プロメテウスの政治経済コラム

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オバマ政権のアジア最重視宣言の真の狙いは何か  ―中国敵視や中国包囲網の強化は口実―

2011-11-27 18:33:17 | 政治経済

11月16日、米国のオバマ大統領が、大統領就任後初めてオーストラリアを訪問し、北部の港町ダーウィンに2500人の米軍海兵隊を駐屯させる計画を発表した。豪州への米軍駐留は、中国包囲網を強化する一環であると報じられ、ベトナム戦争以来の、太平洋地域における米軍の増強であるとか、米豪軍事同盟の30年ぶりの大転換であるとか言われている。日米同盟の強化、南シナ海の南沙群島問題への米国の介入、北朝鮮への対抗を理由とした米韓軍事同盟の強化、インドと米国との軍事関係の強化など、米国は中国の軍事台頭に対抗して中国包囲網を着々と拡充しており、オーストラリアへの初めての米軍駐留もその一環である、というのが日米などのマスコミの大方の論調だ。例によって日本の嫌中派などは、米国がいよいよ中国敵視に本腰を入れたと考え、オバマの新政策への期待が大きい。しかし、事態はそれほど単純ではない。中国敵視や中国包囲網の強化は、中国の台頭を懸念する日韓豪などアジア諸国からの収奪を合理化する口実の可能性が高い

 

米国が本格的に中国敵視政策をとろうとすれば、日韓やASEANなどアジアの親米諸国を巻き込むことが不可欠である。しかし今や、これらアジア諸国はすべて、最大の貿易相手国が米国から中国に替わっており、本格的な中国敵視策をとることができない。米国自身、世界最大の米国債の保有者である中国を必要以上に敵にまわすことは、財政破綻やドル崩壊を意味し、そんなことができるはずがない。米国の中国敵視を引っ張ってきた軍産複合体は、テロ戦争の失敗によって中東からアジアにシフトするつもりかもしれないが、金融界を含む米国の大手企業は中国で儲けており、米中関係が悪化して商売の邪魔になる事態を好まない。今の米国中枢で、中国敵視を「選挙対策としての口だけの反中国」以上に強めたい勢力が大勢いるとは思えない。今回の米国の「アジア最重視」宣言は、今まで最重視していた中東や欧州での失敗続きの米国が、沈みゆく覇権の建て直しのために、成長著しいアジア太平洋地域への関与を言い出したのだろう

 

米国は、現在、深刻な財政危機を抱え、国防予算も削減対象になっている。それでもオバマ氏は、アジア太平洋地域については「米軍のプレゼンスと任務の最重点とするよう指示した」と強調。「国防予算の削減は、アジア太平洋への支出には影響しない」と言明し、「脅威を抑止し、戦力を投射する(米軍の)類いまれな能力は維持する」と述べた。

フリーの国際情勢解説者の田中宇さんは、次のように言う。<オバマ政権のアジア最重視宣言は、時期的に、TPPや米韓FTAと抱き合わせで発せられている。そこから読み取れることは「米国は、中国の台頭を懸念する日韓豪などアジア諸国の希望に沿い、アジア太平洋から軍事撤退をしない。その代わりアジア諸国は、TPPや米韓FTAを通じて、米企業が儲けを出せるような経済システムに転換しろ」という交換条件だ><オバマは豪州での演説で「防衛予算を削減しても、アジア太平洋にしわ寄せを与えない」と力説した。これは、米政府が予算削減に逆らってアジア太平洋での軍事駐留費を増やすかのような印象を与える。だが、これまで日本政府が在日米軍に出て行ってほしくないと希望した時、米国は、日本が米軍駐留費の一部を負担するなら駐留を継続するという条件を出し、日本側の負担が増えていく構図が20年ほど続いている。豪州への米海兵隊の駐留も、豪政府が望んだことである以上、海兵隊宿舎の新設やその他の駐留費の何割かを豪政府が出しそうだ>(田中宇の国際ニュース解説「米国の『アジア重視』なぜ今?」20111120日)。

 

米国は、従米国、親米国を操ることに長けている。ダーウィンに2500人の米軍海兵隊を駐屯させるというが、2500人の海兵隊がどこから移動してくるのか、米政府は発表してない。米軍の海兵隊は、総数の3分の2以上がアジア太平洋地域に駐屯しており、そのほとんどが沖縄にいる。豪州の海兵隊は、沖縄からの移動になる可能性が高い。折しもジャパン・ハンドラーズのひとりジョセフ・ナイ氏が、米紙ニューヨーク・タイムズに寄稿し、「沖縄県内に海兵隊を移設する現在の公式計画が、沖縄の人々に受け入れられる余地はほとんどない」と分析し、「海兵隊をオーストラリアに移すことは賢明な選択だ」と書いている。辺野古新基地建設を迫る一方で、次の手もちゃんと考えているのだ。

今、海兵隊が駐屯している沖縄は、中国本土からの距離が約500キロだ。それに対し、来年から海兵隊が駐屯する豪州のダーウィンは、中国本土からの距離が十倍の5000キロもある。海兵隊は中国との敵対を強めるのでなく、中国の近くから遠ざかっているのである。海兵隊にはグアムに移る予定の部隊もいるが、グアムは中国から約2500キロで、これまた撤退していく方向になる

 

中国敵視や中国包囲網の強化は、中国の台頭を懸念する日韓豪などアジア諸国からの収奪を合理化する口実の可能性が高いと考える所以である。


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