プロメテウスの政治経済コラム

プロメテウスは人間存在について深く洞察し、最高神ゼウスに逆らってまで人間に生きる知恵と技能を授けました。

新型インフルエンザ メキシコからの輸出豚肉の9割が「日本向け」とは知らなかった!

2009-05-18 20:48:20 | 政治経済
私が住む関西地方にも、新型インフルエンザの感染の波が押し寄せてきた。厚生労働省は16日、新型インフルエンザ感染が疑われていた神戸市内の男子高校生について、国立感染症研究所の検査で、感染が確定したと発表した。検疫での水際阻止でない初の国内感染例になった
国立感染症研究所の田代真人インフルエンザウイルス研究センター長は17日、滞在先のジュネーブで記者団に対し、日本国内で新型インフルエンザの感染が確認されたことについて、「(感染者数は)すでに1000人レベルを超えた可能性がある」と述べた。田代氏は、新型インフルエンザの警戒レベル引き上げの是非を世界保健機関(WHO)事務局長に提言する緊急委員会の委員の一人。

実はこの人は、専門研究者の間で評判があまりよくない。一般に良心的な研究者ほど物言いは慎重なものだが、田代氏の発言は、安易に危機感を煽りすぎているというのだ。田代氏は、鳥インフルエンザ流行時には、「フェーズ6=パンデミック」になると触れ回った人物でもある(古川琢也「『パンデミック』危機が煽られた真相」『週刊金曜日』2009年5月15日)。
前にも書いたが「危機管理」の情報操作には別の目的が含まれていることが多いので、私たちは常に複眼的視点をもつ必要がある

それにしても何で鳥や豚に伝染病が発生するのだろうか。私は、『週刊金曜日』(2009年5月15日)の松平尚也さんのレポートを読むまで、メキシコでは、スミスフィールド社という悪徳アメリカ多国籍企業が豚肉生産を牛耳っており、メキシコからの輸出豚肉の9割は「日本向け」だとはまったく知らなかった。
2006年に映画『ダーウィンの悪夢』を観たとき、先進国の食卓をうるおす白身魚「ナイルパーチ」が、貧しいタンザニアのヴィクトリア湖岸地域にそしてアフリカ大陸に大きな惨劇をもたらしていることに衝撃を受けたが、メキシコの小規模養豚業者の犠牲の上にわれわれの食卓に豚肉があるのだという事実を知った。日本の食料自給率が40%という数字の裏には、世界の貧しい農民の汗と涙が満ち溢れているのだという事実に改めて深い思いをもった

鶏も豚もいまや効率化を追求する大規模な工業的畜産で飼育されている。工業的畜産では、できる限り早く育て、安く市場に出すために、蜜飼い・密閉式の飼育舎、飼料の多投による成長促進、ワクチン投与などコストパフォーマンスが追求される。養豚業で一番コストがかかるのが糞尿処理費であるが、悪徳アメリカ多国籍企業、スミスフィールド社はメキシコでこの処理費を浮かすために肥溜池をつくり垂れ流していた。悪臭やハエ退治のために、スミスフィールド系の大養豚場が16もあるメキシコ・ベラクルス州ラグロリア村の住民は大変苦しめられているという。汚水処理をまともに行わず、不衛生な工業的畜産が悪性の伝染病を生み出す原因となっても不思議ではない。大規模な蜜飼いをすることで、ウイルスが交雑し、糞尿や飼料、水や労働者の靴からウイルスが広範囲に広がる。

今回の豚インフルエンザの「最初の感染源」として疑われているのは、ラグロリア村のスミスフィールド社の養豚場である。住民は「グランド・ゼロ地」になってしまったと怒っているという。
スミスフィールド社は『フォーチェン』誌の500社に入る世界最大の多国籍養豚会社である。米国の消費者運動のリーダーであるラルフ・ネーダーさんらは、企業的犯罪や卑劣な事業を行う悪徳企業ワースト10を毎年、発表しているがスミスフィールド社は、これまでに三回もランク入りした“常連”である。

スミスフィールド社は、他のEU政府が関知しないところでひそかにポーランド、ルーマニアに、EU農業国への補助金を狙って進出している。ルーマニア西部のスミスフィールド社の養豚工場では、2007年に豚インフルエンザに罹り、燃やすことが間に合わない豚の死骸がごろごろしていたという。このときは、豚だけで、人には伝染しなかった(北沢洋子「スミスフィールド社のもたらした災厄」『週刊金曜日』同上)

日本の食料自給率が40%ということは、日本が世界に広がる米多国籍アグリビジネスと深い関わりをもっているということでもある。日本の肉の輸入量は、世界で貿易されている肉の10%にのぼる日本の豚肉輸入は03年にメキシコとFTA(自由貿易協定)を結んでから、急増した。そして、メキシコで豚の生産を大々的に行っているのが、同国の小規模養豚業者を駆逐し、環境保護をないがしろにして近隣住民を泣かせている悪徳アメリカ多国籍企業のスミスフィールド社である。一体誰の、なんのための貿易か、汚染米の輸入も含めて、WTO農業協定の意味を深く考えるべきときだろう。

最新の画像もっと見る

コメントを投稿

ブログ作成者から承認されるまでコメントは反映されません。