実は医案には3歳の女性とあるのですが、使用されている薬剤量が成人の量ですので、加えて3歳で慢性腎盂腎炎の西洋医診断は不自然な感じが否めませんので、私が勝手に「成人女性」としました。通常は患児(患儿)、患児を取り巻く家族環境についての記載がどうしても記載されてくるものですが、全く記載が無いので、「3歳」の「女」は起稿する段階、あるいは製本する段階でのミスではないのかと強く疑います。
( )内に随時、解説やコメント、印象を入れます。
患者:郎某 成人女性
初診年月日:2003年4月6日
主訴:腰痛一年、加重一週、尿道灼熱感を伴う、夜間頻尿
病歴:
患者は1年前、寒さに当たり発熱、腰痛出現、尿中白血球出現(具体数不詳)、当時の診断は急性腎盂腎炎、治療後病情は好転、但し腰痛発作があり、過労が誘因となることが多かった。ここ一週腰痛が加重。
(発熱 腰痛 尿中WBCなどから当初は急性腎盂炎であったろうと推定します。恐らくは抗生物質の投与にて解熱し症状は治まったのでしょう。しかし完治までには至らなかったのか、発熱までは起こさない再発を繰り返していたのかと推定します。)
初診時所見:
後背痛 腰痛、双下肢乏力、尿黄、時に尿道灼熱感あり、夜間頻尿4~6回、多夢。(これは問診が主体ですので3歳の子供がここまで話をしたとは思えません。)
尿検査:蛋白(-)、沈渣WBC30~35個/HP、RBC1~2個/HP、超音波検査:双腎集合系配列不規則。
(集合管から腎盂までの変化を来たしていますので、慢性腎盂(腎炎)という西洋医診断になるでしょう。3歳の子供では考えにくいものです。)
中医弁証:気陰両虚 膀胱湿熱
(気陰両虚と弁証した根拠が示されていませんね。舌象や脈の記載が無く、口干などの症状の記載もありません。)
西医診断;慢性腎盂腎炎
治法:益気養陰、清利湿熱
(弁証からの治法ということになります。)
方薬:参耆地黄湯加味:
熟地黄20g 山茱萸20g 山薬15g 茯苓15g 牡丹皮15g 澤瀉15g 黄耆30g 党参20g(ここまでが参耆六味地黄湯です:益気補腎陰に作用します) 杜仲(補肝腎、強筋骨、安胎)15g 桑寄生(祛風湿強筋骨薬に分類。帰経 肝腎 肝(筋)腎(骨)効能:祛風湿 養血 強筋骨 補肝腎 養血安胎)15g 女貞子(養陰)20g 莵絲子(補陽)15g 巴戟天(温潤 補腎助陽、袪風除湿)15g 甘草15g 白花蛇舌草(清熱解毒利湿)30g 金銀花(清熱解毒利湿)30g 砂仁(化湿行気和中)15g 陳皮(行気和中化湿)15g 麦芽(消食導滞)30g
14剤、水煎服用、1日1剤、2回に分服。
処方解説:
益気養陰目的で参耆(黄耆 党参)六味地黄湯となります。
杜仲 桑寄生 は腰痛を意識した配伍です。
治法の清利湿熱目的に、白花蛇舌草 金銀花が配伍されました。
女貞子、莵絲子は広い意味で補腎と考えれば良いのでしょう。前者が養陰、後者が補陽であり、陰陽双補になります。
巴戟天は湿を除くには目的に適っていますが、温腎助陽の性質は治法の清利湿熱とはやや矛盾しますが、氏の医案では巴戟天の配伍が多いのが事実です。これも、陰陽双補の類になるでしょう。
二診:2003年4月23日
服薬後腰痛減軽、夜間尿2~3回、食欲不良、脚が冷える。舌質紅苔白、脈沈。
尿検査:蛋白(-)、WBC4~6個/HP、RBC2~5個/HP
方薬:
熟地黄20g