プロメテウスの政治経済コラム

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東アジア首脳会議 今後の行方、課題は?

2007-01-17 20:33:25 | 政治経済
アジアはアメリカの巨大な市場への輸出を通じて経済発展を遂げてきた。しかし、97年~98年アメリカの多国籍金融資本はアジアの通貨・金融危機をつくり出し、アジア独自の金融救済措置として出されたアジア通貨基金(AMF)構想をつぶしてしまった。これはアジア諸国にとって、米国に安易に依存する経済体制の是正をせまる生きた体験となった。
AMF構想がつぶされるのと相前後して、97年に始まったASEAN+3(日中韓)の首脳会議は99年に「東アジアでの共同」促進の方針を打ち出した。経済面でのアジア諸国の米国依存はいまも続いているが、中国の外貨保有(一兆ドルは世界一)も含めて、アジアの余剰資金の米国への還流如何は米国経済にも大きな影響を及ぼしかねず、米国自身アジア諸国の動向を無視できなくなっている。
米国はAPEC(アジア太平洋経済協力会議)や日本やオーストラリアなど忠実な同盟国を通してアジアへの覇権を維持しょうとしているが、アジアはいま、米国の思うようにはいかなくなっている。

ASEAN10カ国は今回のセブでの第12回首脳会議で「ASEAN憲章の指針に関するセブ宣言」(指針宣言)を採択し将来の完全統合へ向かって着実に前進している。首脳会議は、ASEANがめざす共同体を実現する目標年を五年前倒しして2015年にすると宣言した。
問題は「東アジア共同体」である。05年12月のクアラルンプールでのASEAN10カ国首脳会議とASEAN+3の13カ国首脳会議は「東アジア共同体」の設立を明記したが、16カ国の東アジア首脳会議(EAS)は「地域の共同体」形成で役割を果たすという曖昧な表現をした。
東アジア首脳会議(EAS)はASEAN+3から拡大してインド、オーストラリア、ニュージーランドを加えた16カ国会議となった。とくにオーストラリアの参加にこだわったのは日本だった。15年前、米国クリントン政権の意を受けて日本とともにマハティール・マレーシア首相(当時)が提唱した東アジア経済会議(EAEC)つぶしにまわったのがオーストラリアであった「日本がオーストラリアのEAS参加にこだわったのは米国の加入に道を開くため」というのは東南アジアでは常識である。
ASEANの基本了解はASEAN+3(日中韓)を基礎に共同体を構築する、東アジア首脳会議(EAS)はこれをサポートしながら前進するということである。今回のセブでのEASでも、日本の思惑を別にして東アジア首脳会議は、「共同体創設」にむけ「既存の地域機構を補完する」(同議長声明)ことを再確認した。構成メンバーの問題では、台湾の取扱いもいずれ問題とならざるをえない。

東アジア共同体構築には構成メンバー以外にもいろんな課題がある。「米国抜きの共同体などありえない」は克服されつつあるが、日本の経済力、技術はほしいが、その歴史認識、大東亜共栄圏的体質、アメリカべったり病は依然として問題である。「中国の覇権支配の野望」論も克服されつつあるとはいえ、中国の軍事費増、軍近代化の動きなどの問題も検討が必要である「多様で複雑だから共同体など無理」論は日本が異質な存在であることは確かだが、ASEANが自らのイニシアティブで共同体構築に向かって先行することで克服されるのだろうか。
東北アジアの平和、核問題も大きな課題である。朝鮮半島の問題、焦眉の課題は、北朝鮮の核問題である。平和、友好はいうまでもなく経済統合の大前提である。核兵器に依存しない安全保障はこの地域だけでなく、世界的課題でもある。
アジアにおける貧困、各国間の格差、国内の格差拡大問題の解決も大きな課題である。一日の生活費が二ドル未満という人々の数は、この地域でまだ5億5千万人、全人口の29・3%を占める(世界銀行「東アジア地域報告書」2006年11月)。中間層の形成と増大がこの間のアジアの経済発展の重要な原動力になっているといわれるが、この貧困層の問題は今後の発展にとって大きな課題となっている。この問題を置き去りにしたままではやはり、アジアの共同体の実現は難しい(三浦一夫「東アジア共同体の課題を考える二つの視点」『前衛』2007・2/No.814)。
東アジアにおいて、世界の流れである地域の平和共同体形成に向かってASEANを中心に着実に前進していることだけは確かである。

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