益気涼血清利方は張琪氏の自創方で、いままでに紹介したことは有りません。医案中で登場するのは今回が初めてです。<o:p></o:p>
どのような、方薬組成で、どのような患者に用いられたのでしょうか?<o:p></o:p>
それでは医案に進みます。<o:p></o:p>
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患者:邱某 14歳 女児<o:p></o:p>
初診年月日:1993年4月2日<o:p></o:p>
主訴:肉眼的血尿2ヶ月<o:p></o:p>
病歴:<o:p></o:p>
2ヶ月前、感冒後に肉眼的血尿が出現、その後、ハルピン市某病院で入院治療1ヶ月、ペニシリン点滴静注、ビタミンK1筋肉注射等を受けたが全て明らかな好転が無かった。<o:p></o:p>
(IgA腎炎、慢性腎炎の急性悪化によく見られる肉眼的血尿の臨床パターンですが2ヶ月も肉眼的血尿が続くことは稀です。)<o:p></o:p>
初診時所見:<o:p></o:p>
手心熱、尿黄、舌質淡紅、苔白微膩、脈数。尿蛋白+、尿RBC満視野/HP、WBC2~3個/HP。<o:p></o:p>
中医弁証:気陰両虚、湿熱留恋、血失固摂<o:p></o:p>
(血失固摂とは一般的に気虚のために血が統血されず脈管から溢れるという状態を表す用語です。湿熱留恋の湿熱の熱邪が経脈を傷し、尿血が生じるというのも中医理論ですから、益気と清利湿熱、涼血が、弁証からもたらされる治療法になるでしょう。)<o:p></o:p>
西医診断:隠匿性糸球体腎炎<o:p></o:p>
方薬:益気涼血清利方:<o:p></o:p>
黄耆(益気)30g 党参(益気養陰)20g 生地黄(養陰清熱)20g 赤芍(清熱涼血 祛瘀止痛)20g 黄芩(苦降/寒 清熱解毒利湿)15g 白茅根(甘/寒 涼血止血、清熱利尿)25g 小薊(涼血止血、解毒消癰)30g 側柏葉(涼血止血)20g 山梔子(苦/寒 瀉火除煩、清熱利湿、涼血解毒)15g 旱蓮草(養陰止血)20g 甘草(調和諸薬)15g<o:p></o:p>
14剤、水煎服用、1日1剤2回に分服<o:p></o:p>
(黄耆を除き涼寒薬が殆どですね。黄耆 党参で参耆になり益気養陰、生地黄は養陰清熱、黄芩、山梔子と苦寒薬があり清熱解毒利湿、旱蓮草は養陰薬でもあり止血薬でもあります。益気養陰涼血清利方と命名していますが、清熱解毒薬の配伍があります。1993年の症例ですから、使用薬剤数が少ない印象です。2000年代になると山梔子は止血作用を強化した焦梔子となっている医案がほとんどです。)<o:p></o:p>
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二診:1993年 4月16日<o:p></o:p>
前方服薬2週、尿色、面色も改善し、手心熱減軽、尿RBC30~40個/HP。阿膠(養血止血 養陰潤肺)15g 地楡(涼血止血、解毒収斂)20gを加え前方継続。<o:p></o:p>
方薬:益気養血清利方:<o:p></o:p>
前方+阿膠(養血止血 養陰潤肺)15g 地楡(涼血止血、解毒収斂)20g<o:p></o:p>
20剤、水煎服用、1日1剤2回に分服<o:p></o:p>
(2000年代の医案では地楡は地楡炭になっている場合が殆どです。)<o:p></o:p>
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三診:1993年5月6日<o:p></o:p>
尿色淡黄、舌質淡紅、舌苔薄白、他に自覚症状なし。尿蛋白転陰、尿RBC4~6個/HP。病情は明らかに好転、その後、益気滋陰涼血清利法による治療一月余、尿検査正常。追跡調査半年、病情穏定、臨床的に治癒と判定した。<o:p></o:p>
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ドクター康仁の印象<o:p></o:p>
2ヶ月も続いた女児の肉眼的血尿を2ヶ月余で完全緩解まで持ち込んだ見事な治療効果でした。<o:p></o:p>
益気涼血清利方の方証を整理すれば以下のようになります。<o:p></o:p>
各種糸球体腎炎の肉眼的あるいは顕微鏡学的血尿<o:p></o:p>
尿黄赤<o:p></o:p>
倦怠乏力<o:p></o:p>
五心煩熱、口干黏、舌淡紅~或いは紅、苔白微膩或いは少苔<o:p></o:p>
(証は気陰両虚、湿熱留恋、血失固摂に属する)<o:p></o:p>
いままでの張琪氏の処方の流れから推定すると、熱盛であれば白花蛇舌草等の加味、湿熱が次第に除かれ尿所見が軽くなれば、竜骨 牡蠣 海螵蛸 茜草などの固渋収斂、涼血化瘀止血剤の加味となるような気がします。<o:p></o:p>
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西洋医学のような疾患別因果律とは異なり、患者個人個人によって治療法が異なるところが中医学の「特徴と言えば特徴」、「特徴の無さといえば無特徴」と言えます。<o:p></o:p>
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そもそも、「湿」という病理概念が西洋医学にはありません。西洋医学には「陰陽」の概念も無いのですから、当然、「陰と湿の違い」も無いのです。<o:p></o:p>
「気」という概念も無いので、気陰両虚などを定量的に表現は出来ないのです。「利湿しても陰を傷つけず」などになると、「住む世界が違うので、説明不可能」となります。<o:p></o:p>
残念ですが市民講座の限界を感じざるを得ません。<o:p></o:p>
中医は病理産物の「湿、痰、瘀血」に対して祛湿、化痰、祛瘀という具合に治療する一方、患者さんの体質の「気 血 陰陽」の変化も重視し、治療します。中医学ならではの良さ(特徴)かも知れませんね。<o:p></o:p>
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2014年5月2日(金)<o:p></o:p>