プロメテウスの政治経済コラム

プロメテウスは人間存在について深く洞察し、最高神ゼウスに逆らってまで人間に生きる知恵と技能を授けました。

ドキュメンタリー映画『靖国 YASUKUNI』   騒動のおかげで大盛況

2008-05-15 20:37:53 | 映画・演劇
大阪の劇場で映画『靖国』をみた。騒動のおかげで大盛況で昨日は上映30分前では入れず、今日再度挑戦した。東京渋谷の映画館も、一日4回の上映がすべて満席の盛況らしい。問題のきっかけとなった「反日的映画に助成しても良いのか」という、「週刊新潮」の報道や、国政調査権を振りかざして、イチャモンをつけた稲田朋美衆院議員や有村治子参院議員は、大失敗をやってしまった。多くの人びとが実際に映画をみて、「反日的映画」というのは、ためにするこじつけであり、「靖国」派の底の浅さを身をもって知ってしまったからである

「上映中止問題で、これだけ世論が盛り上がるとは予想外だった。自民党議員も右翼も振り上げた手のおろし方に困っている」。『靖国』を「反日映画」だと攻撃する記事をいち早く載せた『週刊新潮』関係者も戸惑っているという。上映中止の動きに対し、日本新聞協会、日本弁護士連合協会など多くの団体が次々と憂慮を表明。4月11日には、同映画の監督・李纓(りいん)さんやジャーナリスト・映画人ら16人が「表現者」として一堂に会し、国会で緊急記者会見を開催。映画への政治圧力と上映中止に抗議、表現の自由を保障するよう呼びかけた。同月23日には、日弁連などが『靖国』の試写会と「表現の自由を考えるシンポジウム」を開催。試写会は、定員200人にたいして1500人が応募するほどの関心の高さであった(「しんぶん赤旗」5月11日)。

「あの映画の問題では公安警察も動いた」右翼団体に詳しい関係者が「赤旗」記者に声をひそめて打ち明けた。自民党の有村議員が国会でとりあげた、同映画に登場する刀鍛冶の「撮影承諾の有無」についても、公安として独自に“裏取り”をした。「『反日』的なものにたいする警戒心と反発は、右翼も自民党も公安もみんな同じだ。ひとたび『反日』だと決めつけると徹底的につぶす」。自民党内の動きについてある自民党の衆院議員は、「安倍前首相が辞めてから勢いを失っていた『靖国』派議員が、久しぶりに存在感を示そうとした。『反日』を理由に威圧するのは、彼らの得意の手口だ」(「しんぶん赤旗」5月10日)。

この映画は、在日19年の、中国人のリ・イン(李纓)氏が、毎年8月15日に靖国神社で行われる、戦没者慰霊の祭礼を中心に、10年にわたって靖国周辺で撮りためた映像を、まとめたもので、実際に観てみるとよくわかるが、取り立てて「反日的」といえるようなものではない。靖国神社にまつわる様々な側面を、ナレーションによる評価を排して、淡々と描いている。その作風は、声高に何事かを主張しようとして、その主張のために映像を重ねるのではなく、目前の現実を静かに見つめ、丁寧な記録手段でその現実を切り取り、そこに存在し動いているものをそのまま提示している。たとえば、「旧日本軍の軍服を着て、進軍ラッパを吹き、『天皇陛下万歳!』と叫ぶ人がいる」「小泉首相の参拝風景も撮られているが、星条旗をなびかせてこれを歓迎するアメリカ人がいる」「韓国も台湾も、戦時中は日本の領土(植民地)であったことから、多くの韓国人・台湾人が、日本兵として応召され、結果戦死したのだが、だからと言って、韓国・台湾の戦死者を靖国に祀るのは、二重に民族の魂を奪うことだとして、韓国・台湾人の遺族が、合祀の取下げを求めて、抗議する場面もある」「境内で行われている靖国護持の英霊追悼集会に、傍らから大声で抗議し、逆に袋叩きに遭って、顔中血だらけになっても抗議し続ける、左翼闘士風の青年がいる」という具合である。

当然に、靖国神社が、戦前、戦中を通じて、どういう存在であったかという、言わば歴史的叙述についても、過去のニュース・フィルムや資料映像を使って提示されている。靖国神社がアジアに対する戦争遂行の精神的支柱であったことは、何人も否定できない。「靖国」派がいくらアジア解放、自衛の戦争だったと言っても、アジアの人びとにとっては日本の侵略戦争であることに変わりがない。
自分たちで「靖国」を問題として持ち出し、アジアの人びとに靖国を語るなといっても無理な話なので、靖国神社をそのまま描けば、自動的に「反日」的となってしまう。これは、「靖国」派の主観ではどうにもならない。そんな簡単なことを理解しようとしないばかりか権力で強引に無理を通そうとする。反撃を受けるのは当然だろう。

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