プロメテウスの政治経済コラム

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国家公務員制度改革基本法案 衆院を通過  新自由主義的国家体制再編の一環

2008-05-30 19:02:52 | 政治経済
政府提出の国家公務員制度改革基本法案が29日、自民・公明・民主による修正を経て、審議時間わずか1時間半で衆院を通過した。戦後、国家公務員は<天皇の官吏>から、日本国憲法の下で、国民「全体の奉仕者」(憲法15条)として新たに出発した。しかし、日本型開発主義国家体制のもとで、キャリアと呼ばれる特権官僚を中心に「一部の奉仕者」として、自民党の利益誘導型ケインズ主義政治に奉仕してきた。与党政治家や財界・業界への奉仕にたいする見返りは、天下りなどの各省庁の利権拡大であった
しかし、支持団体や業界団体の声を聴きながら政策立案する利益誘導型時代の各省庁官僚の既得権益体制は、90年代以降の新自由主義構造改革にとっては、桎梏となっていった。かくして、新自由主義的国家体制の再編のためには、国家公務員制度改革が不可欠の課題となった

国家とは何か。エンゲルスは『家族・私有財産および国家の起源』において、国家は一定の発展段階における社会の産物であり、<相対抗する経済的利益をもつ諸階級が、無益な闘争のうちに自分自身と社会をほろぼさないために、外見上社会のうえに立ってこの衝突を緩和し、それを《秩序》の枠のなかにたもつべき権力>、<社会から生まれながら社会のうえに立ち、社会にたいしますます外的なものとなってゆく《権力》である>と規定した。レーニンはより端的に、国家を、<支配階級が他の階級を抑圧するための機構>と定義している(『大月 経済学辞典』1979)。
つまり国家とは、政治的支配と社会的統轄の機構である。そして階級的利害が対立している社会では、支配階級がその人民支配と搾取・収奪の秩序を維持するための機関として機能する。国家は公的にふるまうが、超階級的ではありえず、その基本は支配階級の利益に奉仕するものでる(『社会科学辞典』新日本出版社1978)。

日本国家の支配階級は財界(日本独占資本)とアメリカ政府(米独占資本)でり、その政治的代理人は自民党である。
自民党政治は、支配階級である財界とアメリカ政府の利害を代弁することを原則としながら、自己の政治的安定のために選挙区(当時は中選挙区)の他の階級、中小企業や農民などの声、業界団体の声をある程度吸収しながら高度経済成長政策に取り込んだ(労働者階級は、企業にまかせ一切面倒をみなかった)。この過程で、各省庁の官僚が活躍し、軍事利権や公共事業、各種補助金などあらゆる業界で、政官財の癒着体制が形成された。
しかし、90年代の資本主義のグローバル化の進展のもと財界のなかで、多国籍製造大企業が主導権をにぎるとともに、国内に張り巡らされた各省庁・官僚の既得権益や中小企業や農民などの業界団体の声を聴く旧い自民党の政策決定システムは、自分たちの政治的支配にとって障害物となった。こうして新自由主義的「構造改革」政策の推進とともに日本型開発主義のもとで形成された国家体制そのものの再編が課題となったのだ。

今回の国家公務員制度改革基本法案は、これらの課題解決の一環として提起された。幹部職員人事を「内閣人事局」に一元化し、族議員と官僚との接触に制限を加えることは、いわゆる官邸の主導のもとで各省庁を統一的に政治支配することを容易にし、官邸を通じて支配階級の意思を貫徹しやすくするものである。
官民人事交流の規制緩和は、官・民の垣根を取り払って、民間企業が行政に入り込むことを本格的に進めるものである。行政に民間企業が入り込み、企業のための仕事を行う―これほどストレートな政治支配はない。
内閣一元管理の幹部職員に対しては、総合職試験を導入し、現行の慣行としてのキャリア制度を法定化する一方、一般職員の労働基本権の回復は、これを明記せず、先送りのままである。


「国家は階級支配と抑圧の道具である」が、現実の国家は、「階級的政治的力関係の物質的凝集である」― 国家公務員に国民「全体の奉仕者」として仕事をしてもらうためには、国会の階級的政治的力関係を変えなければならない。民衆の利益実現をめざす議員の数を多数にし、政権の階級的性格を支配階級本位から人民階級本位に変革しなければならない

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