プロメテウスの政治経済コラム

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安倍「改憲戦略」と秘密保護法案強行採決の意味

2013-11-27 21:48:54 | 政治経済

昨日(11月26日)、安倍政権は野党が「審議は不十分」として反対する中、衆院国家安全保障特別委員会で特定秘密保護法案の採決を強行し、その後の本会議で強行可決した。再び、海外で「戦争をできる国」に“日本を取り戻す”ための安倍「改憲」戦略の一環である。日本は戦後、「戦争をしない国」、「戦争をできない国」として再出発し、その証しとして平和憲法体系を樹立した。ところが、憲法発効後まもなく、東西冷戦が激化し、米軍占領のもとで反共防波堤の役割を果たすことを余儀なくされ、国民の異議申し立ては、力で抑え込まれ、日米安保による米軍の占領継続と朝鮮戦争を契機とする再軍備(自衛隊の創設)を強制された。「戦争をしない国」であるはずの日本に、世界でもっとも好戦的な米軍が駐留し、自身としても自衛隊という軍隊を保有することとなった。米軍も自衛隊も共に、平和憲法体系と両立しえない存在であったが、日本国民はこれを覆すことができず、今日にいたった。

 

この矛盾をどう解決するか。自民党は、一時、憲法改定を試みたものの戦後の体験的平和主義者(思想として確立した平和主義者ではないが、戦中の悲惨な体験から二度と戦争をしたくないという平和主義者)の世論を代表する政党が国会で1/3以上を占め、国民投票で改憲反対が過半数以上を占めることが予想されるもとで、憲法改定は不可能であることを悟った。この矛盾に折り合いをつけるために歴代自民党政府が編み出したのは、自衛隊は憲法9条にいう戦力ではないという解釈であり(自衛のため必要最小限度の実力組織)、また、日米安保があっても海外での米軍の戦争には参加しない(集団的自衛権の行使は許されない)ということだった。

 

しかし、日米安保のもとで“必要最小限度”以上の軍備増強がどんどん進み、米軍との共同軍事訓練を積み重ねる自衛隊を何時までも平和憲法体系の枠内に押しとどめておく矛盾は激化するほかなかった。体験的平和主義者が老齢化し、日本国憲法の平和主義の思想や近現代史を十分に学んで来なかった戦争をしらない世代の中で、「戦争をしない国」、「戦争をできない国」としての平和憲法体系の世界史的意義が薄れてきても無理はなかった

ソ連の崩壊で冷戦が終焉した1990年代のはじめ、地球規模に拡大した世界資本主義秩序を仕切ることとなったアメリカは、湾岸戦争を起こし、この戦争に西側同盟諸国を動員した。ところが日本は、平和憲法体系が足かせとなってカネを出す以外、米国の動員指令に応えることができないことがはからずも露呈してしまった。米国を盟主とする帝国主義国同盟のなかで、落ちこぼれの烙印を押されることは、大国日本の支配層にとって耐えられないし、自己の戦争に動員するために自衛隊を育成してきた米国にとっても許しがたいことであった。

 

こうして、日本の支配層にとって平和憲法体系の改定は焦眉の課題となる。米軍が惹き起こす戦争や国連PKFに自衛隊を派兵するためにはどうすればよいか。憲法前文と9条を中心とした平和憲法体系は、日本の支配層にとって今や打倒すべき敵以外のなにものでもない。

しかし、憲法改正要件を緩和する96条改定の試みが広範な国民から反撃を受けたように憲法の明文改定は容易でない。支配層が今、狙っているのは憲法に抵触するグレーゾーンの個々の法律を積み重ねることによる、平和憲法体系の実質的切り崩しである。

 

米軍と共同(と言っても所詮は目下の下請けであるのだが)作戦をとるための周辺事態法、有事法制はすでに整備された。しかし、平和憲法体系を覆すためには、まだまだ不十分である。戦争司令塔としての日本版NSC法を成立させが、さらに米軍とともに「戦争をできる国」にするためには、軍機保護のための秘密保護法は必須であり、集団的自衛権の行使を認める自衛隊法の改定、国家安全保障基本法も必要だ。米軍の動員に応えるためには、自衛隊に先制攻撃のための海兵隊的機能や敵基地攻撃のための弾道ミサイル・巡航ミサイルの保有も必要だ。戦闘に逡巡する兵士を裁くための軍事裁判所(軍法会議)や戦死者も祀るための公的慰霊の施設も必要である

 

明文改憲を追い求めながら、解釈改憲・立法改憲で行けるところまで行くというのが、現在の安倍政権の「改憲戦略」である。国会の多数を頼んで、行けるとこまで行く、これが今回の特定秘密保護法案強行採決の意味である


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