プロメテウスの政治経済コラム

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ノーベル平和賞に劉暁波氏  歴史的過渡期の中国共産党  共産党独裁の終焉は、中国国民が決める

2010-10-09 21:14:05 | 政治経済

中国の人権活動家、劉暁波(リウ・シアオポー)氏のノーベル平和賞受賞が8日、ノルウェーのノーベル賞委員会から発表された。9日付の中国各紙は、これに反発する中国外務省の談話を伝える国営新華社通信の配信記事を一斉に報じ、NHKなどの海外テレビの関連ニュース放映も突然、中断されたという(「朝日」2010109日)。
戦時社会主義として出発した20世紀社会主義は、物財配給制度を核とする戦時経済システムを平時経済システムとして引き継いだ。そして「国家独占」社会主義は共産党による一元支配を体制維持の絶対条件としてきた。しかし、戦時社会主義の枠を脱し切れない社会主義世界は、資本主義諸国の発展に取り残され、経済発展の格差が明白となった。「国家独占」社会主義の敗北を自認した諸国では、スターリン以後の社会主義体制に根本的なメスが入れられた。かくして、ソ連・東欧における政治的変革の伝播は、共産党の一党支配を終わらせた


中国では、小平の改革・開放政策による経済体制の変革が進むにつれ、政治体制の改革への要求が学生や知識人、共産党内の改革派の中で広がっていった。しかし文革時代、実権派と呼ばれ失脚し、第一次天安門事件でも再度失脚した小平は、この政治体制変革の運動を保守派の李鵬とともに弾圧した(第二次天安門事件)。このとき、学生らとともにハンストに加わっていたのが劉氏だった。小平は、李鵬の後任に江沢民を選び、今日の胡錦濤へとつながっている。文革時代の混乱の悪夢を身をもって知る小平が、改革・開放政策の推進のためにも、政治体制の安定をなによりも優先したのだと私は思っている。

 

ノーベル賞委員会は、劉暁波(リウ・シアオポー)氏の授賞の理由として、劉氏は「中国における基本的人権確立のため長期にわたる非暴力の闘争を行ってきた」とし、「人権と平和の間には密接なつながりがある」と指摘した。また、経済発展を遂げた中国の新たな地位には「より大きな責任が伴わなければならない」と強調。中国が「調印している幾つかの国際合意や、政治的権利にかかわる自国の規則に違反している」と指摘した

劉氏は、1989年の第二次天安門事件で逮捕され服役。釈放後も文筆活動を続けていた。2008年12月、立法機関の直接選挙や一党支配の廃止、政党活動の自由化などの憲法改正を要求する「08憲章」を共同執筆したため再び逮捕され、今年2月に懲役11年の判決が確定、現在も東北部の遼寧省で服役中である。

 

共産党の一党支配の性格は、初期においては、社会主義権力樹立の手段であったが、軍事的配給システムの行き詰まりとともに、「計画の失敗」を覆い隠すベールへと変化してきた。経済活動における交換原理=市場の復位とともに一党制の見直し、政治活動における法の復位=基本的人権についての明確な法制の確立が過渡期の課題となった。
戦時社会主義の組織スタイルと行動様式を引き継いだ共産党の絶対的権威の歴史的合理性も次第に消滅していく運命にある。戦時から平時へと移行するに従い、党にたいする一般党員のコミットメントが変化してくる。革命に対する献身的活動から党・政府の幹部や企業経営者、経済利権の道へと「献身」から「昇進」への利害関心の転換が生じる。党の思想的政治的堕落が生じ、党の威信の絶対的低下が徐々に進行する。ところが、党は過去の権威と慣行をなかなか捨てることができず、逆にそれを強めようとすらする。

とりわけ、チベット・ウイグル問題を抱え、13億の国民を束ねなければならない中国共産党は、民主化に対し臆病である

 

人々が入手できる情報の質量が豊かになるにつれて、独占者たる党の一元的支配には無理が生じる。権力とイデオロギーの独占にたいして、サイレント・マジョリティたる人々は暗黙の不服従によって抵抗する。目先の経済的利害に躍起となっている現在の中国民衆も共産党の一元的支配の虚構に気付いている。外の人間が共産党の人権抑圧についてとやかく騒ぎ立てなくても、中国共産党独裁の終焉は、やがて中国国民が決めるだろう。


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