プロメテウスの政治経済コラム

プロメテウスは人間存在について深く洞察し、最高神ゼウスに逆らってまで人間に生きる知恵と技能を授けました。

イラク宗派間対立の激化は米国の策略か

2006-03-07 20:08:30 | 政治経済
イラク中部サマラで2月22日に何者かが同国のイスラム教シーア派の四大聖廟の一つ「アスカリ聖廟」を爆破して以降、全土でこれへの報復を含む攻撃が多発し、宗派間の対立が激化しています。誰が何の目的で爆破を仕掛けたのか。「内戦の危機」とか「地獄の扉をあけた」という報道はあっても、犯人像についての情報は余り伝わってきません。フリーの国際情勢解説者・田中 宇さんは、最近のイラク情勢を分析した結果「イラク軍と米軍は、爆弾を仕掛ける作業が行われているのを知りながら黙認したか、もしくは彼らが爆弾を仕掛けたということになる」と推論しています(田中宇の国際ニュース解説「イラク・モスク爆破の深層」2006年3月3日)。

「アスカリ聖廟」のあるサマラは、イラクの中でもスンニ派が多い「スンニ・トライアングル」の中に位置しています。米軍はすでに何回も「スンニ派ゲリラ掃討」と称してサマラを包囲攻撃しており、スンニ派の方も米軍に対して反撃し続けてきましたが、この間、アスカリ・モスクはずっと無傷で、スンニ派がこのシーア派のモスクを攻撃するようなことはありませんでした。
アスカリ・モスクが爆破された際の手口について爆破後、現場を視察したイラクの建設大臣は、「ドームを支える大黒柱に爆弾用の穴を開ける作業には、1本あたり4時間はかかる」「爆破によってドームが確実に崩れ落ちるよう、爆弾を仕掛ける方向を工夫してあり、軍事のプロの仕業である」と述べています(田中さんは次のようにコメントしています「爆破された後のモスクの写真を見ると、ドームが見事に全部なくなっており、ものすごい破壊力だったことが分かる。モスクは通常、何百年ももつよう頑丈な建て方になっているので、これほどの破壊は、モスクの隅の方に爆弾を隠して無線で爆破するぐらいでは実現できない。建設大臣が言うとおり、爆破のプロの指導によって柱に穴を開けて爆弾を仕掛けるやり方でないと、実現できないだろう」)。
サマラは以前から米軍に包囲攻撃され続け、ずっと夜間外出禁止令が出され、米軍傘下のイラク軍(イラク国家防衛隊)の兵士が、夜間パトロールを毎晩していたのに、夜中に何時間もモスクの中で大きな音を立てて柱に穴を開ける作業が無事に続けられたのは不思議です。午後11時ごろから、外出禁止令が解除される翌朝6時まで、イラク兵とアメリカ兵の部隊が、モスクの前にずっと駐留していたというモスクの近所の人の証言もあり、田中さんのアメリカ謀略説はかなりの説得力があります。

「中東民主化で米国はより安全になると政府は言うが、現実は逆ではないか」。2月15日開かれた米上院外交委員会の公聴会で、与野党双方の議員からブッシュ政権の外交に対する批判が噴出しました。ブッシュ政権の中東「民主化」政策はイラクの失敗だけではなく、パレスチナのハマス、イランのアハマディネジャド大統領の勝利などに見られるように反米強硬派を次々と生み出しています。
多くのイラク人は、諸悪の根元は米軍の占領であると感じて始めています。米国の「世界世論」の調査(1月)によれば、イラク国民の70%(シーア派の71%、スンニ派の94%)は、新政権が米軍を撤退させることを求めています。「6カ月以内の全面撤退」と「二年間に段階的撤退」が半々で、「6カ月以内の撤退」の場合に暴力的攻撃が減ると答えたのは、64%にのぼりました。現地からは、「聖廟の破壊を許した占領軍も敵だ。出て行ってもらいたい」(シーア派のサドル派幹部)と、外国テロ組織などに策動の場をつくりだし情勢悪化を招いた米・占領軍の撤退を求める動きが伝えられています。

シーア派最大派閥のサドル師は最近、イランやシリアを訪問し「イランやシリアと力を合わせ、中東を分割占領し続けたい米英イスラエルと戦う」と表明。「反米・イスラム主義」による3カ国連携の動きを見せています。これは、アメリカの中枢で、イラクを傀儡化しておきたいと思っている勢力にとっては、非常に都合が悪い。サマラのモスク爆破は、まさにそんな状況下で起きました。あの爆発が誘発したものは、スンニとシーアの殺し合いであり、これはサドル師が画策しているイラク内部の結束の動きを阻止する狙いそのものです。民衆を分断し敵対させることは、支配者の常套手段です。

大義のない戦争で理不尽な犠牲を強いられたイラク国民の米・占領軍に対する奥深い怒りが蓄積されてきました。三年前には戦争支持に傾いた米国民の世論も「戦時体制」の重圧が続く中で大きく変っています。

米・占領軍の撤退こそが、現地でこれ以上の敵意と情勢悪化を引き起こす危険を除去する確かな道です。



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