プロメテウスの政治経済コラム

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TPP交渉参加、15日に正式表明へ   半主権国家の悲しい選択

2013-03-14 18:59:08 | 政治経済

自民党のTPP(環太平洋パートナーシップ協定)対策委員会総会が昨夜(2013年3月13日)に開かれ、反対意見もなく党として交渉参加を容認する決議を採択した。安倍首相は、15日にTPPの交渉参加を表明する予定で、合わせて、甘利経済再生担当相をTPP担当相に起用する方針を固めた。先月(2月22日)の日米首脳会談の結果、こうなることはわかっていた。財政の崖に直面するオバマ第二期政権にとって、米国経済を立直し、軍事費の負担を転嫁する相手として従属国日本の協力が欠かせないからである。安倍首相にTPPが「聖域なき関税撤廃かどうかという感触を得ることができるかが、会談における最大の課題」と言わせ、その感触を与えてやることは、すべて計算済みであった。「日本が交渉に入るのを、政治的により容易にする為、恐らくアメリカ合州国が日本に提供することができるものがいくつかありそうだ。こうしたものの中で、最も重要なものは、最終的な協定では、米等いくつかの例外が認められるだろう、という理解だろう」(2012年8月24日付け 米国議会図書館議会調査局文書)。この点を日米共同声明では、「日本には一定の農産品、米国には一定の工業製品というように、両国ともに二国間貿易上のセンシティビティーが存在することを認識しつつ、両政府は、最終的な結果は交渉の中で決まっていくものであることから、TPP交渉参加に際し、一方的に全ての関税を撤廃することをあらかじめ約束することを求められるものではないことを確認する」とした。しかし、考えてみれば、日米の交渉ごとで日本の主張が通ったことがあるのだろうか。オスプレイがあらかじめ定めた飛行ルールを無視して好き勝手に日本の空を飛び回っている事実を持ち出すまでもなく、日本と米国とは対等の関係にはない。「あらかじめ約束」はしなくとも、「結果として」すべての関税を撤廃することになるなら、意味は同じだ。

 

自民党は、先の総選挙で、TPP参加について、次の6項目を公約した。

①    「聖域なき関税撤廃」を前提にする限り交渉参加に反対。

②     自由貿易の理念に反する自動車等の工業製品の数値目標は受け入れない。

③     国民皆保険制度を守る。

④     食の安全安心の基準を守る。

⑤     国の主権を損なうようなISD条項は合意しない。

⑥     政府調達・金融サービス等は、わが国の特性を踏まえる。

自民党が総選挙で掲げた公約6項目をすべて満たすとすれば、そんなTPP協定そのものは、もはやTPP協定ではない要するに自民党公約とTPP協定はもともと両立しないのだ

日米共同声明は、今後、交渉で日本を屈服させることを前提に、「あらかじめ約束することを求められるものではないことを確認する」と言いながら、「両政府は、日本がTPP交渉に参加する場合には、全ての物品が交渉の対象とされること、及び、日本が他の交渉参加国とともに、2011年11月12日にTPP首脳によって表明された「TPPの輪郭(アウトライン)」において示された包括的で高い水準の協定を達成していくことになることを確認する。」と釘をさし、「両政府は、TPP参加への日本のあり得べき関心についての二国間協議を継続する。これらの協議は進展を見せているが、自動車部門や保険部門に関する残された懸案事項に対処し、その他の非関税措置に対処し、及びTPPの高い水準を満たすことについて作業を完了することを含め、なされるべき更なる作業が残されている。」と念を押した。

「TPPの高い水準を満たすことについて作業を完了」せよ、と言いながら、米国が強い関心を持つ自動車と保険についてのみ、「残された懸案事項に対処」と特記し、米国は、自動車関税の撤廃に抵抗するが、日本の保険部門については、「健全で透明な規制環境」を求めていることを闡明にしている。

 

東京新聞は7日付夕刊で、2011年11月にTPP交渉参加を表明し、12年6月に参加が承認されたカナダとメキシコについて、米国など交渉を始めていた9カ国から極めて不利な条件を承諾したうえで参加を認められていたことを暴露した。その条件とは、(1)先行交渉9カ国が合意した条文はすべて受け入れ、9カ国が合意しない限り、再協議は行わない(2)将来、ある交渉分野について9カ国が合意した場合、拒否権を有さず、その合意に従う(3)交渉を打ち切る権利は9カ国にあり、遅れて交渉入りした国には認められない―というものだ。カナダとメキシコはこれらの条件を「念書」で承諾し、昨年6月、交渉参加を認められたのだ。この重大事実は野田政権時代にすでに把握されており、昨年12月の政権交代時点で安倍政権も確認していたとされている。国民にこのような重大事実を知らせずに、安倍政権はTPP交渉参加を強行しようとしている。自民党の対策委員会が「聖域(死活的利益)が確保できないと判断した場合は、脱退も辞さないものとする」と求めても、それも認められない可能性が高いのだ。

TPP  はひと言で表現すれば、「米国の米国による米国のための仕組み」である。米国は日本市場を侵食するために、これまで25年にわたる取り組みを続けてきた。最初は1989年発足のブッシュ父政権だ。SII=日米構造協議と呼ばれた構造改革の協議が行われた。日本の諸制度を変革して米国資本が日本市場で活動できる環境を整えようとした。1993年のクリントン政権発足後、年次規制改革要望書が作成され、内政干渉の指令書としてこの文書が米国から日本に提示されてきた。クリントン政権は「協議」では結果が得られないとして、「数値目標」の設定を強く求めた。2009年の鳩山政権の発足後、「年次規制改革要望書」は撤廃された。しかし、その代わりとして「日米経済調和対話」と呼ばれる新しい文書が作成された。名称をリニューアルしたものである。これと同時に米国が立ち上げたのがTPPである。TPPは日本の諸制度改変のための新しい策謀なのである (「植草一秀の『知られざる真実』」2013年2月20日 )。

 

自民党と安倍政権は「日本を取り戻す」と喧伝するが、安倍政権が発足して「日本を取り戻す」ことに全力を挙げているのは、米国である。自民党と安倍首相は、「日本を取り戻す」のではなく「日本を売り渡」そうとしているのだ。半主権国家の運命と諦めるには、あまりにも悲しすぎるではないか!


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