プロメテウスの政治経済コラム

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サブプライム問題とアメリカ経済の動向  ケインズ的景気循環から新自由主義的景気循環へ

2008-01-20 20:33:50 | 政治経済

昨年夏に表面化したアメリカのサブプライム・ローンの不良債権化が、世界の金融市場を揺るがしている。大統領選挙の年、実体経済への波及を恐れたブッシュ政権は18日、総額で最大1500億ドル(約16兆円)の緊急経済対策を実施すると発表した。ただ、減税を柱とする対策だけでは、サブプライム問題の「退治」につながらず、市場には効果が不透明との失望が広がった(「読売」2008年1月20日9時23分 )。
萩原伸次郎・横浜国大教授は最近のアメリカ経済の景気循環は、「ケインズ的景気循環から新自由主義的景気循環へ」と特徴づけられるという(萩原伸次郎「アメリカ経済の動向と予測」『経済』2008.2/NO.149)。

ブッシュ大統領は1月上旬までは、景気対策の必要性自体を28日の一般教書演説までに判断するという姿勢だった。だが、最近の市場の動揺に焦ったのか、18日に概要の発表に踏み切った。景気対策の骨子は、消費刺激策としての個人所得税の減税と、企業に設備投資を促して雇用創出につなげるための法人減税を柱に据えた。しかし、サブプライム問題で雪だるま式に損失が膨らみ続ける金融機関への救済策や、冷え込む住宅市場の刺激策などには言及がなく、対策がサブプライム問題の抜本的な解決につながらないという懸念が広がっている。18日のニューヨーク株式市場では「市場の不安を取り除くには不十分」(米アナリスト)と失望売りが広がり、前日比59・91ドル安の1万2099・30ドルで取引を終えた(「読売」同上)。

米国経済は、戦後60年の世界経済で、まさに覇権的な役割を果たしてきた。金―ドル為替本位制、固定相場制を基礎にしたブレトン・ウッズ体制が世界経済の戦後の復興、発展を支えてきた。ところが、1973年にそれが崩れた。ドルが世界的な基軸通貨であることに変わりがないが、ドルは単なる紙切れとなったのだ。いわゆる「ブレトン・ウッズ2」体制である。米国は非常に大きな国内需要を維持し、ドルを刷っては、世界中から輸入をして世界経済を支えた。こうして、ドルが世界中にばらまかれたけれども、そのドル債務は、各国の公的準備、民間資産の形を取ってまた米国に環流する──これが、米国の世界覇権を支えてきた(行天豊雄・国際通貨研究所理事長NBonline2008年1月5日)。
米国は、環流した資金を外国の高利回りの株式や土地、債券に投資して利益を上げてきた。日本銀行や中国人民銀行など各国の中央銀行が低利の米国債をしぶしぶ大量に保有しているのに対し、米国ではベンチャーキャピタルやプライベート・エクイティ・ファンド、投資銀行らが世界中から巨額な利益を奪い取っているということだ。米国の金融機関の支配力は、米国の超大国としての立場の維持に貢献してきた。米国にとって、これほど都合のいいことはないだろう(「米国ドルは今後も基軸通貨たりうるか」ハーバード大学教授 ケネス・ロゴフ「東洋経済」オンライン2008年1月15日)。

「ブレトン・ウッズ1」体制のもと、戦後資本主義諸国では、アメリカも含めてケインズ的財政金融政策が採られた。このケインズ的経済政策において、金融政策は、政府の裁量による財政政策をサポートする従属的位置におかれた。業態規則や金利規制によって、国内の金融システムは、統制され(日本では護送船団方式といわれた)、国際的には、貿易を軸とする経常収支取引が重視され、実需とかけ離れた投機取引が跋扈するようなことはなかった(萩原伸次郎 同上)。

「ブレトン・ウッズ2」体制で、国内的には、金融の業態規制や金利の撤廃(金融ビッグバン)が企図され、国際的には、固定相場制から変動相場制への為替システムへ変更される。80年代のサッチャリズム、レーガノミクスを経て1990年代に定着した新自由主義的経済政策は、小さな政府、市場原理主義をめざすものであり、国際資本取引は自由化され、投機化が進んだ。景気循環も従来のケインズ的景気循環から新自由主義的景気循環へ転換する。新自由主義的景気循環の特質はなんといっても金融肥大化の景気への影響である。新自由主義的景気循環では、所得と消費の関係において、資産価格の上昇・下落が個人の消費パターンに非常に大きな影響をもつようになる。ITバブルの崩壊後、米国の連邦準備銀行は、一貫して金利引き下げを行い、住宅バブルを演出した。住宅価格の上昇は、モーゲージ・リファイナンスを可能にし、リファイナンスによって得た差額純資産は、キャッシュアウト、すなわち現金化し、旺盛な個人消費に回った。

2004年、米国経済の確固たる回復を確認した連邦準備制度理事会は、金融引き締め政策に舵を切った。それがサブプライム問題という金融詐術を生むことになり、住宅バブルの崩壊とともに今回の国際金融市場の混乱へと繋がることになった。
住宅価格と株式の下落は、新自由主義的景気循環のもと、逆資産効果を通じて間違いなくアメリカの実体経済にマイナスの影響を与えるだろう。そして、徐々に進む世界のドル離れは、やがて来る「ブレトン・ウッズ3」への序曲となるだろう。

 


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