Dr内野のおすすめ文献紹介

集中治療関連の文献紹介が主な趣旨のブログ。
しかし、セミリタイアした人間の文献紹介なんて価値があるのか?

集中治療部は人の命を救えるのか?

2014年10月19日 | ひとりごと
アバウトに計算をしてみる。

慈恵のICUには、24時間以上ICUに滞在する成人患者さんが年に約600名、その病院死亡率は約10%だ。この数字は国際的に見ても普通。例えばANZICSのデータを見ても、同程度。

次。
かの有名なPronovostのメタ解析では、high-intensity staffing(closed ICUもしくはmandatory consutltation)の病院死亡率のリスク比は0.71、もっと最近の研究だと0.83。
慈恵ICUはclosed ICUじゃなくてmandatory consultation(ICUに医者がいつもいて、すべての治療方針決定に関与する)なので、high-intensity。ということは、病院死亡率のリスク比は集中治療部がない状況に比べてだいたい0.8になっている、と仮定する。

さて、小学生レベルの計算。
集中治療部があることによって、生きて病院を退院できる人の数は1年あたり、
600 x 10% x (1 / 0.8 - 1) = 15
つまり、月に一人とちょっと。

みんなで毎日カンファレンスして、
毎週勉強会して、M&Mとかグリーフカンファとかして、
感染予防だ、手指衛生だって騒いで、
早期リハビリがんばるぞーってして、
あれもして、これもして、
月に一人。

もちろん、ICUは命を救うだけが仕事じゃない。長期予後の改善にもつながるかもしれないし、QOLを良くするかもしれないし、場合によっては平和に死ねる場所(であるべき)かもしれない。地球よりも重い命が月に1つも救えるなんて素晴らしい、という見方もできる。

ただね、時々、自分たちのしていることが患者さんのためになっているのか、疑問に思えてしまうことがある。
手術の合併症が予後を決めてしまっていたり、ICUに来た時には介入の余地のない重症度だったり、ICU在室中に予防可能とは考えにくい合併症を起こしたりで、無力を感じることも少なくないし。手技に関連した合併症が起こったり、判断を誤ったりして、患者さんに悪影響を与えてしまうこともあるし。
こんな研究もあるくらいだし。

でもね、じゃあ集中治療部なんか無くてもいい、とは思ってないぞ。
ただ、
そんなすごいことはしていないのだから、謙虚であるべきだとは思うのと、ちょっとしたことで月に一人が容易にゼロにもマイナスにもなっててしまう可能性があるのだから、1つ1つのことをちゃんとやることがとっても大事なんだとも思う。
それだけ。

ひとりごとですよ、ひ・と・り・ご・と。
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2 コメント

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Unknown (いやいや、、すごいですね)
2014-10-29 19:55:29
そんなに慈恵のICUでは患者さんが死亡しないんだ。
すごいなー 24時間以上ICUに在室した患者さんで月に亡くなるのは1~2名ってことですか
high-intensity staffingってそんなにすごいんだ
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Unknown (Xe)
2014-11-04 09:01:07
いや、慈恵ICUの年間入室者が約600人で病院死亡率は約10%とのことですので、だいたい年間60人、月に5人前後がお亡くなりになられている、ということではないでしょうか。
high-intensity ICUでなければこの人数は1人前後多くなる「かもしれない」という主旨ではないでしょうか。

すみません、誤解が生じていそうでしたので差し出がましくも横からコメントさせていただきました。

そして僭越ながら内野先生へお礼を申し上げたいと思います。
ブログ一旦休止とのことお聞きしました。
このブログでは非常に幅広い文献紹介というのももちろんですが、私とは異なった角度からの意見を紹介していただいていたり、とても勉強させていただいていました。
ありがとうございました。先生のご都合がつき再開いただける日を楽しみにしています。
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