁民団体、労働組合、市民・消費者団体など、広範な国民諸階層の意見が個別の具体的法案に十分に反映できるよういおこなわれること。審議会などを隠れみのにした財界・政府・官僚主導の行革推進を改めること。

政府の行革推進法案は、国と地方の公務員の大幅削減を通じて行政サービスを切り捨て、中小企業向け政策金融を縮小するなど、「やってはならない行革」を進めようとしています。

軍事や公安警察、高級官僚の天下り機関などはただちにメスを入れるべき「やるべき行革」です。 国家公務員についていえば、現在、国が給与を払う61万5千人(定員)のうち一番多いのは、自衛官で25万2千人、41%を占めます。スパイ活動などが任務の“日本の秘密警察”ともいうべき公安調査庁には1千500人がいます。
ところが、小泉内閣が削減しようとしている標的は国民生活に密接な出先機関です。出先機関とは、例えば労基署や公共職業安定所、食品安全の検査体制です。不安定雇用や劣悪な労働環境が拡大し、食品安全への不安が強まっているもとで、これらの機関は、ますます重要になっています。いのちと安全に深くかかわる気象台や海上保安本部も削減の対象にしているのです。

法案は地方公務員の削減について、「地方公務員の配置に関し国が定める基準を見直」し、4・6%以上の純減を明記しています。国が基準を定めている対象は教育、警察、消防、福祉関係の地方公務員であり、まさに国民生活に直結した分野です。約三百万人の地方公務員のうち、二百万人が該当します。憲法にもとづくナショナル・ミニマムの責任を果たすため、国で最低限の配置基準を設定しています。
「30人学級」を実現するには、新たに11万人の教職員が必要です。消防職員は基準の75・5%にとどまり、五万人も不足しています。コンビナートの大火災が発生すれば、まったく対応できません。労働基準監督官は2859人に過ぎず、毎日1事業所を回っても全事業所を回るのに4・2年かかります。下請けいじめを監視し是正させる下請け代金検査官は専任が46人で、毎日1社回っても6年かかります。航空・鉄道事故を防ぐためのスタッフ、原子力や食品の安全を監視するスタッフも他の先進国と比べてきわめて貧困です。

日本の公務員の数は、けっして多いとはいえません。単純比較ですが、人口1千人あたり、仏96・3人、米80・6人、英73・0人、日35・1人と、先進国の中で最低の水準です。欧米では少人数学級が当たり前なのに日本の国基準は「四十人」学級のままです。このような行政サービスの格差が数字に反映しています。



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