プロメテウスの政治経済コラム

プロメテウスは人間存在について深く洞察し、最高神ゼウスに逆らってまで人間に生きる知恵と技能を授けました。

憲法九条の規範力―「歯止め」としての役割・意義

2006-05-03 21:51:55 | 政治経済
日米安保条約の下での自衛隊の創設と増強、小泉政権下での自衛隊の海外派兵へと憲法九条の『空文化』が進んでいることは確かです。改憲派はこの事実を逆手にとって現実と乖離した憲法の権威を守るためにも憲法九条を「改正」し、自衛隊を認知すべきであると主張します。しかし、九条の「歯止め」としての役割や意義はますます大きくなっています。だからこそ、「歯止め」外しの策動が強力にかつ執拗におこなわれているのです。

きょう5月3日は59回目の憲法記念日です。自民党は昨年十月、はじめて条文化した新憲法草案を国民の前に提示し、改憲への動きを加速させています。自民党・公明党・民主党による「憲法改正国民投票法案」作成の議論も続けられています。国家の命令に従い、米軍とともにたたかう「人材」、グローバル資本主義下で日本企業を支える「人材」の育成をめざす教育基本法「改正」案は、すでに国会に上程されました。

自民党の新憲法草案は、前文から“不戦の誓い”を削り、「戦力の不保持」「交戦権の否認」の九条二項をすっぽり削除、第9条の2(自衛軍)を創設し、「自衛軍」を持つと明記しました。侵略戦争への反省とアジアや世界への平和宣言を公然と投げ捨てたのです。何故か。

自衛隊は、現行憲法上「自衛のための必要最小限限度の実力組織」であり、「戦力」ではありません(内閣法制局の公式見解)。
その結果、次の結論がでてきます。
第一「いわゆる海外派兵、武力行使の目的を持って武装した部隊を他国の領土、領海、領空に派遣することは、自衛のための必要最小限度を超えるものであり、憲法上許されない」
第二「集団的自衛権は、憲法九条のもとで許容されているわが国を防衛するための必要最小限限度を超えるものであり、憲法上許されない」
第三「国連の平和維持活動を行う国連軍についても、その国連軍の目的・任務が武力行使を伴うものであれば、これに参加することは許されない」

小泉政権は自衛隊をイラクに「派兵」ではなく「派遣」しました。イラク特措法第二条には「対応措置の実施は、武力による威嚇又は武力の行使に当たるものであってはならない」「活動の期間を通じて戦闘行為が行われることがないと認められる地域において実施するものとする」という文言が織り込まれました。

逆に、憲法に「自衛軍を保持する」と書き込むということは、上記の三つの「歯止め」を外し、海外派兵、集団的自衛権の行使、国連軍への参加、どんな形であれ海外で武力を行使することを可能とするということです。

アーミテージ前米国務副長官は日本が「地球規模の役割を果たすために憲法九条を変えよ」と求めました。ジェームズ・アワー元米国防総省日本部長は、「米軍再編」に関連して「現在の日本政府の集団的自衛権に関する政策を変えざるをえない。…合意を履行できないとなると、日米安保は危機を迎える」と明言しました。
自民党新憲法草案第9条の2③は日本防衛のほか「国際社会の平和と安全を確保するために国際的に協調して行われる活動」すなわちアメリカの手下として共同軍事活動を行うことを明記しています。

税金だけでなく、日本の若者の命をアメリカに差し出す憲法九条の「改正」を絶対にやってはなりません。
憲法第九条は、厳然と存在するだけで、自分たちの利益を守るために庶民を戦争へ動員しようとする特権階級の野望を阻止する「歯止め」の役割を果たしており、21世紀に生きるアジアや世界の人々の希望の星なのです。


【自民党新憲法草案】第9条の2(自衛軍)
①我が国の平和と独立並びに国及び国民の安全を確保するため、内閣総理大臣を最高指揮権者とする自衛軍を保持する。
②自衛軍は、前項の規定による任務を遂行するための活動を行うにつき、法律の定めるところにより、国会の承認その他の統制に服する。
③自衛軍は、第1項の規定による任務を遂行するための活動のほか、法律の定めるところにより、国際社会の平和と安全を確保するために国際的に協調して行われる活動及び緊急事態における公の秩序を維持し、又は国民の生命若しくは自由を守るための活動を行うことができる。
④前2項に定めるもののほか、自衛軍の組織及び統制に関する事項は、法律で定める。





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