プロメテウスの政治経済コラム

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橋下市長の入れ墨調査回答強要に抵抗している職員   改めて考える公務員の「服務宣誓書」

2012-05-30 16:31:06 | 政治経済

大阪市職員110人が入れ墨をしていると回答した全庁調査で、自己意志で明確に回答を拒否した職員が16人に上ることが29日、分かった(産経ニュース2012.5.30 11:27)。なかまユニオン大阪市職員支部の矢野幸一さんは、「入れ墨は個人のプライバシーに関することであり、調査には協力できません」と表明して、白紙で出した。

人が身体に入れ墨やタトゥーを施すことは、個人の表現の自由であり、幸福追求権、人格権の一発露であり、プライバシーである。入れ墨等を施し、これを他人に見せるか見せないか、知らせるか知らせないかは全く個人の自由であって、何人からもその存在を意に反して表明することを強制されるべきものではない。

タトゥーを入れることは、完全に個人の自由であり、市職員だからといって一律にタトゥーを入れること自体を禁ずるのは、個人の幸福追求権(憲法13条)の侵害に当たる。

もっとも市民の中には入れ墨を威圧的に感じる人もいるだろうから、職務中は、外部からタトゥーが見えないように長袖やリストバンド等で隠すようにとの通達を出せば済むことである。

橋下市長が条例を変えていなければ、大阪市に採用された職員は、次のような「宣誓書」を提出することになっている(「職員の服務の宣誓に関する条例」)。「私は、ここに、主権が国民に存することを認める日本国憲法を尊重し、且つ擁護することを固く誓います。私は全体の奉仕者として、市民の信託による公務を民主的且つ能率的に運営すべき責務を深く自覚し、誠実且つ公正に職務を執行することを固く誓います。 年 月 日     氏名     印」

大阪市の職員は「日本国憲法を尊重し、且つ擁護することを固く誓」って職務に就いているわけだから、首長の権力をもって橋下氏個人の価値観を押しつける憲法違反の行為に断固として抗議した矢野幸一さんが責められる謂れはない。

 

ところが、矢野さんによれば、5月22日になって課長から「局長から職務命令書が出ているので手渡す。調査に協力するように」との話があり、その命令書は、「命令にもかかわらず回答を拒否する場合には、職務命令違反となることを合わせて伝達しておく」と結ばれていた。

その翌日には、今度は所長(部長級)から呼び出され、「拒否を続けると懲戒処分の対象となるが、その覚悟か」と聞かれたので、「法に反した職務命令は無効です。不当な処分が出された場合には、第3者に判断を求める」と答えた。

矢野さんは言う「橋下市長の横暴に対して、職員の人権を守る立場で闘い抜きたいと思っています」。

 

橋下氏は、選挙で勝った首長は、職員を自分の思いのままにできると考えているようだが、職務上の命令は、当然、憲法、法令上の枠内でなければならない。橋下氏は、憲法99条が憲法を守らない可能性がある者を特に名指ししてその遵守・擁護義務を課している意味を改めて噛み締めるべきだ。

天皇又は摂政及び国務大臣、国会議員、裁判官その他の公務員は、この憲法を尊重し擁護する義務を負ふ」

憲法は、あえて天皇(摂政)と三権(立法、司法、行政)の担当者を名指しすることで、「憲法を守らない可能性がある者」を具体的に列挙し、警告を発したのである。

公務員(=橋下氏)は、いったん違憲行為が行われ、あるいは行われようとする場合には、憲法の側に立って、違憲行為の予防ないし阻止に尽力し、憲法の規範力を回復させるため積極的に努力する義務があるのだ。「尊重擁護」とダブルにしたのはそういう意味だ。


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