プロメテウスの政治経済コラム

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郵政改革法案の骨子  国民福祉の増進に寄与する郵政事業へ国民的議論を

2010-03-25 19:49:04 | 政治経済
小泉純一郎元首相が「改革の本丸だ」と言って強行した郵政民営化は、小泉・竹中「構造改革」の象徴的テーマであったが、先の総選挙で「構造改革」路線の推進者・自公政権が敗退したときから、その見直し勢力が国会の多数派となった。しかし、見直し後の郵政事業がどうあるべきかについて、コンセンサスがあるわけではない。連立与党内でも意見の対立があるようで、早速、“郵政改革めぐり閣内混迷”(ロイター2010年 03月 25日 15:13 JST)などと言われている。
2007年10月から始まった郵政民営化は現状においてもさまざまな問題を露呈しており、まず破綻した民営化の検証をしっかりと行うべきであろう。その上で、国民的議論を通じて、見直しの基本方向を明らかにすべきだ。

 サービス低下や郵便局の存続をめぐり利用者・住民の不安が渦巻く中で動き始めた郵政分割・民営化。それは、小泉・竹中「構造改革」の一環であった。小泉・竹中は、郵政民営化を「官から民へ」の大号令のもと、「改革」の“本丸”“突破口”と位置付けた。彼らの背後の「仕掛け人」は、日本と米国の金融・保険業界であった。小泉・竹中「郵政分割・民営化」が、結局、持ち株会社の傘下に、郵便(郵便事業会社)、貯金(ゆうちょ銀行)、簡易保険(かんぽ生命保険)と郵便局の窓口運営(郵便局会社)の四分割になったのも、米国「年次改革要望書」(米国政府による日本改造、内政干渉)を受けてのものだった。

 郵政民営化後になにが起きたか。かんぽの宿一括払い下げなど、一部利権集団による国民的資産の私物化は記憶に新しい。昨年2~3月に全国郵便局長に出したアンケート調査によれば、「民営化後のサービスに関する苦情や不満はいまだに寄せられるか」に対して、「毎日のようにある」4・2%、「2~3日に一回程度ある」13・5%、「週に一回程度」47・5%など、いまだに7割近くの郵便局に苦情や不満が寄せられている。窓口業務だけでなく郵便物の集配、貯金・保険の集金を担い、地域の拠点局の役割を果たしている集配郵便局の統廃合によって、地域と集配局の距離が遠く離れ、遅配や誤配が増えるなど、最も基本的な郵便配達のサービスが後退している。統廃合は過疎地に集中し、民営化の痛みを地方に押し付けた。印紙税、消費税負担によって、各種手数料が値上げされ、扱い金融商品の多様化で、求められる証明者や書類等も煩雑になった。
元来の地域密着の公共機関から、利益追求の私的機関となり、ユニバーサル・サービスが破壊された。コスト削減とノルマによる“あくどい”働かせ方が蔓延し、日本郵政グループの非正規社員は約21万3千人(全体の48%)におよぶ。

 23日に明らかになった鳩山政権の「郵政改革法案」の概要によれば、日本と米国の金融・保険業界の最大の狙いであった、ゆうちょ銀行、かんぽ生命保険の全株式を外部に売却する「完全民営化」路線を転換し、政府が出資する親会社が株式の3分の1超を保有し続けることにした。また、法案の成立にあわせて政令の改正で、ゆうちょ銀行の預け入れ限度額(1人あたり1千万円)を2千万円まで、かんぽ生命の保障限度額(原則1千万円)も2500万円まで引き上げる予定である(これに対しては、民業の圧迫になると、早速、異論が出ている)。ただ、預入限度額が2000万円になっても、ペイオフ(預金の払い戻し保証額を元本1000万円とその利子までとする措置)によって保証される預金は、民間金融機関と同じ1000万円までに限られる。
郵政分割・民営化に伴い、郵便配達員が貯金の出し入れなどの通帳預かりサービスができなくなったが、このサービスは再開される見通しだ。民営化後は、地方の利用者を中心に「不便になった」との指摘が上がっていただけに、サービス再開を期待する声も聞かれる。郵便局の公的機関としての役割を高め、新規業務としてパスポートの発給や年金記録の確認、介護相談などが検討されている。最寄りの郵便局で行政のワンストップサービスを受けられれば、利用者の利便性は高まるだろう。

朝日」3月23日付より

 政府が出資する親会社が株式の3分の1超を保有し続けるというが、株式会社制度のもとで「公益と収益性を両立させる」ことが本当にできるのだろうか。ユニバーサル・サービスの義務付けと株式会社形態は矛盾しないか。公共の福祉の増進を大目的とするのであれば、公的企業体―公社形態が論理的には首尾一貫する。
日本の財政赤字は、ギリシャやポルトガル、スペイン以上なのだが、国際金融市場で問題化しないのは、ゆうちょやかんぽなどの国内貯蓄資金で国債をまかなっているからである。これが、米国の金融・保険業界の食い物にされったら大変だ。国民本位の郵政改革はどうあるべきか。国民的な議論が必要だろう。

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