プロメテウスの政治経済コラム

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安倍内閣3カ月―危うさと冷酷さと頼りなさ―支持率低下は必然

2006-12-26 19:23:12 | 政治経済
政界入りしてわずか13年で、安倍が自民党総裁になり、日本の首相にまでなれたのは、何故か。俵義文(子どもと教科書全国ネット21事務局長)氏は、五つの理由があるという(『前衛』2007・1 No.813)。第一には、自民党の中で極右政治家、歴史を歪曲する政治家として育てられ、90年代以降の自民党(及び自民党を中心とした超党派)の右翼的な議員連盟(「歴史・検討委員会」に始まって「歴史教育を考える議員の会」、「日本会議国会議員懇談会」、「神道議連」、「靖国議連」、「改憲議連」、「拉致議連」など)のすべてに所属し、なおかつそれらの議員連盟の中で要職について活動してきたことが高く評価されたこと。第二には社会の右傾化を反映して自民党内で「歴史教育議連」や「日本会議議連」などのメンバーが多数をしめるようになったこと。第三には、安倍の血筋のよさである。祖父岸信介、父晋太郎、大叔父佐藤栄作、佐藤家は吉田茂元首相と遠縁に当たる。二世、三世ひしめく自民党にあっても、毛並みの良さは群を抜いている。第四には、2002年9月以来の北朝鮮拉致問題である。日本国内の「北朝鮮」批判の世論に乗って、安倍は対「北朝鮮」強行発言を繰り返し、「闘う政治家」を印象付けた。第五には、自民党の若手議員のなかで群を抜く集金力である。安倍総裁は、総務省、地元山口県選管などに七つの政治団体をとどけており、政界10位以内の集金力である。

安倍内閣の支持率の低下は、安倍内閣の「危うさ」と「冷酷さ」と「頼りなさ」が国民の間で徐々にわかってきた結果だと考えられる「危うさ」という点は、歴代内閣で初めて期限を区切って改憲を打ち出したことや教育基本法の改悪案を乱暴なやり方で通した姿勢に表れている。「冷酷さ」という点では、「ワーキングプア」という、働いても働いても豊かになれない階層が四百万世帯を超えて広がる実態がある中で、庶民には増税・負担増を続けながら企業にはいっそうの減税の方向を打ち出し、「再チャレンジ」などという中身のはっきりしないもので誤魔化そうとしている。「頼りなさ」という点では、官邸機能の強化のために発足したはずのいわゆる「チーム安倍」の腰がいまだに定まらず、タウンミーティングの「やらせ問題」や郵政造反議員の自民党への復党問題で指導力を発揮できず、さらに本間税調会長の辞任によって、首相の求心力にも疑問符がつきかねない情勢に直面し、これでは官邸内の士気は低下する一方である。 

ポスト小泉政権には、支配者階級からみれば、当然、小泉がやり残したことをやってもらうことになる。小泉は自衛隊を戦場であるイラクに派兵し、軍事大国化を新しい段階に引き上げたが憲法9条の頸木を断ち切ることまでは出来なかった。安倍は憲法改悪による正面突破でこの要求に応えようとしている。小泉は東アジアのリーダーシップをとることにも失敗した。安倍は、就任直後の中韓歴訪でとにもかくにも東アジア外交改善の第一歩を踏み出した。小泉は構造改革という課題で大きな「前進」をした。構造改革とは、多国籍企業を中心とする大企業が競争力をさらに強めるための既存システムの改変である。しかし、小泉は構造改革で当然起こってくる社会統合の破綻、階層間格差の拡大、貧困層の拡大を放置し、まったく何も手をつけなかった。安倍は、小泉の負の遺産を引継ぎながら、さらに構造改革を推進するという難しい課題に直面した。「再チャレンジ」や教育改革の新保守的徳目の押し付けは、小泉改革の破綻を糊塗しながら、構造改革をさらに推進する安倍なりの対応である。

安倍には、小泉のように自民党内に仮想敵をつくり、これと闘う振りをして、国民を真の敵から遠ざけながら、自己の味方に引き入れる芸当はとれない。幅が狭く、奥行きのない内閣のつらさである。軍事大国化も構造改革も特権支配階級の利益を満たすものであって、国民の圧倒的多数の利害と両立しないものであるかぎり、安倍政権の国民との矛盾の深まり、支持率の低下は必然である。小泉は誤魔化すテクニックを知っていただけである。

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