腎陽虚衰の一方で膀胱湿熱という虚実挟雑の症例治療についてお話します。<o:p></o:p>
( )内に随時、解説や私の印象を述べます。平たく言えば冷え性と尿路感染症の関係ということになります。<o:p></o:p>
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患者:高某 37歳<o:p></o:p>
初診年月日:1987年12月23日(古い症例です)<o:p></o:p>
主訴:反復性尿意切迫、排尿痛十年、加重一年。<o:p></o:p>
病歴:<o:p></o:p>
10年前冷えを感受してから尿意切迫、排尿痛が出現、治療にて症状消失、その後、同様の発作があったが、ここ1年発作の回数が増加した。4ヶ月前、過労が原因で、冷えを感受し、頻尿、尿意切迫、排尿痛、下腹部の下垂感を伴う痛み、腰痛が出現、??氨?(セフェム系抗生物質セファレキシン)及び白霉素(マクロライド系抗生物質ロイコマイシン)治療により症状緩解。2週前同様の症状が再発、反復して軽快しない。<o:p></o:p>
初診時所見:<o:p></o:p>
腰痛腰酸、下腹部の下垂感を伴う冷痛、頻尿、尿意切迫、排尿痛、手足と双下肢の浮腫、畏寒乏力、舌苔白滑、脈沈弱。尿蛋白+、尿WBC0~2個/HP、中間尿培養;細菌数1x10の8乗菌集落/L以上。<o:p></o:p>
(日本での尿培養の定量検査では単位は/mlが通常ですので、上記は1x10の5乗以上となり有意に菌コロニーが多いと判断されますが、大腸菌、Proteus属、Klebsiella属、Staphylococcus等の有意病原菌の同定は有りません。このような症例ではカテーテル尿での培養と共に、有意菌の同定が必要でしょう。中国東北部では入浴の習慣が有りませんし、年代から判断しても、果たして中間尿の培養だけでよいものやら疑問です。セファレキシンやロイコマイシンを服用し続けていたとしたら、症状があっても尿培養で陰性のことも有りますので、ある程度繰り返して検査する必要があります。)<o:p></o:p>
中医弁証:腎陽虚衰、膀胱湿熱<o:p></o:p>
西医診断:慢性腎盂腎炎<o:p></o:p>
治法:温補腎陽、清熱利湿<o:p></o:p>
方薬:<o:p></o:p>
熟地黄(補肝腎養血滋陰、補精益髄)20g 山茱萸(補腎陰 収斂固渋)15g 肉桂(温裏散寒、補火助陽、引火帰源)10g 附子(補火助陽 散寒止痛 回陽救逆)10g 茴香(理気和胃 散寒止痛)10g 補骨脂(辛苦大温 補腎壮陽 温脾止瀉 固精縮尿)10g 澤瀉(利水滲湿 泄腎濁)15g 黄柏(清熱解毒燥湿 退虚熱 堅陰)15g 瞿麦(活血利水通淋)20g 萹蓄(利水通淋)20g 蒲公英(清熱解毒燥湿)30g 白花蛇舌草(清熱解毒燥湿)30g 甘草(調和諸薬)10g<o:p></o:p>
14剤、水煎服用、1日1剤、2回に分服<o:p></o:p>
(1980年代の症例ですので使用薬剤数が少ないですね。附子まで配伍された温薬群と涼寒薬群の2群に見事に分かれています。)<o:p></o:p>
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二診:1988年1月7日。<o:p></o:p>
頻尿、尿意切迫、排尿痛消失、腰痛、下腹部の下垂痛はまだ比較的顕著、手足と双下肢に軽度浮腫残存。方薬は効果ありと判定し、温補腎陽、清熱利湿法を継続、前方加味方とした。<o:p></o:p>
方薬:<o:p></o:p>
熟地黄20g 山茱萸15g 肉桂10g 附子10g 茴香10g 補骨脂10g 澤瀉15g 瞿麦20g 萹蓄20g 蒲公英30g 烏薬(温腎散寒 行気止痛)15g 杜仲(補肝腎、強筋骨、安胎、炭化すれば止血)15g 甘草10g<o:p></o:p>
12剤、水煎服用、1日1剤、2回に分服<o:p></o:p>
(黄柏 白花蛇舌草が除かれ、温腎散寒、行気止痛の烏薬、補肝腎強筋骨の杜仲が加味されています。単純生薬数比では温薬:涼寒薬=2:1であり偏温の組成になっています。)<o:p></o:p>
経過:<o:p></o:p>
継続服用12剤で、下腹部の痛みは顕著でなくなり、腰痛は減軽した。尿量は比較的多く、舌苔薄白、脈沈滑。<o:p></o:p>
1月22日再度尿検査:蛋白(-)、WBC0~1個/HP、中間尿培養陰性。上方を継続服用(10~20剤)するように患者に言い、治療効果を固めた。半年後再発無し。<o:p></o:p>
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ドクター康仁の印象<o:p></o:p>
見事な治療結果でした。しかし根が西洋医である私には、いったいどの生薬が静菌的に作用したのかという疑問が残ります。そもそも初診時の尿蛋白+、尿WBC0~2個/HPは非常に軽度な異常です。1月22日再度尿検査:蛋白(-)、WBC0~1個/HPと著変は有りません。初診時の中間尿培養;細菌数1x10の8乗菌集落/以上が4週前後で陰性になるとは見事?ですが、慢性腎盂腎炎の西洋医診断からして大いに疑問がのこります。初診時は黒龍江省の厳冬時期です。慢性の尿道炎が悪化して、同時に膀胱炎も併発し、(膀胱炎ではまま浮腫を伴います)、冷え性(陽虚)による腰痛を元来患者が有していたのかとも思うのですが、さあどうなんでしょうか。セファレキシンやロイコマイシンは果たして完全に中止していたのかというような素朴な疑問すら湧いてきます。本案は虚実のみならず寒熱挟雑、人体は複雑系ですね。<o:p></o:p>
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よく言われるように、漢方は体質の改善に主眼があるのです。寒邪を受けやすい基本的な腎陽虚体質を主眼にして、主に温薬による治療の奏功症例が本案と言えるでしょう!見事ですね!<o:p></o:p>
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2014年5月14日(水)<o:p></o:p>