プロメテウスの政治経済コラム

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労働契約法案  どこが問題か

2007-11-27 18:38:22 | 政治経済
労働関連2法案(最低賃金法改定案と労働契約法案)が27日の参院厚生労働委員会で可決される予定である。いずれも政府の改定案を自・公の与党と民主党が共同で修正、賛成多数で衆院を通過(8日)させたものである。日本共産党は、最賃法改定案は抜本的な引き上げにつながらないとして反対。労働契約法案は使用者が一方的に労働条件を引き下げるしくみをつくるものだとして反対した。社民党は労働契約法案のみ反対した。

労働契約法案のどこが問題か?
最大の問題点は、労働契約の一方の当事者である使用者だけで定める「就業規則」によって契約内容を一方的に変更できる条項を設けていることである。法案は「労働者と合意することなく、就業規則を変更することにより、労働条件を不利益に変更することはできない」(9条)とした上で、労働条件の変更が「合理的」なものであれば、「就業規則」によって変更できるとする(10条)。労働契約は、労使対等の立場で締結するといっても、少数の使用者と圧倒的多数の労働者がとりわけ雇われる以外に生きていけない労働者が経済的現実において対等であるはずがない。労働法は、強い立場の使用者の横暴を抑えてその不平等を補うためにある。
ところが、自・公の与党と民主党が共同で修正した労働契約法案は、就業規則(労働者の合意がなくても使用者が定める)を使って労働契約の内容を変更できるという。強い立場の使用者が一方的に変更できるということは、近代ブルジョア社会の契約法原理にさえもとるものだ。

何故こんなことになるのか?労働条件が, 従業員にとって不利に変更された場合, あるいは不利な条項が作成された場合, その不利に変更された就業規則に明確に反対している従業員をも拘束するのか?
就業規則それ自体には法的な拘束力はなく, 従業員の同意があってはじめて拘束力が生じるとする「契約説」からすれば、不利益条項の新設や既存条項の不利益変更は, 従業員の明示または黙示の同意がなければ従業員を拘束しないということになり, 一部の従業員が反対している場合は, その従業員には新しい就業規則を適用できないということになる。
ところが、使用者と労働者が合意して結ぶべき労働契約にもかかわらず、労働者の合意がなくても、変更の程度などから合理的であれば就業規則によって変更できるというのがブルジョア社会の司法判断である。労働契約法案について、青木豊労働基準局長は、労使合意の原則を9条で謳ったうえで、「判例法理」を法文(10条)化しただけで、「合意原則と齟齬はない」という。

最高裁は, 秋北バス事件 (最高裁大法廷昭 43. 12. 25 判決, 最高裁判所民事裁判例集 22 巻 13 号 3459 頁―これまで主任以上の地位にある従業員には定年制が定められていなかった会社において, 就業規則を改正して 55 歳定年制を新設し, すでに定年年齢の 55 歳に達していた主任以上の地位にある2人の従業員を, 新・就業規則の定めに基づいて解雇したことの当否が争われた事件) の判決において, 就業規則の法的性質についての見解を説示した後, 以下のような独自の見解を示した。 「おもうに, 新たな就業規則の作成又は変更によって, 既得の権利を奪い, 労働者に不利益な労働条件を一方的に課することは, 原則として, 許されないと解すべきであるが, 労働条件の集合的処理, 特にその統一的かつ画一的な決定を建前とする就業規則の性質からいって, 当該規則条項が合理的なものであるかぎり, 個々の労働者において, これに同意しないことを理由として, その適用を拒否することは許されないと解すべき」 である。
使用者による就業規則の変更による労働条件の一方的な不利益変更は, 契約原理からいって, それに反対する従業員を拘束し得ないのが原則だが, 変更内容に十分な必要性が認められる 「合理性」 のある変更であれば, 例外的にその変更に反対する従業員に対しても拘束力を認めるべきである―これが、ブルジョア社会の司法判断であり、青木局長のいう「判例法理」である。

ところが、今回の労働契約法案は、その「判例法理」さえ値切っている。民主党の共同修正の限界である。
最高裁の判例は「・・・不利益変更は、高度の必要性に基づいた合理性がある場合に限り、拘束力を持つ」としているのに、「高度の必要性」を単なる「必要性」に値切っているさらに最高裁の判例に盛り込まれていた「不利益変更に対する代償措置があるかどうか」や「少数組合など他の労働組合または他の従業員と協議したか」などの重しを取っ払ってしまった90年代以降の労働関連法の規制緩和は膨大な低賃金・不安定労働者を生み出した。そこへ今回「労働条件の不利益変更ができる」ことをわざわざ法律に明記することは何を意味するか労働者にとって「労働条件の引き下げ」というバックギアが取り付けられるに等しい(札幌地域労組書記長・鈴木一「労働契約法案 参院での慎重審議を望む」-「朝日」11月22日)。

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