Dr内野のおすすめ文献紹介

集中治療関連の文献紹介が主な趣旨のブログ。
しかし、セミリタイアした人間の文献紹介なんて価値があるのか?

集中治療医学

2016年06月19日 | ひとりごと
そしてまたひとりごとに戻る。
最近、やっぱり多くの人は集中治療医学というものの存在を理解していないか認識していない、と感じる出来事がいくつかあった。
実例に基づいた話ではなく、common diseaseについての架空の例を提示する。この疾患を選んだことに深い意味は無い。

胃癌の患者さんが術後リークでショックとなり、再手術後にICUに入室したとしよう。Open ICUでは外科医が自分で管理をするので、血圧が低いから補液をしたり、昇圧剤を使ったり、気道確保されているので鎮静したり、人工呼吸器の設定をしたり、栄養の投与方法を決めたり、する。
当然その外科医は、胃癌については専門的知識がある。胃癌の疫学も、術式の選択による予後や合併症の発生頻度の違いも、術式の詳細も、文献的知識や最新のガイドラインや豊富な経験に基づいて知っていて、判断する。もし、試験問題で、”胃癌の治療について根拠に基づいて書け”と言われたら、A3の紙いっぱいに解答するに違いない(数年前までの集中治療医学会の専門医試験の形式)。
その人は、ICUで患者管理をするときに、胃癌と同程度の知識を自分は持っているのか、と自問自答するのだろうか。

例えば補液をするという行為だけでも、世の中にはすさまじい量の情報がある。補液は何を目的にするのか、どんなときにするべきか、何を投与するべきか、どんな合併症がどんな頻度で発生するのか、予後にどう影響するのか。もし”重症患者に対する補液について根拠に基づいて書け”と言われたら、集中治療医ならNEJMの研究を参照したりしながら、A3の紙いっぱいに解答するに違いない。補液についての最新の文献なんて外科医がたくさん読んでいたらビックリだし、そんな暇があったら胃癌の勉強をしてほしいと思う。

もしこの患者さんに皮疹が出たら、とりあえず何か塗り薬を処方して、それで改善しなかったら皮膚科医を呼ぶだろう。緑内障発作を起こしたら速攻で眼科医を呼ぶだろう。だって自分に知識が無いことを知っているから。じゃあショックになったら?呼吸不全になったら?
集中治療医学というものが存在することを認識するのは、消化器外科学や皮膚科学や眼科学が存在することを認識するのと同じくらい、簡単だ。自分に聞けばいい。自分は補液について胃癌と同程度の知識を持っているのか、と。

どういうわけか集中治療医は、いや日本の集中治療医はと言ったほうがいいか、集中治療医学というものが存在するということを説明しないといけない状況に置かれる。単純に不思議だ。

来年の集中治療医学会総会のテーマは、ずばり、”集中治療と集中治療医学”。
日本中の自問自答できない医者が来ればいいのに。
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