プロメテウスの政治経済コラム

プロメテウスは人間存在について深く洞察し、最高神ゼウスに逆らってまで人間に生きる知恵と技能を授けました。

「チェ 28歳の革命」  ゲバラに見せたいラテンアメリカで広まる「社会主義のルネッサンス」

2009-01-17 20:22:19 | 政治経済
映画「チェ 28歳の革命」を観た。「チェ 28歳の革命」は、フィデル・カストロと共にキューバ革命を成し遂げたアルゼンチン出身の医師であり、革命家であるエルネスト・チェ・ゲバラ(1928~1967)の伝記映画である。前後編4時間半という大作で、第1部はキューバ革命戦争の勝利を、第2部はボリビアでの戦いの挫折とゲバラの死を描く(「チェ 39歳 別れの手紙」が後編)。キューバ革命とは、米国資本と結んだバティスタ政権を打倒した反帝民主主義革命のことを指す。カストロやゲバラたちは、米国の帝国主義的搾取に反対し国内の反動政権の打倒をめざした。現在、ラテンアメリカ・カリブ海地域33カ国のうち、実に4割が革新政権である。ラテンアメリカで広まる「社会主義のルネッサンス」を是非ゲバラに見せてやりたいものだ。

1955年、貧しい人々を助けようと志す若き医師のエルネスト(チェ)・ゲバラは、放浪中のメキシコでフィデル・カストロと運命的な出会いを果たす。キューバの革命を目指すカストロに共感したチェは、わずか82人で海を渡り、キューバ政府軍と戦うというカストロの作戦に同意し、やがてゲリラ戦の指揮を執るようになる。チェ(「チェ」はアルゼンチンのスペイン語方言で「ねぇ君」などと相手に呼びかけるときに使う言葉)という愛称で呼ばれ、軍医としてゲリラ戦に参加したゲバラは、女性と子供には愛情を持って接するのだった……。ゲリラ戦の前線でチェと行動することを望む少年兵に常に読み書きの課題を与え激励した。読み書きのできない人間は、支配者に容易に騙されるというのだった(読み書きはできるが、勉強しないために支配者に簡単にだまされる日本人も多いが)。
映画は、カストロに「道徳の巨人」「堅固な意志と不断の実行力を備えた真の革命家」と評されたゲバラの若き日の姿を生き生きと描いている。実際彼は、誰よりもよく行動し、革命達成後も喘息を抱える身でありながら寝食を忘れて公務と勉学に励んだという。

今年は、キューバ革命50周年である。1959年1月1日、将軍バティスタがドミニカ共和国へ亡命し、1月8日カストロがハバナに入城、「キューバ革命」が達成された。1960年8月6日、カストロはアメリカ資本から成る石油関連産業を接収、国有化する。これに対してアメリカはキューバへの経済封鎖を行った。米国は1961年に革命政権の転覆を狙う反革命軍を組織してキューバに侵攻させ、これが失敗に終わると、翌62年、対キューバ全面封鎖を始め今日に至る。キューバ政府によると、62年以来の経済的損害は累計で930億ドルにのぼるという。
中南米諸国は1950-80年代、米国による軍事諜報の策略を使った介入により、国内の軍事独裁政権のもと暗い混乱の時代を過ごした。また、80-90年代には、財政難に苦しみ、米国の政府や金融資本、IMFなどから金を借りる条件に、徹底的な民営化や市場原理主義を「ワシントン・コンセンサス」「米英式モデル」として押しつけられ、貧困と格差拡大に苦しめられた。こうして、80年代は「失われた10年」、90年代は「絶望の10年」と呼ばれることとなった

新自由主義政策との決別、米国からの自立に先鞭をつけたのが、90年代後半から政権に就いたベネズエラのチャベスであり、ブラジルのルーラ、アルゼンチンのキルチネス、ボリビアのモラーレス、エクアドルのコレア、ニカラグアのオルテガなどの左派政権がこれに続いた。
いま中南米で注目されるのは、脱新自由主義政策の動きの中で、各国政府が、新自由主義を押し付けてきた米国政府からの自立を目指す傾向を強めていること(「さらばワシントン」<新自由主義と米国政府>が共通のスローガン)、新自由主義的資本主義がもたらした社会問題は、資本主義経済モデルでは解決できず、別のモデル(21世紀の新しい社会主義)が必要と考え始めていることである。
コレア、モラーレス、チャベスらは、20世紀社会主義の反省点に立脚し、それぞれの国の実情に合った自らの社会主義像を探求することを宣言している。
まさにラテンアメリカは「新自由主義の実験場」から、「社会主義の実験場」に転換しつつあるといっていいだろう

歴史の流れは、一直線ではないが、確実に前進する。カストロとゲバラたちが切り開いたキューバ革命が、アメリカ帝国主義の支配下にあって中南米諸国民の希望の星であったことは、疑いないだろう。キューバ社会主義も、ソ連型社会主義の反省から、市場を重視した社会主義への新たな模索を始めている。これまでキューバを除外して米国主導で開かれてきた米州機構(OAS)に代わって、昨年12月半ば、キューバが参加し、アメリカとカナダを除く南北アメリカ大陸の全33カ国を集めた初の「中南米・カリブ海諸国首脳会議」がブラジルのサルバドルで開かれた。ゲバラに見せてやりたい新しいラテンアメリカの姿であった。

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