プロメテウスの政治経済コラム

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オバマ政権の外交「チェンジ」の現局面  「スマートパワー委員会報告」路線

2009-07-23 15:38:07 | 政治経済
米国民の「チェンジ」への期待を担って登場したオバマ大統領。7月に実施された世論調査5件の平均値で、オバマ大統領の支持率は60%を切り、漸減傾向だという。大統領の権限がいくら大きいとはいえ、アメリカ帝国主義国家のさまざまの機関に張り巡らされた支配階級による意思決定システムを「チェンジ」することは、容易でない。金融・財政や外交政策が具体化されればされるほど、オバマ氏の個人の思いと離れてくることは、十分に予想されることである。
7月上旬から中旬にかけて米国で実施された5件の世論調査の平均値によると、オバマ大統領の支持率は57%、不支持率は36%だった。6月上旬の平均支持率は62%、中旬は61%で推移していた。支持率の低下には、大統領の景気対策に対する国民の見方が反映されていると、CNN世論調査責任者のキーティング・ホランド氏は解説している(CNNco.jp 7月18日14時39分配信)。

 ブッシュからオバマ政権に替わって、核問題や外交、経済で米政策は変化の様相を見せている。突出した軍事力を背景とした一国覇権主義は、影を潜めた。経済政策でも、新自由主義の押し付けの後始末に追われている。多国間の協調によるほか、米国の国益も守れないような世界に構造変化が進んでいることにようやく気づいたのだろう。「スパートパワー委員会報告」(アーミテージ元国務副長官とジョセフ・ナイ元国防次官補が座長2007年11月)の路線である。

 ASEAN地域フォーラム(ARF)出席のためプーケット(タイ南部)を訪問中のクリントン米国務長官は7月22日、東南アジア諸国連合(ASEAN)との平和協力の基礎となるASEANの基本条約、東南アジア友好協力条約(TAC)に署名した。米国の加入は、昨年の北朝鮮に続く26カ国目。すでに中国、ロシア、日本なども加入しており、加入国の合計人口は約40億人(世界人口の約60%)に達する。
TACは軍事同盟とは異なる。内政干渉を拒否し、覇権主義的な政策を否定している。米国の(帝国主義的な)外交政策の手を縛るものとして、これまで加入を見合わせてきた。しかし、今後発展が予想されるアジア地域で、中国が影響力を増すなか、米国が独り取り残されることを恐れたのである

 オバマ米大統領は4月には、トリニダード・トバゴのポートオブスペインで開幕した第5回米州首脳会議(米州サミット)の開会式のあいさつで、「キューバとの間で新たな始まりを追求する」と言明し、これまでの対決姿勢からの転換に踏みだすことを明らかにした。「米国の裏庭」と言われ、軍事的干渉を繰り返してきた中南米諸国と協調するという意思表明である。6月28日に起きたホンジュラスのクーデターに際しては、オバマ米大統領は政変の翌日、「われわれは、暗い時代への逆行を望まない」として、直ちに、クーデター暫定政権を認めないという中南米諸国と歩調を合わせた

 オバマ米大統領は6月4日、エジプトを訪れ、カイロ大学で演説した。テロ問題、イスラエル・パレスチナ問題、イランをめぐる核問題をとりあげ、「米国はイスラムと決して戦争しない」と言明イランとの対立克服のために、「前提条件なしに相互尊重を基礎に前向きに話し合う用意がある」と述べた。パレスチナ問題については、イスラエル建国の過程でパレスチナ人が追放や住居破壊などの被害を受け、60年におよぶ占領下でも同様の人権侵害に耐えてきた事実を率直に認めた。「(イスラエル・パレスチナ)両者の願いを実現する唯一の解決策は、イスラエル人とパレスチナ人が平和で安全に暮らすことのできる2国家共存であり、それはイスラエルとパレスチナ、米国と世界にとっての利益でもある」と訴えた

 オバマ政権の外交は、大統領の個性を反映して、ブッシュ政権がもっぱらハードパワー(軍事力)に依拠してきたのに対し、ソフトパワーをつうじた合意形成に力点が置かれているように見えるしかし、アメリカ支配層の意図は、ハードとソフトを組み合わせたスマートパワー(賢い力)で、アメリカが世界をリードするということである。決して対等・平等とは思っていない。
オバマ政権は、イラクからは撤退するが、アフガンでの軍事制圧を諦めていない。エクアドルの基地は閉鎖するが、コロンビアで3基地の貸与をうける。ホンジュラスの国外追放されたセラヤ大統領側と暫定政権側の仲介をコスタリカのアリアス大統領に委ねたが、クーデター派と正当政府を「同列」に扱う「調停」だと批判されている。大統領はクーデターを違法と断定したが、米国内の右派勢力が反革命勢力と結びついて国務省を動かしているとの指摘もある。パレスチナ人の悲劇を終わらせるためには、イスラレルの暴虐行為をとり抑え、1948年以前の原状回復が不可欠だが、アメリカの対イスラレル外交を大統領だけで「チェンジ」することを米国内の力関係が許さない

 オバマ外交「チェンジ」の現局面にたいする評価は、「スマートパワー委員会報告」路線を大きく踏み出るものではない、ということだ。 

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