プロメテウスの政治経済コラム

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米原潜タンカー追突事故  イランへの戦線拡大準備の一環か?

2007-01-19 19:00:36 | 政治経済
1月8日夜(日本時間9日未明)、ペルシャ湾からアラビア海へと抜ける狭い航路である、イランとオマーンにはさまれたホルムズ海峡で、アメリカ海軍の原子力潜水艦「ニューポート・ニューズ」が、川崎汽船が所有する日本のスーパータンカー「最上川」に追突する事件が起きた。フリーのジャーナリスト田中宇さんは、この事件は「狭い海峡を航行する危険さ」「原油が流出しなくてよかった」といった、日本で報じられている意味づけを超える背景があるという(田中 宇「すでに米イラン戦争が始まっている?」2007年1月16日)。
この事件では、潜水艦とタンカーは両者とも、ペルシャ湾の内側から外側へと同じ方向に航行していた。タンカーは、スクリューとその周辺の船体を傷つけられており、潜水艦は後ろの方からタンカーに追突したことがうかがえる。タンカーの側は、潜航中の潜水艦を確認できなかったろうが、潜水艦側は、自分のすぐ前方にタンカーがいるのを十分承知していたはずだ。田中さんは、潜水艦が危険を知りながら、タンカーのすぐ後ろを潜航していたのには理由があるという。昨年暮れから、ペルシャ湾の内外には、湾の北側のイランを威嚇するため、米軍は空母などの軍艦を結集させているが、これに対抗してイランは、海峡を航行する船の動きを注意深く監視しているはずである。巨大なタンカーのすぐ後ろを潜航すれば、敵の探知機のモニターには、潜水艦の影は、巨大なタンカーの影と一体化してしまい、気づかれずにすむ。だから、潜水艦はタンカーとの追突の危険があったが、できる限りタンカーに接近して潜航していたのではないかというわけである。
今回の事故について、日本政府は米政府に、事故の真相を調査して明らかにすることを要請した。しかし、真相がイランを欺くための軍事技能であるとしたら、米側は真相を明らかにしないだろうし、いつものとおり日本政府は唯々諾々とうやむやで済ませてしまうだろう。

そもそも米原潜が国際海峡であるホルムズ海峡で、作戦行動として潜航していたのであれば、国連海洋法条約違反である。国連海洋法条約は国際海峡の通過ルールとして、軍艦や潜水艦の「通過通航権」を認めているが、「継続的かつ迅速な通過」のためであってそれ以外の「いかなる(作戦)活動も差し控えること」になっているからである(「しんぶん赤旗」2007年1月13日)。米原潜が、ホルムズ海峡で、対テロ戦争のための作戦行動をしていたのなら条約違反は明白である。田中さんは「衝突した潜水艦は、昨年末にイランを威嚇するためにペルシャ湾に入った空母アイゼンハワーを中心とする部隊(空母打撃群)に属している。12月末に始まったソマリアへのエチオピア軍の侵攻を支援するため、1月に入って空母アイゼンハワーはペルシャ湾からソマリア沖に移動したが、その際に潜水艦もソマリア沖に移動しようとホルムズ海峡を通行中に、日本のタンカーに追突した」という。
事故直後、原潜はタンカーに「助けはいるか」と無線で状況確認をしてきた。しかし、国籍や所属などについてのタンカー側の問い掛けには答えないまま交信が途絶えた。川崎汽船の幹部は「商船同士ならあり得ない」と、不信感をあらわにしている。

戦争中だといって国際海峡の安全航行を無視することが許されないのは当然である。ホルムズ海峡は日本に運ばれる原油の八割以上が通る。米国の一の子分である日本の民間船舶の安全航行が米軍の軍事作戦によって危険に晒されている。対米軍事従属の皮肉で悲しい現実である。

田中さんは、「近いうちに正式な開始が宣言されると予測されるイランとの戦争の扇動作戦を米国は、すでに秘密裏に始めている可能性が大きい」という。米軍が8日アフリカの角ソマリアで行った軍事行動は、2001年の9・11同時多発テロ直後に、世界中のテロリスト組織を破壊することを認めた大統領令を根拠に行われた(しんぶん赤旗2007年1月17日)。「対テロ戦争」を口実にすれば「戦闘地域」の外でも米軍が国会の承認なしに自由に展開できるとなれば、他の主権国家内にいくらでも戦線が拡大する可能性がある。
今回の原潜追突事故は、改めて「ならず者国家」アメリカの軍事覇権行動の反人民的性格を浮き彫りにするものとなった。

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