プロメテウスの政治経済コラム

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田母神空幕長問題 懲戒免職の手続きをとらない防衛省 「靖国」派の根は深い

2008-11-10 20:35:08 | 政治経済
過去の日本の侵略行為や植民地支配を正当化する論文を発表して更迭された田母神(たもがみ)俊雄・前航空幕僚長が定年退職扱いとなって退職金を受け取ったことは、11日に参院外交防衛委員会で行われる参考人招致でも焦点になりそうだ(「朝日」11月8日17時1分)。防衛省は、なぜ「非はない」と主張する田母神氏との正面衝突を避けたのか。自衛隊と大日本帝国の軍隊との区別がつかない防衛省・自衛隊の体質は、憲法9条のもとでの「防衛」政策の根幹にかかわる

田母神氏は言う。「東京裁判はあの戦争の責任を全(すべ)て日本に押し付けようとしたものである。そしてそのマインドコントロールは戦後六十三年を経てもなお日本人を惑わせている。日本の軍は強くなると必ず暴走し他国を侵略する、だから自衛隊は出来るだけ動きにくいようにしておこうというものである。(中略)諸外国の軍と比べれば自衛隊は雁字搦(がんじがら)めで身動きできないようになっている。このマインドコントロールから解放されない限り我が国を自らの力で守る体制がいつになっても完成しない。」――大日本帝国の軍隊は、統帥権が天皇にあることをいいことに政治のコントロールを排除し、暴走した。戦後、戦争責任の追求過程で問題の焦点となったのが、「軍部の特権」であった。自衛隊を雁字搦(がんじがら)めで身動きできないようにするのは、歴史の教訓から当然である

田母神氏は今回、歴史認識や憲法解釈という政府コントロールの核心部分を、実力組織のトップとして真っ向からくつがえそうとしたのだから、当然、懲戒免職に値する。ところが田母神氏は、辞表提出を求めた防衛省側に「論文内容は誤っていない」と主張。懲戒手続きに入った場合は争う構えを示したという。「政府見解と明らかに異なる意見を公にすることは、航空幕僚長としてふさわしくない不適切なもの」(浜田靖一防衛相)というなら、争ってでも懲戒処分にするのが当然ではないか。ところが防衛省は、なぜか懲戒免職の手続きをとらず、そそくさと定年退職させた。防衛省には「臭いものにふた」で幕引きをはかる事情があるのだ。

田母神氏の論文投稿事件をめぐって、新たな事実が次々と明らかになっている。懸賞論文に応募したのは田母神氏だけではなく、応募者235人のうち、94人が航空自衛官だった。この中の63人が、かつて田母神氏が司令をつとめた小松基地所属の自衛官だった。実は、航空自衛隊の中枢である航空幕僚監部が、全国の隊員に応募を呼びかけていたのだ
懸賞論文を主催したアパグループの元谷外志雄代表は1971年、石川県小松市で起業し、ホテルチェーンを全国展開した人物である。航空自衛隊小松基地との親睦を名目に、石川県内の経営者を集めて「小松基地金沢友の会」を結成。田母神氏は、98年7月から99年12月まで小松基地が拠点の第六航空団司令を務めており、両者の関係は約10年に及ぶ。航空自衛隊は、元谷氏とは「小松基地金沢友の会」を介して長年の親しい関係なのだ。

元谷氏はアパグループが発行する月刊誌『アップルタウン』に藤誠治のペンネームでエッセーを寄稿。その内容は侵略戦争の全面美化、「東京裁判史観」「コミンテル史観」の払拭、憲法改悪・国防軍の創設、日本核武装まで主張している。まさに古典的・原理的靖国派の主張そのものである。田母神氏の今回の「論文」もほぼ同趣旨であった。
元谷氏は「靖国」派の旗手とされた安倍晋三元首相の後援会「安晋会」の副会長を務めていた。そして田母神氏を航空幕僚長に任命したのは安倍内閣だった。「靖国」派のどす黒い根は政界の奥深くにまで及んでいるのだ

いま自公政権は、自衛隊制服組の政治関与を推進している。新ガイドラインが締結された1997年には、制服組が国会や他省庁と直接交渉することを禁じた「保安庁訓令九号」を廃止。2007年には防衛庁を防衛省に格上げ。インド洋、イラクと海外派兵を積み重ねるなかで、制服組が発言力を強めることを容認している。
私たちは、憲法9条のもとでの「防衛」政策の根幹をいま改めて問わねばならないときにきているのだ。

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2 コメント

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Unknown (はなかぜ)
2008-11-12 06:47:35
いわゆる「靖国派」といわれる人々の考え方、すなわち「歴史に誇りをもてなくては国を愛せない。」という主張には基本的には同感です。
一方私が彼らと全く相容れないのは、「わが国の歴史のどの部分を誇りにするか」ということです。

彼らはしばしば「自虐史観」という言葉を使いますが、私に言わせれば彼らこそ被害妄想に取り付かれていると思います。
日本は本当に田母神氏のおっしゃるとおり「悪い国」という評価を受けているでしょうか?

日本は戦後60年間、民主主義国家、平和国家、経済大国、援助大国、技術先進国として、国際社会の信頼を受け、途上国には勇気を与えてきました。
ところが奇怪なことに、「靖国派」は「戦後の日本は道を誤った。」と主張、戦前の「侵略」の歴史を正当化しようとしています。

誇るべき平和の歴史を否定し、人々が血を流した歴史を愛せよと言う。
「靖国派」の意図は一体どこにあるのでしょう。

いまネット上で殉教者のようにたたえられている田母神氏は、下っ端の使いッ走りにすぎません。
「どす黒い根は政界の奥深くにまで及んでいる」のは、まさにそのとおりだと思います。

田母神氏
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 (トッテイ)
2008-11-11 00:14:16
村山談話って、田母神氏達世代から見れば青天のへきれきだと思う。彼が捧げた国防に携わった大半は、今回の論文の内容が主だったはずである。ある日突然、社会党の首相が近隣諸国に発した談話を踏襲できないのが、普通ではないのでしょうか?
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