プロメテウスの政治経済コラム

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犯罪収益の移転防止に関する法律案(通称ゲートキーパー法案)衆院可決  忍び寄る相互監視社会

2007-03-24 18:26:53 | 政治経済
「犯罪による収益の移転防止に関する法律案」は、「犯罪組織によるマネーロンダリング(資金洗浄)防止のため」、弁護士や司法書士、保険会社やクレジット会社、貴金属業者など四十三業種を「特定事業者」に指定。(1)顧客の本人確認(2)取り引き記録の保存(七年間)(3)「犯罪の疑いのある取り引き」を、関係省庁に通報すること――を義務付ける。省庁はこの情報を国家公安委員会と警察庁に通知することにより、警察権力による情報の一元管理をめざす。事業者は通報したことを自己の顧客に「漏らしてはならない」(法案)つまり、「密告」を義務化する法案である。この義務に違反すれば、法人に三億円以下の罰金、個人に二年以下の懲役か三百万円以下の罰金が備わる。「業者が、とりあえず何でも届け出ないと危ないと考え、密告社会になる可能性が非常に高い(「東京新聞」2007年3月24日)。

事業者と顧客との信頼関係を壊しかねない内容に、日弁連は当初「弁護士業務の根幹を揺るがす」と猛反発し、警察庁は二月、弁護士など五業種について密告義務から除外した。こうして、弁護士はとりあえず、法による(1)-(3)の義務付けを三つとも免れた。日弁連は「高く評価する」と歓迎。日弁連のこの俗に“勝利宣言”と呼ばれた声明がでたあと、法制化は一気に進んだ(「東京新聞」同上)。
日弁連の“勝利宣言”にかかわらず、司法書士、行政書士、公認会計士、税理士など四業種は(3)の通報義務は免れたが、(1)と(2)の義務を負う。これらのほか、貴金属業者など三十八業種が密告義務などすべての義務を負うことはなんらかわらない(「しんぶん赤旗」2007年3月22日)。

ゲートキーパー法案のもう一つの問題点は、警察による「令状無しの実質上の強制捜査」が可能となっていることである。 法案は、事業者がこの法律に違反していると判断すれば、国家公安委員会が「都道府県警察に必要な調査を行うことを指示することができる」と定めている。そして警察は捜査員に「営業所に立ち入らせ、帳簿書類などを検査させ、業務に関し関係人に質問させることができる」としている。質問に答えなかったり書類の検査を拒むと、最高で「懲役一年、罰金三百万円」が科される。司法書士など四業種もこの「検査」の対象から免れない(「しんぶん赤旗」同上)。
こうして、「国民の情報が警察権力によって収集・管理される監視社会が到来する」(全国青年司法書士協議会声明)のだ。

貴金属商など一般業者に通報が義務付けられた点について、ジャーナリストの大谷昭宏氏は「実際には治安改善にはつながらない」と次のように言う。
「盗犯担当の刑事が一軒一軒、貴金属商を回って信頼関係を築き、店側も怪しい人物が盗品を売りに来れば連絡するのが、従来の慣行だった。だが、こうした法ができてしまうと、逆に反発を生むのが世の常。違反してない限り、何をやってもいいという風潮を助長しかねない。暴力団対策法が典型例で、逆に暴力団捜査は難しくなった」 。社会に分裂を持ち込み、地域共同体を壊しておいて、強権で治安維持をはかろうとしても限界があるのだ。
「法の趣旨は一言で言えば“チクリなさい”。共謀罪法案や個人情報保護法と同じ流れだ。情報はお上に上げればよい、横同士が共有するとろくなことはない、という意図がうかがえる。要は戦前の隣組の復活、相互監視が狙いですよ」と大谷さんは、政府の真の狙いをこう指摘する(「東京新聞」同上)。 

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