ある産婦人科医のひとりごと

産婦人科医療のあれこれ。日記など。

福島県立大野病院の医師逮捕事件について(自ブロク内リンク集) 

2007年07月21日 | 報道記事

自ブログ内リンク集

2006/02/19 癒着胎盤で母体死亡となった事例

02/21 今後の周産期医療の方向性について
02/23 医師の集約化、地域連携、および次世代の育成
02/25 母体死亡事例の少し詳しい経緯
02/26 話題となっている母体死亡事例に関する私見
02/28 続・今回の母体死亡事例に関する私見

03/01 癒着胎盤について
03/03 癒着胎盤の定義について
03/03 福島県の地元紙の報道内容
03/05 癒着胎盤に関する個人的な経験談
03/06 東京都医師会の声明文
03/06 日本産科婦人科学会・日本産婦人科医会からのお知らせ
03/06 神奈川県産科婦人科医会の抗議声明
03/06 福島県産婦人科医会からのメッセージ
03/08 母体死亡となった根本的な原因は?(私見)
03/08 朝日新聞記事: 産科医逮捕に困惑 時時刻刻
03/09 浜通り3医師会が大野病院の医師逮捕で声明文
03/09 加藤医師を支援するグループの声明
03/10 朝日新聞記事、県立病院医師逮捕/応援の提案応ぜず
     大阪府保険医協会の抗議声明
     新生児医療連絡会の声明
03/10 日本産科婦人科学会・日本産婦人科医会の抗議声明
03/10 福島県立大野病院の医師起訴についての報道(3月10日)
03/11 福島県立大野病院の医師起訴についての報道(3月11日)
03/11 福島県立医大:佐藤章教授のコメント
03/12 今後、産科医療はどうなってしまうのだろうか?
03/12 医師法21条の解釈
03/14 医師の拠点集約へ
     全国保険医団体連合会の抗議声明
03/14 TBSのニュース:手術ミス?産婦人科医逮捕で波紋広がる
03/14 茨城県産婦人科医会の抗議文
03/15 加藤先生、保釈のニュース
03/15 朝日新聞記事(福島) 医師逮捕・詳細(上・中)
03/15 大分県産婦人科医会の抗議声明
03/15 福岡県産婦人科医会の抗議声明
03/16 朝日新聞記事(福島) 医師逮捕・詳細(下)
03/16 日本産科婦人科学会と日本婦人科医会の合同記者会見
03/17 報道: 福島県立医大医師会の声明
03/17 読売新聞記事: 医療ニュース
03/18 周産期医療の崩壊をくい止める会が厚労相に陳情書を提出
03/18 河北新報: 医療界反発 異論も噴出
03/23 福島県立大野病院事件に対する日本医師会の考え
03/23 岩手県産婦人科医会の抗議声明
     広島県医師会の声明文
     厚生労働省 定例事務次官記者会見概要 2問目
03/24 新聞報道: 今後の地域医療(福島県)
03/27 報道記事:全国周産期医療連絡協議会の声明
          山口県支部の声明
   栃木県支部の声明
03/28 町長ら、大野病院に産婦人科医の確保を要望
03/29  日本医師会のホームページ
    福島県立大野病院の医療事故問題について

04/01 青森県臨床産婦人科医会の抗議声明
04/03 千葉県産科婦人科医会の声明
04/04 「周産期医療の崩壊をくい止める会」が緊急会見
04/08
産科医逮捕に高まる“抗議”
04/11 横浜市医師会・横浜市産婦人科医会の抗議声明
   北海道産婦人科医会・北海道産科婦人科学会の声明
04/12 朝日新聞:医療事故 揺れる検証法
04/14 神戸市中央区医師会の声明
  日産婦学会群馬地方部会・日産婦医会群馬県支部の声明
04/17 朝日新聞:医師逮捕事件 富岡署を表彰
04/19 福島県警察本部長のスピーチ
04/20 日本医師会:唐澤会長、木下常任理事記者会見:
  大阪府保険医協会:不当な表彰の撤回求め要求書提出

05/01 福島市で地方公聴会(衆議院厚生労働委員会)
05/02 AERA:医療と司法
05/05 河北新報:県立大野病院事件の産科医療への影響
05/09
報道記事:地方公聴会(衆院厚生労働委員会)
05/12 福島県内医療関係四団体共同声明
05/14 
朝日新聞社 論座:中立の強み
05/15 朝日新聞社説:医療事故 教訓を生かしてこそ
05/17 日本産科婦人科学会、日本産婦人科医会:
    県立大野病院事件に対する考え
    毎日新聞:医師逮捕に抗議、県保険医協会/岩手
05/18 大野病院の妊婦死亡 「公判前整理手続き」適用
         福島県立大野病院の医療事故に関わる要望書
05/20 毎日新聞:「医療判断制度を」医学部長会議が声明
05/23 全国医学部長病院長会議声明(全文掲載)
05/25 茨城県医師会 萎縮医療に陥らないために
         日本産科婦人科学会が厚生労働大臣と意見交換・
         医療紛争解決に中立機関を要望
05/26 読売新聞:日本の制度不備を痛感
05/27 読売新聞:医療事故 摘発どこまで
05/30 日本医学会会長:『妊婦さんは喫煙しないでください』

06/05 朝日新聞 論座: 事故は避けられなかったのか
06/13 福島県警察医会:大野病院医療事故の問題点指摘
06/30 大野病院事件「表彰」は妥当?(県議会一般質問)

07/09 大野病院医療事故:産婦人科医弁護団の動き(毎日新聞)
07/12 大野病院事件に関する地元紙の報道
07/22 県立大野病院事件、第1回公判前整理手続き、福島地裁
07/28 公判概略について

08/13 大野病院医療事故:初公判11月以降に 第2回公判前手続き、争点絞り込めず(毎日新聞)

09/17 大野病院医療事故:裁判所が争点初提示 初公判12月に (毎日新聞)
09/21 日本周産期・新生児医学会の声明文
09/25 公判概略について(06/9/23)

10/13 初公判は来年1月26日に 福島の病院医療事故
10/24 公判概略について(06/10/19)

12/08 日本医学会、声明文
12/16 県立大野病院事件 公判前整理手続き終了

07/01/08 公判概略について(06/12/19)
01/25 県立大野病院事件あす初公判「癒着胎盤」対応最大の争点 (読売新聞)
01/26 福島県立大野病院の医師逮捕は不当
01/27 福島県立大野病院事件・初公判の報道
01/28 県立大野病院事件、初公判の翌日の報道
01/29 加藤先生の初公判後のインタビュー記事
01/31 第一回公判について(07/1/30)

02/01 福島県立大野病院事件、冒頭陳述の要旨(Ohmy News)
02/03 緊急特集 揺れる産科医療/周産期医療の悪循環に警鐘 (Japan Medicine)
02/11 枝野議員と柳沢厚労相との質疑応答(国会衆院予算委)

02/18 あれから1年

02/22 ブログ上で大野病院・加藤医師の支援の動き広がる(医療タイムス、長野)
02/24 大野病院事件 検察側証人が被告に理解示す証言(読売新聞)

03/17 大野病院事件 第3回公判

04/28 大野病院事件 第4回公判

05/26 福島県立大野病院事件・第五回公判

07/21 大野病院事件 第6回公判

08/31 大野病院事件 第7回公判

09/29 大野病院事件 第8回公判

10/27 大野病院事件 第9回公判

11/30 大野病院事件 第10回公判

12/22 大野病院事件 第11回公判

08/1/25 大野病院事件 第12回公判

02/18 あれから2年

03/22 大野病院事件 論告求刑公判

05/17 大野病院事件 弁護側の最終弁論
05/21 福島県立大野病院事件 「無罪」と最終弁論で弁護側が改めて主張 (m3.com医療維新)
05/28 大野病院事件の影響

06/03 産婦人科医を追い込む国が少子化をますます加速させる!
06/11 逮捕、裁判、産科崩壊。そして患者だけが取り残された―。(女性自身)

08/05 特集「大野病院事件判決」(共同通信)
08/07 シンポジウムのお知らせ(大野病院の判決日、福島に集まりましょう!)
08/09 全国医師連盟 大野病院事件判決に向けて声明 「患者・家族救済制度」設立を要望
08/12 大野事件から三次試案を振り返る、医療再生への道探る―医療制度研究会
08/16 大野病院事件 8月20日に判決
08/20 大野病院事件 産婦人科医 加藤克彦被告に無罪判決 (速報)
08/21 大野病院事件 産婦人科医 加藤克彦被告に無罪判決 (詳細)
08/22 癒着胎盤をどう処置すべきだったか?(朝日新聞・時時刻刻)
08/28 大野病院事件: 検察側が控訴断念の方向で最終調整
08/29 加藤先生の無罪が確定へ!

09/04 加藤先生の無罪確定
09/21 大野病院事件の教訓
09/26 福島県立大野病院事件を無駄にしないために

10/02 大野病院医療事故:医師の懲戒処分取り消し 事故調報告書は訂正せず
10/11 刑事裁判は○か×かを決めるゲーム

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●2005年3月の報道●
http://goby.jp/m/archives/000444.html (mariboo's blog

***** Yahoo!ニュース - 毎日新聞、福島(2005年3月31日)

大野病院医療ミス:無理な処置で大量出血、医師不足も死亡原因に--県事故調 /福島

 大熊町下野上の県立大野病院(作山洋三院長)で帝王切開の手術中に妊婦が亡くなった医療ミスで、県の事故調査委員会(委員長、宗像正寛・県立三春病院診療部長)は30日の会見で、無理な処置が大量出血を招き、医師不足も死亡の原因になったと結論づけた。【岩佐淳士】
 ◇県「誠意持ち遺族に対応」
 調査報告によると、妊婦は胎盤が子宮内部の筋肉にくっつく癒着胎盤の状態だったため、執刀医は胎盤を子宮から手ではがし切れず、手術用のはさみではがした。
 その間に約5000ミリリットルの出血があり、止血や輸血をしたが間に合わず、心室性不整脈を起こして死亡した。出血は無理に胎盤をはがしたためで、すぐに子宮摘出すべきだったという。さらに、医師不足で、医師の応援や輸血体制が十分でなかったことも要因とした。
 宗像委員長によると、癒着胎盤は2000~4000人に1例程度。はさみで胎盤をはがす方法は通常あり得ないといい、「胎盤の剥離(はくり)が難しい時点でやめていれば助かる可能性は高かった」と指摘している。
 手術は執刀医(産婦人科専門医)と助手(外科医)、麻酔医(麻酔科専門医)と看護師数人で行われた。執刀医は、30代の男性で産婦人科の専門医として、9年目。
 記者会見で県病院局の秋山時夫局長は「今後事故防止に努め、遺族に対して誠意を持って対応したい」と述べ、作山院長とともに頭を下げた。

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報告書(県立大野病院事故調査委員会)の全文

「houkokusho.pdf」をダウンロード


転院断られ死亡の妊婦、詳細な診療情報がネットに流出(読売新聞)

2007年05月04日 | 報道記事

コメント(私見):

当時の読売新聞の記事(2006年10月31日)にも詳細な診療情報の記載やカルテの写真【画像】がありましたし、毎日放送のニュース番組(2006年11月2日)の映像にもカルテの写真【画像】が映ってました。

また、その後の情報で、2006年10月21日放映のTBS「ブロードキャスター」にカルテのコピーの映像【画像】があったことも判明しました。(5月8日に追記)

従って、当時、マスコミ側にはカルテのコピーが広く配布されていたと考えられますし、その配布された資料をもとにして書かれた当初の報道記事には専門医による医学的な検証がほとんどなく、担当医師の責任を追及する一方的な記事が多かったのは確かです。

しかし、この事件に関する最初の報道記事を読んだ時に、『待てよ。詳細はよくわからないけれど、もしかして、この事例は、医療過誤事件というより、むしろ、地域医療体制の不備が根本的な問題ではないのだろうか?』と感じました。他の医師たちのブログでも、同様の感想を多くみかけました。

            △

ところで、最近は、電子カルテを採用する病院が多くなり、患者さんへのカルテ開示は非常に容易になりました。診療中に患者さんから「今日の診療記録と検査結果を全部プリントアウトしてください」と言われれば、ワンクリックですぐに何でもプリントアウトでき、手術記録でも、病理検査レポートでも、エコーやMRIの写真でも、何でも気軽にどんどんプリントアウトして、患者さんに手渡してます。ですから、基本的に病院側と全く同じ診療情報が患者さん側にも存在することになります。

その情報を、患者さん側は自由にどこにでも公開できるが、病院側は一切外部に漏らしてはならないということになります。そういうことになると、万が一、診療情報の都合のいい部分だけを公開して、病院や医師個人を不当に攻撃するような人が出現した場合には、病院側としては一体全体どうやって反論したらいいのでしょうか? 法律的にはどうなっているのか、さっぱりわかりません。非常に難しい問題だと思われます。

参考:

転送拒否続き妊婦が死亡 分娩中に意識不明

奈良県警が業務上過失致死容疑で捜査へ 妊婦死亡問題

産婦人科医会「主治医にミスなし」 奈良・妊婦死亡で県産婦人科医会 (朝日新聞)

妊婦転院拒否、断った大阪に余裕なし 満床や人手不足 (朝日新聞)

<母子医療センター>4県で計画未策定 国の産科整備に遅れ

奈良の妊婦死亡、産科医らに波紋 処置に賛否両論

医療機関整備で県外派遣産科医の撤収へ 奈良・妊婦死亡 (朝日新聞)

****** 読売新聞、2007年4月29日

転院断られ死亡の妊婦、詳細な診療情報がネットに流出

 奈良県大淀町の町立大淀病院で昨年8月、○○○○さん(当時32歳)が出産時に脳内出血を起こし、19病院に転院受け入れを断られた後、死亡した問題で、○○さんの診療経過など極めて詳細な個人情報がインターネット上に流出していることがわかった。

 情報は医師専用の掲示板に、関係者らしい人物が書き込んだとみられ、「転載して結構です」としていたため、同じ内容が、医師や弁護士など、かなりの数のブログに転載されている。

 遺族側の石川寛俊弁護士が28日、大阪市内で開かれた産科医療をめぐる市民団体のシンポジウムで明らかにした。石川弁護士は、個人情報保護条例に基づく対処を町に要請した。遺族は条例違反(秘密漏示)などでの刑事告訴も検討している。

 書き込みは、昨年10月に問題が報道された翌日から始まった。仮名で「ソース(情報源)が確実なきょう聞いた話」「この文章はカルテのコピーを見ながらまとめました」などとして、最終月経の日付から妊娠中の経過、8月7日に入院して意識不明になるまでの身体状況や検査値、会話など、カルテや看護記録とほぼ同じ内容を複数回に分けて克明に書き込んでいた。

 この中には、入院前の記録など、当時、遺族が入手していなかった内容や、医師の勤務状況など病院関係者しか知らない内容も含まれていた。

 石川弁護士は「主治医と家族のやりとりを近くで聞いていた人物としか思えない書き込みもある。許しがたい」と批判している。

 遺族は「あまりに個人的な内容で驚いた。患者の情報が断りもなく第三者に伝わるなら、診察室で何も言えない」と話している。

 大淀病院の横沢一二三事務局長は「○○さんが入院した日に病院にいた職員を対象に聞き取りをした。全員が『情報を漏らしたことはない』と答えたので調査を終えたが、遺族の弁護士には伝えていない。掲示板の運営事業者への照会などは思いつかなかった。再度検討する」と話している。

(読売新聞、2007年4月29日)

****** 毎日新聞、2007年4月29日

診療情報流出:19病院で転送断られた妊婦遺族が告訴へ

 奈良県大淀町の町立大淀病院で昨年8月、分娩(ぶんべん)中に意識不明になった○○○○さん(当時32歳)が、県内外の19病院で転送を断られた末に搬送先の病院で出産後に死亡した問題で、○○さんの診療情報がインターネット上に流出していたことが分かった。遺族は被疑者不詳のまま町個人情報保護条例違反容疑で、5月にも県警に告訴する。

 流出したのは、○○さんの看護記録や意識を失った時刻、医師と遺族のやりとりなど。ネット上の医師専用の掲示板に書き込まれ、多数のブログなどに転載された。この掲示板は登録者数10万人以上で、問題が報道された昨年10月から書き込みが始まった。

 遺族は「医師専用掲示板には患者の中傷があふれている。診療情報の流出は自分たちだけの問題ではないと思い、告訴に踏み切ることを決めた」と話している。【中村敦茂】

(毎日新聞、2007年4月29日)

****** 産経新聞、2007年4月29日

死亡妊婦のカルテ内容、医師専用掲示板に流出

 奈良県の大淀町立大淀病院で出産中に意識不明になり約20の病院に受け入れを断られた後、死亡した○○○○さん=当時(32)=のカルテ内容などがインターネット上に流出していることが29日、分かった。医師専用の掲示板に「カルテのコピーを見た」などと書き込まれた文章が、ブログなどに転載された。遺族は、個人情報保護条例や地方公務員法(守秘義務)違反などでの刑事告訴を検討している。

 ○○さんは昨年8月、頭痛を訴え意識不明になったが、主治医はけいれんと判断。死因は脳内出血だった。遺族らによると、同年10月に○○さんの死亡が報道された直後から、医師免許を持つ人しか利用できない「国内最大級」をうたう掲示板で議論が始まった。

 同月中に、ある仮名の利用者が「カルテのコピーを見ました。コピーはもう返却しました」などとして、○○さんが8月7日に入院するまでの記録や診療の詳細など、遺族も知らない内容を書き込んだ。

 遺族は「女性にとって大切な情報がいとも簡単に流された。医師のモラルとしてあってはならないこと」と憤っている。ネット上で流出情報を基に遺族らへの中傷も相次ぎ、掲示板では「医師に責任はなかった」とする意見が多いという。

(産経新聞、2007年4月29日)

****** 日刊スポーツ、2007年4月30日

死亡妊婦カルテ、医師専用ネットに流出

 奈良県大淀町立大淀病院で昨年8月、出産中に意識不明となり、19の病院に受け入れを断られた後、死亡した○○○○さん(当時32)のカルテ内容がインターネット上に流出していることが29日、分かった。医師専用の会員制掲示板に「カルテのコピー」を見たとの書き込みがあり、複数のブログなどに転載された。○○さんの遺族は担当弁護士と協議し、個人情報保護条例や地方公務員法(守秘義務)違反などで刑事告訴を検討している。

 ○○さんの個人情報が、医師免許を持つ人しか利用できない会員制掲示板で、さらされていた。書き込みは昨年10月に○○さんの死亡が報道された直後から始まった。「カルテのコピーを見た。コピーはもう返却した」などとし、○○さんの最終月経の日付を含む入院するまでの妊娠中の経過、診療の詳細など、遺族も知らない内容が専門用語とともに書き込まれた。

 遺族は「掲載された掲示板は医師専用というが、女性の極めて個人的な情報を含む産婦人科のカルテが、家族に断りもなくネットに掲載されていいのか」と憤りを隠せない。「家族も知らない内容まで他人が勝手に見て話し合っている。そんなことが許されるのか。医師である前に人間としてどうか。世の中に問いたい」と話した。

 遺族が掲示板への情報流出を確認したのは昨年11月。掲示板には「遺族が騒ぐから産婦人科医が減って医療が崩壊する、など私たちへの批判もあった」という。公にすれば情報の流出範囲が拡大するとの懸念もあり、公表は控えていたが、大淀病院や大淀町への問い合わせにも返答がなく、公表を決意したという。担当弁護士と協議し、被疑者不詳での刑事告訴を検討している。

 ○○さんのカルテ内容とみられる情報は、医療関係者のものとみられる複数のブログなどに今も転載されている。あるブログは、掲示板への書き込み以前に、遺族が報道陣に「カルテのコピー」を公開していたと主張。コピーを医療関係者が分析してまとめただけとし「(個人情報保護条例違反には)当たらないだろう」と書き込んでいる。しかし、遺族側は「報道陣に公開したのは、出産のために入院した昨年8月7~8日の『看護記録』だけ。カルテなど公開してない。さらされた情報には、遺族も知らない通院中のカルテの内容が含まれ、病院関係者しか知り得ない情報だ」としている。

(日刊スポーツ、2007年4月30日)

****** 共同通信、2007年5月1日

カルテ内容がネット流出 奈良の妊婦死亡、告訴検討

 奈良県の大淀町立大淀病院で出産中に意識不明になり、約20の病院に受け入れを断られた後、死亡した○○○○さん=当時(32)=のカルテ内容などがインターネット上に流出していることが29日、分かった。

 医師専用の掲示板に「カルテのコピーを見た」などとして書き込まれた文章が、ブログなどに転載された。遺族は、個人情報保護条例や地方公務員法(守秘義務)違反などでの刑事告訴を検討している。

 ○○さんは昨年8月、頭痛を訴え意識不明になったが、主治医はけいれんと判断。死因は脳内出血だった。

 遺族らによると、同年10月に高崎さんの死亡が報道された直後から、医師免許を持つ人しか利用できない「国内最大級」をうたう掲示板で議論が始まった。

 同月中に、ある仮名の利用者が「カルテのコピーを見ました。コピーはもう返却しました」などとして、○○さんが8月7日に入院するまでの記録や診療の詳細など、遺族も知らない内容を書き込んだ。

 遺族は「女性にとって大切な情報がいとも簡単に流された。医師のモラルとしてあってはならないこと」と憤っている。

 ネット上で流出情報を基に遺族らへの中傷も相次ぎ、掲示板では「医師に責任はなかった」とする意見が多いという。

(共同通信、2007年5月1日)


ブログ上で大野病院・加藤医師の支援の動き広がる(医療タイムス、長野)

2007年02月22日 | 報道記事

コメント(私見):

福島県立大野病院事件の第2回公判は、明日(2月23日)開催される予定です。

最近は、ブログ上での大野病院・加藤医師支援の動きなどがマスコミでもよく取り上げられるようになってきました。1年前にはなかった現象で、マスコミの論調も明らかに変わってきているように感じます。

私自身、1年前に自分でブログを始めてみるまでは、ブログなんてものの存在すら全く知らなかったんですが、今では、毎日お気に入りブログを巡回する新しい習慣ができ、全く面識のないブログ仲間の方々と、日々、いろいろと議論したり、楽しく情報交換したりするようになりました。今までは存在しなかった全く新しい社会現象だと思います。

参考:あれから1年

大野病院事件について(自ブログ内リンク集)

公判概略について(06/7/28)

公判概略について(06/9/23)

公判概略について(06/10/19)

公判概略について(06/12/19)

第一回公判について(07/1/30)

****** 医療タイムス、長野、2007年2月21日

ブログ上で大野病院・加藤医師の支援の動き広がる

~県内の産科医師らが企画

 福島県立大野病院で04年に女性が帝王切開手術中に死亡した事件で、業務上過失致死と医師法(異状死体の届け出義務)違反の罪に問われている加藤克彦医師を、長野県内の産婦人科医師が開設しているブログなどで支援する動きが広がっている。「我々は福島事件で逮捕された産婦人科医師の無罪を信じ支援します」と銘打った企画には、医師や看護師などの医療関係者のほか、医学生や一般市民などから「(この企画に)賛同する」との書き込みが続いている。

 加藤医師の支援企画を進めているブログ「ある産婦人科医のひとりごと」には、企画スタートの18日からこれまでに150を超える「賛同の声」が寄せられている。コメント欄には「日本の将来の医師像について、日本国民全員が真剣に考える日が来るのを祈っている」や「産婦人科医にとって、誇りをもって行っていた医療行為をすべて否定された事件。K医師が無罪を勝ち取るまで支援する」、「この判決で、無罪になれば、ある程度産科崩壊のスピードが減速する可能性がありますが、有罪になれば、想像を絶する加速度がかかる」などの書き込みが後を絶たない。このブログ以外にも同じ企画が進められており、企画への賛同者は医療関係者を中心に日に日に拡大している。

 先月26日に行われた初公判で加藤医師は「胎盤の剥離を続けたことは適切な処置だった」などと述べ、起訴事実を全面否認。一方、検察側は「直ちに剥離を中止し、子宮摘出に移る注意義務を怠った」などと主張した。この事件をめぐっては、全国の医師会や産婦人科医会などが「不当逮捕」との抗議声明を発表している。

(医療タイムス、長野、2007年2月21日)


県立大野病院事件、初公判の翌日の報道

2007年01月28日 | 報道記事

検察側と弁護側の冒頭陳述の要旨が、以下の朝日新聞(福島)の記事に記載されていました。

私自身、一人医長の時期にも、前置胎盤の帝王切開を非常に多く産婦人科医一人で執刀しました。当科でも、前置胎盤の帝王切開は月に1~2回の頻度であり、いちいち高次病院に紹介していたらきりがなく、前置胎盤という理由だけで高次病院に患者を搬送したことは今まで1例もありません。

手術前に1000mlの血液を準備し、外科医の助手がいて、麻酔科医が麻酔を担当してくれていたわけですから、たった一人で手術をしたわけでもなく、手術の態勢として特に不十分ではなかったと思います。外科医が助手であれば、産婦人科医の助手よりもよほど頼りになりますし、手術中の全身管理は麻酔科医の責任です。

また、手術中に胎盤の剥離をいったん始めてしまえば、剥離面からの出血量がどんどん増してくるので、剥離の途中で作業を中止するというのは現実的ではありません。すでに胎盤が半分剥離できた状況であれば、そのまま剥離を進めるのが普通です。胎盤を子宮内に残したままの状態で子宮を摘出するのは困難ですし、手術時間が長引けば出血量も増すので、もしも、自分であっても、全く同じ判断をしたと思います。実際に胎盤は10分程度で剥離できたわけですから、その判断は結果として正しかったと思われます。

胎盤の剥離後に子宮摘出も無事に完遂しているわけですから、産婦人科医として通常やるべきことはちゃんとやっていると考えられます。

検察側の鑑定を誰がしているのかは知りませんが、婦人科腫瘍の専門家とのことで、全くの専門外の医師による鑑定ということになり、その鑑定結果は全く意味がないと思います。癒着胎盤の症例の経験が一度もない可能性も十分にあり得ます。鑑定を依頼するのであれば、ちゃんと周産期医学の専門家に依頼しなければ、まったくの素人の感想を聞いているのと何ら変わりがなく、鑑定の意味が全くないと思われます。

また、検察のいうところの専門書とは、『STEP』という学生がよく持っている医師国家試験対策本のことを言っている(という噂もあります)が、『STEP』は国試対策として、産婦人科について何も知らない学生が、試験直前に最低限の試験用の知識として一夜漬けで丸暗記するための学習参考書で、専門書とは到底言いがたい本です。国試に合格して医師になったら誰も見ません。そういう本が存在するということも、この事件の報道で初めて知りました。『STEP』が証拠として採用されて、臨床医が読んでいるちゃんとした専門書や文献が証拠として採用されなかったとすれば、非常に由々しき事態だと思われます。(追記:検察側が証拠とした産婦人科テキストが『STEP』らしいというのは、あくまでネット上の噂であり、確認したわけではないです。)

【以上、当ブログ管理人の私見】

****** 朝日新聞、2007年1月27日

県立大野病院事件

-検察側の冒頭陳述(要旨)-

 被告は検査の結果、被害者の胎盤は子宮口を覆う全前置胎盤で子宮の前壁から後壁にかけて付着し、第1子出産時の帝王切開のきず跡に及んでいるため癒着の可能性が高いと診断した。無理にはがすと大量出血のリスクがあることは所持する専門書に記載してある。

 県立大野病院は、高度の医療を提供できる医療機関の指定を受けておらず、輸血の確保も物理的に難しいため、過去に受診した前置胎盤患者は設備の充実した他病院に転院させてきた。

 だが、被告は、助産師が「手術は大野病院でしない方がいいのでは」と助言したが、聞き入れなかった。助産師は他の産婦人科医の応援も打診したが、「問題が起きれば双葉厚生病院の医師に来てもらう」と答えた。先輩医師に大量出血した前置胎盤のケースを聴かされ、応援医師の派遣を打診されたが断った。

 被告は麻酔科医に「帝王切開の傷跡に胎盤がかかっているため胎盤が深く食い込んでいるようなら子宮を全摘する」と説明。被害者と夫には子宮摘出の同意を得た。「何かあったら双葉厚生病院の先生を呼ぶ」と説明。この医師には手術当日に電話で「帝王切開の傷に胎盤の一部がかかっている可能性があるので異常があれば午後3時ごろ連絡がいく」と話した。

 被告は手術中、胎盤がとれないため、子宮内壁と胎盤の間に右手指3本を差し入れて剥離(はくり)を始めたが、途中から指が1本も入らなくなった。このため「指より細いクーパーならすき間に差し込むことができるのでは」などと安易に考え、追加血液の要請をしないまま、クーパーを使用した。

 約10分で剥離し終えたが、使用開始から子宮の広範囲でわき出るような出血が始まり、2千ミリリットルだった総出血量は剥離後15分後には7675ミリリットルに。完全に止血できず、子宮摘出を決意したが、血液が足りず血液製剤の到着を待った。その後約1時間で総出血量は1万2085ミリリットルに達した。

 心配した院長が双葉厚生病院の産婦人科医や大野病院の他の外科医の応援を打診したが、被告は断った。被害者が失血死した後、被告は、顔を合わせた院長に「やっちゃった」、助産師には「最悪」などと述べた。

 被告は胎盤剥離でクーパーを使った例を聴いたことがなく、使用は不適切ではと感じたが、「ミスはなかった」と院長に報告し、届け出もしなかった。病理鑑定では、被害者の胎盤は、絨毛(じゅうもう)が子宮筋層まで食い込んだ重度の癒着胎盤。クーパー使用の結果、肉眼でわかる凹凸が生じ、断片にはちぎれたような跡ができていた。

-弁護士側の冒頭陳述(要旨)-

  本件は薬の種類を間違えたり、医療器具を胎内に残したりといった明白な医療過誤事件と異なる。臨床現場の医師が現場の状況に即して判断して最良と信じる処置を行うしかないのであり、結果から是非を判断はできない。

 検察側の証拠は、(1)胎盤の癒着や程度が争点なのに「胎盤病理」や「周産期医療」の専門家ではなく「一般病理」や「婦人科腫瘍(しゅよう)」の専門家の供述や鑑定に基づいている(2)困難な疾患をもつ患者への施術の是非が問題なのに、専門家の鑑定書や解明に不可欠な弁護側証拠を「不同意」としている(3)検察官調書の一部から被告人に有利な記載部分を削除して証拠請求している――など、問題が多い。

 被告人は過去に1200件の出産を扱い、うち200件が帝王切開。04年7月には全前置胎盤の帝王切開手術も無事終えている。

 本件は、超音波診断などで子宮の後壁に付着した全前置胎盤と診断。患者が「もう1人子供が欲しい」と答えたため、被告は子宮温存を希望していると理解しカルテに記入した。前回の帝王切開の傷跡に胎盤がかかっていたら癒着の可能性が高まるため、慎重に検査した結果、子宮の後壁付着がメーンと考えた。

 被告は子宮マッサージをしながら、手で、三本の指を使い分けつつ胎盤剥離を進めた。半分程度はがした時点ではがれにくくなった。剥離面からにじみ出るような出血が続いていたが、剥離すれば通常、子宮が収縮し、子宮の血管も縮んで止血されるため、胎盤剥離を優先した。

 子宮の母体の動脈と胎盤内の血管とは直接つながっていないため、胎盤をはいでも母体の血管は傷つかない。むしろ胎盤を早く取り去ることを重視し、先の丸いクーパーを使用した。

 子宮は血流が豊富で、前置胎盤だとさらに下膨れしている。このため胎盤を剥離せず子宮動脈を止血するのは大変困難で、クーパーの使用は妥当な医療行為だ。

 剥離後、子宮収縮剤を打っても収縮しなかったため、あらゆる方法で止血措置を行い、血圧の安定と血液の到着を待って子宮摘出した。無事、摘出し、安心した時点で突然、心室細動がおき、蘇生術をしたが亡くなったもので、胎盤剥離の継続と死亡とは因果関係を認めがたい。

 医師法21条はそもそも黙秘権の放棄を医師に迫るもので違憲。大野病院のマニュアルでは、院長に届け出義務を課しており、医師は院長の判断に従ったのみだ。

 なお病理鑑定では、癒着の程度は最も深い部分でも子宮筋層の5分の1程度と浅い癒着だった。

(朝日新聞、2007年1月27日)

他のネット上の報道記事も、以下に引用させていただきます。

****** 毎日新聞、2007年1月27日

大野病院医療事故:真っ向から主張対立 産科医被告「捜査に釈然とせず」

 ◇地裁初公判

 県立大野病院での帝王切開手術中に女性が死亡した医療事故で、業務上過失致死と医師法違反の罪に問われた加藤克彦被告(39)に対する初公判が26日、福島地裁であり、検察側と弁護側の主張は真っ向から対立した。検察側は加藤被告が子宮から胎盤をはく離する際、手術用はさみを使った症例を聞いたことがなかったことなどを明らかにした。

 検察側は冒頭陳述で、加藤被告が「手ではく離できない場合にはく離を継続しても大量出血しない場合もあり得るだろう」「指より細いクーパー(手術用はさみ)なら胎盤との間に差し込むことができるだろう」と考えていたと指摘。女性の死亡後、院長らに「やっちゃった」「最悪」などと話したと言及した。

 弁護側は、「医学文献で手術用はさみのはく離は効果的だとされている」と主張。開腹後も超音波で癒着胎盤の可能性を調べ、慎重だったとした。死亡との因果関係は、出血性ショックのほかにもさまざまな原因が考えられると指摘した。

 加藤被告は退廷後、「ミスはしていない」と話し、捜査に対しては「逮捕の前から釈然としないものがある」と述べた。【町田徳丈、松本惇】

 ◇1人医長体制で再開メド立たず--病院の対応に不満

 「1人の医師として患者が死亡したのは大変残念」。初公判で加藤被告は起訴事実を否認する一方、死亡した女性に対しては「心から冥福を祈ります」と述べた。黒っぽいスーツを身につけ、落ち着いた声で準備した書面を読み上げた。

 加藤被告が逮捕・起訴されて休職となり、昨年3月から県立大野病院の産婦人科は休診が続いている。同科は加藤被告が唯一の産婦人科医という「1人医長」体制。再開のめどは立たない。

 隣の富岡町の30代女性は加藤被告を信頼して出産することを決めたが、休診で昨年4月に実家近くの病院で二男を出産した。女性は「車で長時間かけて通うのも負担だった」と振り返る。二男出産に加藤被告が立ち会った女性(28)も「次も加藤先生に診てもらいたいと思っていた」と言う。

 一方、被害者の父親は「事前に生命の危険がある手術だという説明がなかった」と振り返る。危篤状態の時も「被告は冷静で、精いっぱいのことをしてくれたようには見えなかった」と話す。

 病院の対応にも不満がある。病院側は示談を要請したが父親は受け入れず、05年9月の連絡を最後に接触は途絶えた。昨年11月に問うと、病院は「弁護士と相談して進めていく」と答えたという。「納得できない。娘が死んだ真相を教えてほしい。このままでは娘に何も報告できない」と不信感を募らせる。【松本惇】

 ◆初公判までの経過◆

 【04年】

12・17 帝王切開の手術中に女性死亡。生まれた女児は無事。病院は警察に届け出ず

 【05年】

 3・30 県の事故調査委員会が報告書を公表し発覚

 【06年】

 2・18 県警が加藤被告を業務上過失致死と医師法違反容疑で逮捕

 3・10 福島地検が加藤被告を起訴

   11 大野病院の産婦人科が休診

12・ 6 多数の医学団体の抗議などをまとめる形で、日本医学会長が刑事責任追及を批判する声明発表

(毎日新聞、2007年1月27日)

****** 読売新聞、2007年1月27日

大野病院事件初公判、弁護団と検察が全面対決

 26日に福島地裁で始まった県立大野病院(大熊町)での医療事故を巡る刑事裁判は、産婦人科医師の加藤克彦被告(39)の弁護団と検察が互いに主張を譲らず、“全面対決”となった。「手術中の判断」の正否が裁かれる公判には、26席分の傍聴券を求めて349人が列を作り、関心の高さをうかがわせた。

 昨年2月の逮捕以降、初めて公の場に姿を見せた加藤被告は午前9時40分過ぎ、カメラのフラッシュを浴びながら主任弁護人の平岩敬一弁護士らと歩いて福島地裁に到着。濃紺のスーツを着用し、白いシャツにネクタイを締めて法廷に姿を現した。

 罪状認否で加藤被告は、用意した書面を5分以上にわたって読み上げ、手術で処置に過ちがあり、警察への届け出もしなかったとする起訴事実の大部分を否認。事前の検診や輸血用血液の準備、手術中の対応などについて「患者が亡くなってしまったことは忸怩(じくじ)たる思いがあるが、できることを精一杯やった」と述べた。

 公判前整理手続きが適用された今回の公判では、検察側と弁護側の双方が冒頭陳述を行った。検察側の冒頭陳述で、加藤被告が大量出血した女性が亡くなる直前、院長に「やっちゃった」と話していたことや、帝王切開手術で胎児を取り出した後、子宮から離れなかった胎盤を手ではがすのをやめ、手術用ハサミを使ったことについて、加藤被告が検事に「使用は不適切だったのではないか」と供述していたことなどが明らかになった。

 大量出血を招かないため、ただちに子宮を摘出すべきだったとの検察側主張に対し、弁護側は冒頭陳述で「胎盤をはがした際の出血は少量だった」「胎盤と子宮の癒着の程度も軽く、はく離が適切だった」などと反論した。また、検察側が主張の根拠とする胎盤の鑑定意見や供述などは、産科医療や胎盤病理を専門としない医師によるもので、「問題が多い」と批判した。

 弁護側は公判終了後に記者会見を開き、加藤被告は「ミスはなかった」と重ねて強調。ただ、手術前に先輩医師などから応援医師の派遣を打診されながら拒否したことについて「リスクをさほど高く考えていなかった」と述べた。

 公判は、2月23日の次回から証人尋問に入り、鑑定を担当した医師らが検察側の証人として出廷する。

(読売新聞、2007年1月27日)

****** 朝日新聞、2007年1月27日

大野病院事件 被告、罪状を否認

 県立大野病院で04年に女性(当時29)が帝王切開手術中に死亡した事件で26日、業務上過失致死と医師法(異状死体の届け出義務)違反の罪に問われた、産科医加藤克彦被告(39)の初公判が福島地裁(大澤廣裁判長)で開かれた。加藤被告は「適切な処置だった」などと述べ、起訴事実を否認。公判後の記者会見でも、医療行為としての正当性を繰り返し主張した。

 -手術の正当性主張 事件後初めて公の場に-

 「患者さんのご冥福を心からお祈りし、ご遺族に心よりお悔やみ申し上げます」

 加藤医師は初公判終了後に開かれた弁護側の記者会見で、帝王切開手術中に死亡した女性と遺族に対する思いを語り、深々と頭を下げた。

 これまで加藤医師は公の場での発言を避けてきたが、「逮捕からほぼ1年がたち、気持ちの整理もついた。ご声援頂いた医療関係者の方々に元気な所を見せたい」として、会見に踏み切った。

 加藤医師は、全国の産科医から寄せられる支援に対し、「心強く思っております」と述べ、全国的に産科医が減少し、医療現場の負担が増していることについて「今回の事件が一因となってしまった。申し訳なくも感じています」と話した。

 この日の検察側の冒頭陳述で、手術後、院長らに「やっちゃった」「最悪」などと話したと指摘された点について、記者から「医療ミスという認識があったのか」と問われると、加藤医師はきっぱりした口調で「ミスをしたという認識はありません。正しい医療行為をしたと思っています」と言い切った。

 争点の一つ、胎盤をはがす際にクーパー(手術用ハサミ)を使用した理由について「その場の状況で適切だと考えた」と説明。「勾留(こう・りゅう)中は取り調べに対し、『クーパーの使用は不適切だった』と言ったが、今はそういうことは考えていない」として、医療行為としての正当性を主張した。

 また、手術前に先輩医師から「応援の産科医を派遣した方がいい」という助言を受けながら、応援を呼ばなかった点について、加藤医師は「タイミングを逸してしまった」と弁明した。

 逮捕以来、産科医としての仕事から遠ざかっているが、「いい勉強の機会ととらえたい」と述べた。「産科という学問は好きですし、婦人科の患者さんと話をするのは好きなので、またやりたいという気持ちはある」と話した。

 一方、福島地検側は公判終了後、「我々としても医療関係者が日夜困難な症例に取り組まれていることは十分認識している。しかし、今回の事件は、医師に課せられた最低限の注意義務を怠ったもので、被告の刑事責任を問わなければならないと判断した」とする異例のコメントを発表した。

 -遺族「真相を明らかに」

 亡くなった女性の父親(56)楢葉町在住は初公判直前、朝日新聞の取材に対し、次のように話した。

 私たち遺族は手術室で何が起きていたのか、それを正確に知りたいのです。なぜ加藤医師は、手術の途中で、ほかの医師に応援を頼まなかったのか。なぜ、やったこともない癒着胎盤の手術を強行したのか。娘は、実験台になったようなものじゃないですか。いろいろな疑問について、裁判でぜひ明らかにしていただきたい。

 娘が死んだ04年12月17日夜、遺体に対面しました。娘は歯を食いしばっていた。それを見て、娘はこんな形で死んでいくのが本当に悔しかったんだと思いました。母親として、もっと生きていたかったんだと。あの時、私は、絶対に真相を明らかにするから、と娘に誓ったのです。

 でも、私が調べ始めたとたん、医師や県の人たちが壁のように立ちはだかり、何が起きたのか全く見えなくなってしまった。捜査が始まるまでは本当に手探りでした。ですから今回、警察には大変感謝しています。

(朝日新聞、2007年1月27日)

****** 河北新報、2007年1月27日

被告、検察真っ向対立 大野病院事件初公判

 「いつか、子どもは自分の誕生日が母の命日だと知る。その悲しみを思うと、胸が張り裂けそうになる」。検察側が次々に読み上げる遺族の供述調書に医師の表情は凍り付いた。帝王切開で女児を出産した女性=当時(29)=を医療ミスで死亡させたとして、産婦人科医加藤克彦被告(39)が業務上過失致死の罪に問われた事件。福島地裁で26日開かれた初公判で、加藤被告はミスはなかったと主張し、遺族感情を背に受けて、過失立証に全力を挙げる検察側と真っ向から対立した。

 冒頭陳述の後、検察側は約1時間半の書証読み上げのうち、1時間近くを女性の夫ら遺族5人の供述調書朗読に充てた。

 「子どもが寝静まった深夜、ひとりで泣く日が続いた」「将来、(女児が)母は自分の身代わりに死んだと自分を責める日が来るのではないか心配だ」「加藤医師が妻を助けるため、手を尽くしてくれたとは思えない」

 加藤被告は終始、沈痛な表情で被告人席の机に目を落としまま、顔を上げることはなかった。

 一方、弁護側は、子宮に癒着した胎盤を無理にはがそうとして大量出血を招き、女性を死亡させたとされる加藤被告の過失を全面的に否認した。

 検察側は加藤被告宅から押収した産科医療の教科書に基づき「女性の死を避けるため、胎盤剥離(はくり)を中止し子宮摘出に移るべきだった」と主張したのに対して、弁護側は「教科書の記述が女性のケースに該当するかどうか執筆者に確認していないなど、専門家の知見を軽視している」と指摘した。

 閉廷後、記者会見した平岩敬一主任弁護人は「教科書執筆者からは今回の女性のケースは該当しないとの回答を得ているが、検察側は証拠採用に同意しなかった」と強調。その上で「弁護側は被告に不利になることを承知で、遺族の供述調書の証拠採用に同意した。医療行為の適否だけが争われる裁判。検察側の姿勢は公正とは言えない」と強く批判した。

 この事件は、産婦人科医の過酷な勤務実態が社会問題として注目される契機となる一方、医学知識のない捜査、司法機関が専門医の行為を立件、裁くことの可否についても論議を巻き起こした。

 事件に関係した医療従事者や遺族がインターネット上などで、心ない批判にさらされる現実も、まだある。死亡した女性の父(56)は「とにかく早く真相を明らかにしてほしい。それ以外、今は何も話す気になれない」と公判途中で法廷を後にした。

専門家の鑑定、証言鍵 典型的な医療裁判に 大野病院事件

Soten_1   福島県立大野病院に勤務していた産婦人科医加藤克彦被告(39)が業務上過失致死罪などに問われた事件の審理は、検察、弁護双方が専門家を証人に立てて争う典型的な医療裁判となる。医学的な争点を整理する。

 子宮内で母体と胎児をつなぐ胎盤は通常、出産後に子宮からはがれるが、出産の数千件に1件の割合で胎盤が子宮と離れない症例がある。それが癒着胎盤だ。

 加藤被告は女性患者=当時(29)=が出産後、胎盤と子宮が離れないため、間に指を入れてはがそうとした際、癒着胎盤を確認した。子宮から胎盤を剥離(はくり)する手術は産科医療で最も難度が高く、手術を避けて子宮ごと摘出することもある。この時、手術を選択した加藤被告の判断が過失に当たるかどうかが最大の争点だ。

 検察側は、癒着胎盤と知った時点で大量出血が予見される子宮と胎盤の剥離を止め、子宮を摘出すべきだったと主張する。一般的には子宮と胎盤の癒着の程度が密接なほど、手術で大量出血の危険性が高いとされ、争点(1)で、検察側は中度の癒着との見解を示している。

 一方、弁護側は中度でも限りなく軽度に近い程度とみている。加藤被告は女性から事前に子宮を残したいと伝えられ、剥離手術を選択したが、結果的には癒着の程度は軽く危険性が高くなかったため、選択は正しかったと結論づける。

 争点(2)と(3)は連動している。検察側は、出血が子宮の剥離した部分に限られ、出血原因も剥離以外には考えられないと主張。剥離を続けて大量出血があった時点で死亡する危険性が予見され、剥離を止めずに失血死させたことが過失致死罪に当たるとする。

 弁護側は子宮のうち剥離に関係しない部分からも出血があり、出血原因は剥離以外にも考えられると反論する。麻酔記録によると、剥離直後の出血量は2555ccで、正常値よりも少し多い程度。大量出血は20分後のため、別の原因で死亡した可能性も考えられるとしている。

 争点(6)の通り、女性の死亡は異状死として警察に届けられなかったため、遺体がなく、手術記録も多くない。立ち会った医師や専門家の鑑定や供述が最大の鍵になる。2月23日の第2回公判からは検察側の証人尋問が始まり、真相解明に向けた争いが本格化する。

(河北新報、2007年1月27日)

****** 福島民報、2007年1月27日

産婦人科医が無罪主張 福島・大野病院医療過誤初公判

 福島県大熊町の県立大野病院医療過誤事件で、業務上過失致死と医師法違反の罪に問われた大熊町下野上、産婦人科医加藤克彦被告(39)の初公判は26日、福島地裁(大沢広裁判長)で開かれ、加藤被告は起訴事実を否認し、無罪を主張した。医師の医療行為への捜査に対し、多くの医療団体が抗議の声明を出すなど全国が注目する審理。加藤被告が「切迫した状況の中で、産婦人科医としてできる限りの措置をした」と述べたのに対し、検察側は加藤被告が先輩医師から大量出血を伴う危険な手術になることを指摘されたことを明らかにした。対立の構図がより鮮明になった。

 検察側は加藤被告が手術前、福島医大の先輩医師から複数の産婦人科医による手術を勧められ、断ったことを明かした。加藤被告の自宅に「癒着胎盤を無理にはく離すべきでない」とする医学書があったと説明。今回の被害者のように帝王切開歴がある患者は、癒着胎盤の確率が24%と通常より高くなると主張し、過失の重大さを指摘した。

 一方、弁護側は「検察側が示した医学書の執筆者から『はく離しても良い場合がある』という回答を得た」と反論。加藤被告は手術前、通常より慎重に超音波検査などを試みたが癒着胎盤が確認できなかったと説明した。

 癒着胎盤への措置が最大の争点。加藤被告は手術中に胎盤をはがした時について「はく離できないわけではないが、しづらくなった」などと「癒着」と言わず、適正な医療行為だと強調した。

 起訴状などによると、加藤被告は平成16年12月17日、楢葉町の女性=当時(29)=の帝王切開手術を執刀し、癒着胎盤に気付いた後、医療用はさみ(クーパー)などを使って胎盤をはがし、大量出血で女性を死亡させた。女性が異状死なのに24時間以内に警察署に届けなかった。

 医師法の異状死の届け出義務違反についても、憲法の黙秘権の侵害に当たるとする弁護側と検察側が対立している。

 癒着胎盤 子宮内にある胎盤が子宮内壁と癒着した状態。数1000例に1例といわれる。胎盤は通常、出産後間もなく自然と子宮からはがれて除去されるが、癒着胎盤だと除去が難しくなる。

(福島民報、2007年1月27日)

****** 福島民友、2007年1月27日

被告の医師、無罪主張/大野病院事件初公判

 大熊町の県立大野病院で2004(平成16)年12月、帝王切開で出産した女性=当時(29)=が死亡した医療事件で、業務上過失致死と医師法違反の罪に問われた産婦人科医加藤克彦被告(39)=大熊町下野上=の初公判は26日、福島地裁(大沢広裁判長)で開かれ、加藤被告は「ミスはしていない」と起訴事実を全面否認、無罪を主張した。

 冒頭陳述で検察側は「子宮に癒着した胎盤の剥離(はくり)を直ちに中止して子宮摘出手術をすれば大量出血は防げた」と指摘。一方、弁護側は「剥離は止血のためで問題なかった」と反論した。極めてまれな症例「癒着胎盤」の処置をめぐり全国的に注目を集めた事件は、法廷に舞台を移して審理が始まった。

 罪状認否で加藤被告は、「自分を信頼してくれた患者を亡くした結果は非常に残念」とした上で「切迫した状況で、冷静にできる限りのことをやった」などと述べた。

 起訴状によると、加藤被告は04年12月中旬、楢葉町の女性の胎盤が子宮に付着していることを知りながら帝王切開手術を執刀。手術用はさみで無理に癒着部分をはがし取ったために大量出血させ、失血死させ、女性が異状死だったのに警察に届けなかった、とされる。

 次回公判は2月23日午前10時からで、証人尋問が行われる。

 医師会「判断見守る」

 大野病院医療事件の26日の初公判を受け、佐藤章福島医大産婦人科学講座教授は「コメントはない」としながらも「検察側には(弁護側の出す)証拠で勉強してほしい」と話し、県医師会の山森正道常任理事は「法治国家である日本の司法がどのような判断を下すか見守りたい」と述べた。

(福島民友、2007年1月27日)


福島県立大野病院事件・初公判の報道

2007年01月27日 | 報道記事

コメント(私見):

癒着胎盤の頻度は1万分娩に1例とも言われ、平均的な産婦人科医が一生に1回遭遇するかしないかの非常にまれな疾患です。しかも、その一生に1回限りの珍事に自分がいつ当たってしまうのか?全く見当もつきません。(癒着胎盤について

もしかしたら、それが今日なのかもしれないし、10年後なのかもしれません。入門してから引退するまで一度も癒着胎盤には遭遇しない産婦人科医がほとんどだと思いますが、もしかしたら、ちょうど定年退職の日に初めて癒着胎盤例に当たってしまうかもしれません。私自身の場合、たまたま癒着胎盤例に初めて遭遇したのは、医者になりたてほやほやで、まだ右も左も何も分からず、初めての帝王切開・第2助手でこの業界にデビューさせてもらった時でした。(癒着胎盤に関する個人的な経験談

極めてまれで予測不能な難治疾患と遭遇して、必死の思いで苦闘しても、結果的にその患者さんを救命できなかった場合に、今回の大野病院事件のように、極悪非道の殺人犯と全く同じ扱いで逮捕・起訴されるようでは、危なくて誰も医療には従事できなくなってしまいます。

いくら全力で正当な医療を実施しても、不良結果となることはいくらでもあり得ます。自分自身の身の安全を守るために、いったんは安全な所に避難しようと考える医師も最近は少なくありません。五十歳代以降の中高年医師は、もう先が短いし、今さら方向転換もできないので、仕方なく現場に残っている人も多い一方、三十代~四十代の現役バリバリの医師達の現場からの立ち去りが最近は目立つようになってきて、公立・公的病院の縮小・閉鎖が毎日のように報道されています。

しかし、これはまだまだ事の始まりで、これから壊滅的な医療崩壊に向かって事態は加速されてゆくのではないかと多くの人が危惧しています。(MRICインタビュー:もはや医療崩壊は止まらないかもしれない

現場の産科医達が、いくら『このままでは医療崩壊の危機だ!』と主張し続けても、分娩場所が確保されて何とかなっているうちは全く理解してもらえません。『いっそのこと、医療崩壊もいくとこまでいってしまって、日本中、どこにもお産する場所がないような極限状態まで、いったんは行ってしまった方がむしろよい!医療崩壊の危機を回避するような必死の努力は、ただ自分の首を絞めるだけだ!流れに逆らって玉砕するよりは、今は、このまま放置して様子を見ていた方がむしろいい!』というような極端な意見を言う人も最近はけっこう多くなってきました。

****** 毎日新聞、2007年1月26日

福島産科事故 被告産婦人科医、起訴事実を否認 初公判で

 福島県立大野病院(同県大熊町)で04年、帝王切開手術中に女性(当時29歳)が死亡した医療事故で、業務上過失致死と医師法違反の罪に問われた同病院の産婦人科医、加藤克彦被告(39)の初公判が26日、福島地裁(大沢広裁判長)であった。加藤被告は「死亡や執刀は認めますが、それ以外は否認します。切迫した状況の中で精いっぱいやった」と起訴事実を否認した。
 冒頭陳述で検察側は、応援を呼ぶべきだという先輩医師の事前のアドバイスを被告が断ったことや、胎盤はく離開始5分後の血圧降下など大量出血の予見可能性があったことなどを指摘した。
 弁護側も冒頭陳述を行い、明白な医療過誤とは異質と指摘。胎盤はく離は現場の裁量で、事後の判断は結果責任の追及になると反論し、産科専門家の意見も聞いていないと捜査を批判した。
 起訴状によると、加藤被告は04年12月17日、帝王切開手術中、はがせば大量出血するおそれがある「癒着胎盤」であると認識しながら、子宮摘出手術などに移行せず、手術用はさみで胎盤をはがし失血死させた。また、医師法が規定する24時間以内の警察署への異状死体の届け出をしなかった。【町田徳丈、松本惇】

被告 落ち着いた声で書面読み上げる

 「1人の医師として患者が死亡したのは大変残念」。初公判で加藤被告は起訴事実を否認する一方、死亡した女性に対しては「心から冥福を祈ります」と述べた。黒っぽいスーツを身につけ、落ち着いた声で準備した書面を読み上げた。
 加藤克彦被告が逮捕・起訴されて休職となり、昨年3月から県立大野病院の産婦人科は休診が続いている。同科は加藤被告が唯一の産婦人科医という「1人医長」体制。再開のめどは立たない。
 隣の富岡町の30代女性は加藤被告を信頼して出産することを決めたが、休診で昨年4月に実家近くの病院で二男を出産した。女性は「車で長時間かけて通うのも負担だった」と振り返る。二男出産に加藤被告が立ち会った女性(28)も「次も加藤先生に診てもらいたいと思っていた」と言う。
 一方、被害者の父親は「事前に生命の危険がある手術だという説明がなかった」と振り返る。危篤状態の時も「被告は冷静で、精いっぱいのことをしてくれたようには見えなかった」と話す。
 病院の対応にも不満がある。病院側は示談を要請したが父親は受け入れず、05年9月の連絡を最後に接触は途絶えた。昨年11月に問うと、病院は「弁護士と相談して進めていく」と答えたという。「納得できない。娘が死んだ真相を教えてほしい。このままでは娘に何も報告できない」と不信感を募らせる。【松本惇】

「通常の医療行為」の結果責任追及 医師界に危機感

 この裁判では、加藤被告を逮捕、起訴した捜査当局に、全国の医師から強い批判の声が上がっている。背景には、通常の医療行為で患者が死亡した結果責任を、医師個人が追及されているのではないかという危機意識がある。医師の刑事責任を負うべき判断ミスか、1万例に1例といわれる「癒着胎盤」のために起きた不幸な事故か。医師法で届け出義務が課される異状死の定義があいまいという指摘もあり、裁判の展開を多くの医療関係者が注目する。
 最大の争点は「癒着胎盤」のはく離を中止すべきだったかどうか。検察側は「癒着胎盤と分かった時点で大量出血しないようにはく離を中止し、子宮摘出に移行すべきだった」と医師の判断ミス、過失ととらえる。これに対し、弁護側は「臨床では止血のために胎盤をはがすのは当然で、出血を放置して子宮を摘出するのは危険」と通常の医療行為だと主張する。
 このほか、癒着胎盤の程度や大量出血の予見可能性なども争点となる。
 日本産科婦人科学会の昨年12月の発表によると、06年度(11月まで)に同会に入会した産婦人科医は298人で、2年間の臨床研修が課される前の03年度の375人から2割程度減少した。同会の荒木信一事務局長は「産科医の過酷な労働状況や訴訟リスクに加え、大野病院の事故が減少に拍車をかけた」と分析している。【松本惇】

(毎日新聞、2007年1月26日)

****** 読売新聞、2007年1月26日

帝王切開で妊婦失血死、医師が無罪を主張…福島地裁

 福島県大熊町の県立大野病院で2004年12月、帝王切開手術で妊婦を失血死させたなどとして業務上過失致死と医師法(異状死体の届け出義務)違反の罪に問われている産婦人科医師、加藤克彦被告(39)(大熊町下野上)の初公判が26日、福島地裁(大沢広裁判長)で開かれた。

 加藤被告は罪状認否で、手術について「できることを精いっぱいやった」と述べ、無罪を主張した。

 事件を巡っては、「悪意のない医療行為に個人の刑事責任を問うのは疑問」などと日本産科婦人科学会や日本医学会が相次いで表明しており、公判の行方が注目されている。

 起訴状によると、加藤被告は04年12月17日午後、同県内の女性(当時29歳)の手術で、大量出血する危険を認識しながら、子宮に癒着した胎盤を無理にはがして大量出血を招き、死亡させたとされる。また、医師法で定められた24時間以内の警察への異状死の届け出をしなかったとされる。

 公判前整理手続きの結果、争点は、<1>子宮に胎盤が癒着していることを認識した時点で、大量出血する恐れがあるとみて胎盤をはがす処置を中止し、子宮摘出に移る義務があったか<2>大量出血の予見可能性<3>胎盤をはがす処置に手術用ハサミを使用した妥当性<4>医師法違反罪の適用の是非――などに絞り込まれている。

(読売新聞、2007年1月26日)

****** 朝日新聞、2007年1月26日

産科医、起訴事実を否認 福島の妊婦死亡初公判

 福島県立大野病院で04年に女性(当時29)が帝王切開手術中に死亡した事件で、業務上過失致死と医師法(異状死体の届け出義務)違反の罪に問われた、産科医加藤克彦被告(39)の初公判が26日、福島地裁(大澤廣裁判長)で開かれた。加藤被告は「胎盤の剥離(はくり)を続けたことは適切な処置だった」などと述べ、起訴事実を否認した。

 加藤被告は「自分を信頼してくれた患者を亡くしたことは非常に残念で、心からご冥福をお祈りします。ただ、切迫した状況で、冷静にできる限りのことをやったことをご理解いただきたい」と述べた。

 検察側は冒頭陳述で「直ちに剥離を中止し、子宮摘出に移る注意義務を怠った」と主張。また、病院側に癒着胎盤をはがす手術を行うような体制や設備が整っていなかったと指摘した。

 起訴状によると、加藤医師は04年12月、子宮に癒着した胎盤を手術用ハサミではぎ取って女性を失血死させ、さらに、女性の死に異状があると認識しながら、24時間以内に警察に届け出なかったとされる。

 医療行為の過失を問われて医師が逮捕・起訴されたことで、全国の医師が抗議声明を発表するなど、公判は医療界の注目を集めている。

 公判前整理手続きが昨年7月から計6回実施され、同地裁は、胎盤癒着を認識した時点で胎盤をはぎ取るのをやめるべきだったかどうかを最大の争点として認定した。

(朝日新聞、2007年1月26日)

****** 共同通信、2007年01月26日

帝王切開医師が無罪主張 大量出血予見できたと検察 福島県立病院の妊婦死亡

 福島県大熊町の県立大野病院で2004年、帝王切開手術を受けた女性=当時(29)=が死亡した医療事故で、業務上過失致死と医師法違反の罪に問われた産婦人科医加藤克彦(かとう・かつひこ)被告(39)の初公判が26日、福島地裁(大沢広(おおさわ・ひろし)裁判長)で開かれ、加藤被告は無罪を主張し「できるだけのことを精いっぱいやった」と述べた。

 最大の争点である被告が子宮に癒着した胎盤を手術用はさみではがす「はく離」を続けたことの是非について、加藤被告は「止血するために継続した。適当な処置と思った」と説明した。

 検察側は冒頭陳述で「加藤被告がはく離を始めてから、わき上がるような出血があった。この時点ではく離を中止する義務があったのに続けた」と指摘。「被告が使った教科書や手術に立ち会った関係者の証言などから、被告は大量出血を予見できた」とした。

 この医療事故では検察側と、「対応は正当。医師の裁量に任せるべきで、過失とすれば医療行為ができなくなる」とする弁護側が真っ向から対立。医師が逮捕、起訴されたことに医療界の反発も広がっており、審理が注目されている。

 起訴状によると、加藤被告は04年12月17日、同県楢葉町の女性の帝王切開手術をした際、胎盤と子宮の癒着を認識。無理に胎盤をはがせば大量出血する恐れがあったのに、子宮摘出など危険回避の措置を怠り、はく離を続けて大量出血で女性を死亡させた。異状死として24時間以内に警察に届けなかったと、医師法違反にも問われた。

 事故をめぐっては、福島県が05年3月に医療過誤を認める事故の報告書を公表。これが捜査の端緒となり、県警は昨年2月に加藤被告を逮捕。日本産科婦人科学会などが捜査を批判する声明を相次いで出した。

検察・弁護側が全面対決 医療行為の責任どう判断

 医療行為に関し、医師個人の刑事責任を司法がどう判断するのか-。産婦人科医の逮捕、起訴が医療界に波紋を広げた福島県立大野病院の医療事故。立証に自信を見せる検察側と、医療事故に詳しい弁護士らで結成した弁護団は、全面対決の公判に突入した。

 昨年7月から約半年間、双方が激しいつばぜり合いを演じた公判前整理手続き。争点は(1)子宮と胎盤の癒着の部位と程度(2)手術中の出血の部位と程度(3)女性の死亡と手術との因果関係(4)胎盤はく離に手術用はさみを使った方法の妥当性(5)異状死の届けをめぐる医師法違反の成否(6)捜査段階の供述の任意性-の6点に絞り込まれた。

 検察側は立証に自信を見せ「女性の大量出血は予見できたことで、過失はある」との姿勢だ。

 弁護側は「医療に詳しくない人が取り調べ、被告の認識を理解していない」とも批判した。

 医療界は反発を強め、日本医学会は昨年末の声明で「担当医が不可抗力的事故で逮捕されたのは誠に遺憾。消極的な医療にならざるを得ない」と指摘。産科医不足に言及し「若い医師は事故の多い診療科の医師になることを敬遠している」と危機感をあらわにした。

 同病院の産婦人科は休診が続く。県の担当者は「立件で、担当医が1人だけの勤務体制を避ける流れが県内の産婦人科で加速し、代理の医師も派遣できない。地元の人が困っているのは間違いないと思うが...」としている。

(共同通信、2007年01月26日)

****** 河北新報、2007年01月26日

福島・大野病院事件初公判 加藤被告、無罪を主張

 福島県立大野病院(大熊町)で帝王切開の手術中、子宮に癒着した胎盤を剥離(はくり)した判断の誤りから女性患者=当時(29)、楢葉町=を失血死させたとして、業務上過失致死と医師法違反の罪に問われた産婦人科医加藤克彦被告(39)=大熊町=の初公判が26日、福島地裁で開かれた。加藤被告は「手術で患者が死亡したこと以外は、すべて否認します」と述べ、無罪を主張した。

 公判では、産科医療で最も難度が高い胎盤剥離を選択した判断が刑事過失に当たるかどうかが争われる。裁判の行方は、疲弊する産科医療の今後や、医師の裁量権に捜査がどこまで踏み込むべきかなど、医療と司法の関係にも影響を与える。

 加藤被告は罪状認否で「手術中の出血を早く止めるために剥離を継続した。切迫した状況で最善を尽くしたことを理解してもらいたい」と書面を読み上げた。

 検察側は冒頭陳述で、加藤被告の過失を細かく指摘した。それによると、加藤被告は(1)胎盤の剥離が困難になったら、すぐに子宮を摘出する(2)器具を使った剥離は危険―などの医療知識を専門書で得ていた上、女性患者が癒着胎盤を起こしている可能性が高いことも手術前に認識していた。助産師が「手術は設備の整った病院でするべきだ」と助言すると、「何でそんなこと言う」と拒否した。

 2004年12月17日の手術では、帝王切開後に癒着胎盤を確認。手で胎盤がはがれなくなったため、クーパー(医療用はさみ)を使って剥離を継続した直後、子宮からの出血が激しくなった。急激に血圧も下がり出し、女性は失血ショック状態になった。

 検察側は「直ちに剥離を中止するべきだった。女性から子宮摘出の同意も取っており、剥離を継続する理由もない。遺族は被告を絶対に許さず、厳重な処罰を望んでいる」と指摘した。

 検察側は、女性の死が医師法で定める「異状死」だったのに、警察への届け出義務を怠ったことも指摘した。
 審理は検察側の冒頭陳述を終え、いったん休廷。午後には弁護側が冒頭陳述を行う。

加藤被告、ミスなかったと断言 福島・大野病院事件初公判

 「一人の医師として、信頼してくれた患者を死亡させたことに忸怩(じくじ)たる思いです」。福島県立大野病院(大熊町)で2004年12月、帝王切開手術中に子宮に癒着した胎盤を無理にはがし、女性患者=当時(29)=を失血死させたとして、医師が業務上過失致死などの罪に問われた事件。福島地裁で26日開かれた初公判で、手術を執刀した産婦人科医加藤克彦被告(39)は女性の死を悼む言葉を重ねながらも、過失はなかったと強調した。

 加藤被告は開廷20分前の午前9時40分ごろ、主任弁護士に伴われて硬い表情で福島地裁に到着。法廷では身じろぎもせずに検察官の起訴状朗読を聞いた後、準備していた書面を読みながら約10分間、はっきりとした口調で手術の経過などを説明した。

 この中で、加藤被告は手術前の検査や輸血準備から胎盤剥離(はくり)を試みた措置までミスはなかったと断言。胎盤剥離を断念して子宮を摘出した後も輸血によって女性の容体が安定していたことを明らかにした。

 自信に満ちた口ぶりに変化が表れたのは、終わり近く。「安定していた血圧が突然、低下した。懸命に心肺蘇生(そせい)措置を行ったが及ばなかった」とわずかに声を震わせ、「亡くなられた女性のご冥福を祈ります」と2度繰り返した。検察側の冒頭陳述に対しては時折、気を静めるように肩で息を整える場面もあった。

 女性の父親(56)は「娘はなぜ、死ななければならなかったのか。その真相が知りたい」と傍聴に訪れたが、終始うなだれたまま、涙をぬぐっていた。

(河北新報、2007年01月26日)

****** 福島民報、2007年1月26日

被告は無罪主張/福島県立大野病院医療過誤事件の初公判

 福島県大熊町の県立大野病院医療過誤事件で、業務上過失致死と医師法違反の罪に問われた産婦人科医、加藤克彦被告(39)の初公判は26日、福島地裁で開かれ、加藤被告は起訴事実を否認し、無罪を主張した。
 加藤被告は同病院に勤務していたことなどを認めたうえで、「(手術前に)検査をしたうえ、血液も十分に用意した。普段より慎重に医療行為をした。冷静にできる限りのことを精いっぱいやった」などと述べた。患者が死亡したことについては「じくじたる思い。患者のめい福を祈っている」と語った。
 起訴状によると、加藤被告は平成16年12月17日、楢葉町の女性=当時(29)=の出産で帝王切開手術を執刀し、癒着した胎盤をはがし大量出血で女性を死亡させた。女性が異状死だったのに24時間以内に警察署に届けなかった。
 公判では数千例に1例といわれる癒着胎盤という症例に対する措置の是非が大きな争点になっている。医師法21条の異状死についても事件をきっかけに学問的な議論が生じている。
 多くの医療団体が捜査に抗議するなど全国的な話題を呼んだ事件は、発生から約2年を経て本格的な法廷論争に入った。
 初公判には一般傍聴席26席に、349人の傍聴希望者が列をつくった。

県立大野病院医療過誤事件争点表

◎争点: 癒着胎盤に対する措置
 [検察側] 癒着胎盤と分かった時点で、、大量出血を避けるために子宮摘出手術などに移るべきだった。無理にはがすべきではない。
 [弁護側] 胎盤をはがした方がかえって出血を抑えられる場合は多い。はがしたら大量出血が起きると予見することは不可能だった。

◎争点: 異状死の届け出義務
 [検察側] 加藤被告は遺体を検案した結果、異状死と認識していたのに、届け出なかった。
 [弁護側] 届け出義務は憲法の黙秘権に反する。加藤被告は異状死の認識がなかった。

◎争点: 加藤被告の供述の任意性
 [検察側] 証拠提出する加藤被告の供述調書はいずれも任意で話した。
 [弁護側] 供述調書の中に加藤被告が任意で話さず、不本意な部分がある。

(福島民報、2007年1月26日)


県立大野病院事件あす初公判 「癒着胎盤」対応最大の争点 (読売新聞)

2007年01月25日 | 報道記事

参考:

癒着胎盤で母体死亡となった事例

母体死亡となった根本的な原因は?(私見)

日本産科婦人科学会、日本産婦人科医会:
県立大野病院事件に対する考え

日本周産期・新生児医学会の声明文

日本医学会、声明文

県立大野病院事件についての自ブログ内リンク集

****** 読売新聞、2007年1月25日

県立大野病院事件あす初公判

「癒着胎盤」対応最大の争点

大熊町の県立大野病院で2004年12月、帝王切開の手術中に楢葉町の女性(当時29歳)が出血性ショックで死亡した事故で、業務上過失致死と医師法(異状死体の届け出義務)違反の罪に問われている産婦人科医師、加藤克彦被告(39)(大熊町下野上)の初公判が26日、福島地裁で開かれる。弁護側は無罪を主張し、検察側と真っ向から争う姿勢で、多くの医療関係者が裁判の行方を注視している。

最大の争点は、胎盤が子宮に癒着していることを認識した時点で、大量出血する恐れがあるとみて子宮から胎盤をはがすことを中止し、子宮摘出に移る義務があったかどうか。

「子宮摘出に移行するべきだった」とする検察側に対し、弁護側は「癒着胎盤は、胎盤がはがれた後は子宮が収縮して出血が収まると考えられるため、まずはく離を継続する。出血が止まらない場合やはく離が困難な場合に子宮摘出を行うと判断するのが、臨床の現場では一般的だ」と反論する。

今回の裁判では、審理を迅速化するため争点を事前に絞り込む公判前整理手続きが適用された。手続きは昨年7月に始まったが、弁護側が全面的に争う姿勢を見せたため、起訴から争点整理の終了までに約9か月を要した。手続きの結果、〈1〉大量出血の予見可能性〈2〉胎盤をはく離した際に手術用ハサミを使用した妥当性〈3〉医師法違反適用の是非――なども争点になった。

弁護側は「薬を間違えたわけでも、摘出すべきでない臓器を摘出したわけでもなく、明確な過失はない」とし、「胎盤のはく離を継続するかどうかは現場の医師の判断」と主張している。

日本産科婦人科学会は昨年3月、「故意や悪意のない医療行為に個人の刑事責任を問うのは疑問」と抗議。日本医学会も同12月、「逮捕は医療を委縮させる。事故の多い診療科が敬遠され、医師が偏在化する」との声明を発表した。

起訴状によると、加藤被告は、女性の胎盤が子宮に癒着していることを認識し、はく離を続ければ大量出血する危険があったにもかかわらず、子宮摘出を行わず、胎盤をはがして大量出血を招き、女性を失血死させたとされる。また、24時間以内に警察に異状死の届け出を行わなかったとされる。

26日の初公判では罪状認否の後、検察側と弁護側の双方が冒頭陳述を行う。第2回公判からは証人尋問が始まり、月1回のペースで公判が進む予定だ。

(読売新聞、2007年1月25日)

****** 河北新報、2007年1月25日

胎盤剥離の処置争点

大野病院事件あす福島地裁で初公判

福島県立大野病院(大熊町)で帝王切開手術中、判断の誤りから女性患者=当時(29)=を失血死させたとして、業務上過失致死罪と医師法違反の罪に問われた産婦人科医加藤克彦被告(39)=大熊町=の初公判が26日、福島地裁で開かれる。加藤被告側は「難度の高い手術中に起きた不幸な出来事で、過失はない」として無罪を主張する方針だ。

加藤被告の起訴は、医療行為に関し、刑事責任を問う線引きを大きく変えると受け止められ、産科医療の現場を揺さぶった。最大の争点は、加藤被告が帝王切開出術中、子宮に癒着した胎盤の剥離(はくり)を続けた処置が妥当だったかどうかだ。

公判前整理手続きでは、検察側が「剥離をやめて子宮を摘出するべきだったのに、剥離を続けたことが大量出血を招いた」と主張したのに対し、弁護側は「止血のためにも剥離を続ける必要があった」と反論、真っ向から対立した。

このほか、胎盤癒着の程度や大量出血の原因と死亡との因果関係、女性の死亡が医師法で警察への届け出が義務付けられている「異状死」に当たるかどうかなども争点になる。

初公判では検察、弁護双方が冒頭陳述を行い、争点ごとにそれぞれの主張を展開する。

起訴状によると、加藤被告は2004年12月17日、福島県楢葉町の女性の帝王切開手術を行った際、胎盤と子宮の癒着を確認。無理にはがせば大量出血で死亡する恐れがあるのに、子宮を摘出するなど事故を回避する注意義務を怠り、胎盤をはぎとって大量出血させ、女性を失血死させた。また、女性の死を異状死として警察に届け出なかった。

(河北新報、2007年1月25日)

****** 朝日新聞、2007年1月24日

医師過失、刑事責任問えるか

検察側「必要な処置怠る」 VS. 医師ら「個人追求不向き」

福島県立大野病院で04年に女性(当時29)が帝王切開中に死亡した事件で、業務上過失致死と医師法違反にの罪に問われた産婦人科医加藤克彦被告(39)に対する初公判が26日、福島地裁で開かれる。過失の認定が難しい医療行為が刑事責任を問われるのかどうか、公判は医療界の注目を集めている。

帝王切開で死亡 26日地裁初公判

女性は04年12月に死亡。県の事故調査委員会は医療過誤を認める報告書をまとめ、県は遺族に謝罪した。報告書をきっかけに捜査を始めた県警は昨年2月、加藤医師を逮捕した。

起訴状によると、手術用ハサミで胎盤と子宮が癒着した部分をはぎ取って女性を失血死させ、女性の死に異状があると認識しながら、24時間以内に警察に届けなかったとされる。

公判前に、検察側、被告・弁護側の主張を整理した結果、争点は大きく3点に絞り込まれた。最大の争点は、加藤医師が子宮に胎盤が癒着していると認識した時点で、胎盤をはぎ取るのをやめるべきだったかどうかという点だ。異状死だったかどうかや、加藤医師の供述の任意性についても、意見が対立している。

検察側は「胎盤がはがれづらいと気づいた時点で剥離を中止し、子宮摘出などの処置をとるべきだった」と主張。医学生向けの教科書などに「癒着胎盤とわかれば無理に剥離せず直ちに子宮摘出すべきだ」と書かれている点を指摘した。

一方、弁護側は「癒着胎盤とわかったのは胎盤剥離の最中で、すでに出血も始まっていた。胎盤を取り去れば通常は止血するため、臨床医の判断として剥離を優先させた。出血を放置して子宮を摘出するのは危険すぎる」と反論している。

公判では、医療行為の専門性をどうとらえるかで姿勢の違いも鮮明になった。弁護側は「裁判官に医師の判断や処置を理解してもらうには胎盤や子宮についての医学的知識が不可欠」として、医学専門書や論文などを証拠申請したが、検察側は「事件に関連性が無い」として、大半を不同意とした。

医療界は公判に重大な関心を寄せている。日本産科婦人科学会と日本産婦人科医会が「全国的な産婦人科医不足という医療体制の問題点に深く根ざしており、医師個人の責任追及は、そぐわない」との声明を出したほか、全国の産婦人科や新生児科、小児科の医師ら795人も抗議声明を発表した。

(朝日新聞、2007年1月24日)


県立大野病院事件 公判前整理手続き終了

2006年12月16日 | 報道記事

コメント(私見):

福島県立大野病院で起きた妊婦死亡事故で、業務上過失致死と医師法違反の罪に問われた産婦人科医についての、福島地裁での5カ月間にわたる公判前整理手続きが終わったようです。

争点は以下の3点に絞られたとのことです[(1)については4点が問題となる]。 

(1)胎盤と子宮の癒着を認識した時点で胎盤の剥離を中止すべきだったか否か
 ①癒着した部位やその程度
 ②出血の程度や予見可能性
 ③死亡との因果関係
 ④クーパー(手術用ハサミ)を使用して剥離したことの妥当性

(2)医師法違反にあたるのかどうか
(3)被告の供述の任意性

弁護側は会見で、「医師に対する業務上過失致死事件で、医師の裁量が問われた裁判はこれまでにない。加藤医師に過失はなく、最善を尽くしたので無罪だと確信している」と検察側と全面対決する方針を改めて示したようです。

参考:

日本医学会、声明文

公判概略について(06/7/28)

公判概略について(06/9/23)

公判概略について(06/10/19)

県立大野病院事件についての自ブログ内リンク集

****** 朝日新聞、2006年12月15日

焦点3つに絞る 県立大野病院事件

 大熊町の県立大野病院で女性(当時29)が帝王切開手術中に死亡し、執刀した産婦人科医加藤克彦被告(39)が業務上過失致死と医師法違反の罪で起訴された事件の公判前手続きが14日、福島地裁であり、争点は大きく3点に絞り込まれた。公判前手続きはこれで終了し、来年1月26日に初公判が開かれる。

 弁護側によると、地裁側は(1)胎盤と子宮の癒着を認識した時点で胎盤の剥離(はくり)を中止すべきだったか否か(2)医師法違反にあたるのかどうか(3)被告の供述の任意性の3点を争点として認定した。

 さらに、争点の中の胎盤の剥離について、癒着した部位やその程度▽出血の程度や予見可能性▽死亡との因果関係▽クーパー(手術用ハサミ)を使用して剥離したことの妥当性の4点が問題になる、としたという。

 来月の初公判では、検察側、弁護側双方が冒頭陳述を行い、2~5月の4回の公判で、検察側が証人尋問を行う予定。

 検察側は、同院の作山洋三院長や、手術室にいた医師や看護師、子宮の病理鑑定を行った、県立医大の杉野隆講師らを証人申請し、認められたという。

 検察側は、「第1回公判期日以降、主張を明らかにし、事実関係の立証に努めたい」となどとする談話を発表した。

(朝日新聞、2006年12月15日)

****** 毎日新聞、2006年12月15日

大野病院医療事故:「医師は最善尽くした」 弁護側、改めて対決方針

 ◇公判前整理終了

 県立大野病院(大熊町)で起きた医療事故で、業務上過失致死と医師法違反の罪に問われた産婦人科医、加藤克彦被告(39)の福島地裁での5カ月間にわたる公判前整理手続きが14日終わった。弁護側は会見で、「医師に対する業務上過失致死事件で、医師の裁量が問われた裁判はこれまでにない。加藤医師に過失はなく、最善を尽くしたので無罪だと確信している」と検察側と全面対決する方針を改めて示した。

 争点は6点に絞られ、弁護側は加藤医師の刑事責任を全面的に否定している。癒着胎盤について、「子宮後壁の一部への癒着で、程度も軽かった。はく離を継続しても問題はなかった」と主張。出血は「はく離に伴うものだけではない」と指摘し、手術用はさみの使用は「はく離面の面積を小さくして出血を最少にするため」と説明している。

 また、弁護側は医師法の届け出義務は「異状死の定義があいまい」と指摘し、「加藤医師の供述調書は本人の主張とずれている。文献や医学書が証拠採用されず、検察側が専門的なことを理解しようとする姿勢がみられない」と批判した。

 検察側はこれまでに、癒着の範囲は弁護側の主張より広かったとし、出血もはく離によるものが大部分だと主張しているという。福島地検の片岡康夫次席検事は「来年の公判期日以降において、主張を明らかにし、事実関係の立証に努めたい」とコメントした。

 来年1月の初公判では、検察側、弁護側双方の冒頭陳述が行われる。2回目以降は月1回程度公判が開かれ、検察側が証人申請した手術に立ち会った医師や看護師、病理鑑定をまとめた医師ら計8人への尋問を5月ごろまで行う。その後、弁護側証人の尋問が予定されている。【町田徳丈】

(毎日新聞、2006年12月15日)

****** 読売新聞、2006年12月15日

「子宮摘出」最大の争点

大野病院産婦死亡公判前整理手続き終了

 大熊町の県立大野病院で2004年12月、帝王切開手術を受けた楢葉町の女性(当時29歳)が出血性ショックにより死亡した事故で、業務上過失致死と医師法(異状死体の届け出義務)違反の罪に問われた産婦人科医加藤克彦被告(39)の第6回公判前整理手続きが14日、福島地裁であった。地裁側は、大量出血に対する加藤被告の予見可能性など6つの争点を示し、同手続きが終了した。

 加藤被告の弁護団によると、6つの争点は〈1〉出血の部位・程度、それに対する加藤被告の予見可能性〈2〉手術用ハサミを使用するなどして、はく離したことの妥当性〈3〉医師法違反の正否――など。弁護団は「胎盤はく離を中止し、子宮摘出に移らなければならない義務があったかどうか」という点が最大の争点としている。初公判は来月26日。

 起訴状などによると、加藤被告は、胎盤が子宮に癒着し、大量出血する可能性を認識していたにもかかわらず、本来行うべき子宮摘出を行わず、胎盤を無理にはがして大量出血を引き起こしたなどとされる。

(読売新聞、2006年12月15日)

****** 河北新報、2006年12月15日

来年にも結審か 福島・大野病院事件 公判前手続き終了

 福島県立大野病院(大熊町)で帝王切開手術を受けた女性=当時(29)=が失血死し、産婦人科医加藤克彦被告(39)が業務上過失致死罪などに問われた事件の公判前整理手続きで、福島地裁は14日、検察、弁護側と第6回協議を行い、加藤被告が癒着胎盤の手術で、胎盤の剥離(はくり)を続けた行為の妥当性など6点を争点とすることで合意した。

 協議は今回で終わり、初公判は来年1月26日に開かれる。

 ほかの争点は、胎盤の癒着程度や出血の原因、死亡と剥離の因果関係など。弁護側は「胎盤の剥離の継続は産科臨床の常識で過失はない」と主張、剥離を止めて子宮を摘出すべきだったとする検察側と対立している。

 初公判後、検察側の証人尋問が5月ごろまで行われ、弁護側の証人尋問に入る。来年中には結審し、判決が言い渡される見通し。

 起訴状によると、加藤被告は2004年12月17日、同県楢葉町の女性の帝王切開手術を行った際、胎盤と子宮の癒着を確認。無理にはがせば大量出血で女性が死亡する恐れがあるのに、子宮を摘出するなど事故を回避する注意義務を怠り、胎盤をはぎ取って女性を失血死させた。

(河北新報、2006年12月15日)

以下、産科医不当逮捕事件より転載
http://www.yk.rim.or.jp/~smatu/iken/sankafutotaiho/20061214.htm

大野病院医療過誤 争点6項目確定
福島地裁公判前手続き、危険予見性で相違癒着剥離妥当か

<裁判の争点>
1:癒着胎盤の程度、部位
2:手術中の出血の程度、部位
3:女性の死亡と手術との因果関係
4:胎盤剥離の際に医療器具(クーパー)を使ったことの妥当性
5:異状死の際の届出を義務付けた医師法違反の認識
6:捜査段階における加藤被告の供述の任意性


 大熊町の県立大野病院の産婦人科医が業務上過失致死と医師法違反の罪に問われた医療過誤事件で、最終の公判前整理手続きとなる第六回協議が十四日、福島地裁で開かれ、手術と死亡との因果関係など六項目の争点が確定した。

 これまでの協議を受けて地裁側が争点を提示し、検察、無罪主張の弁護側が同意した。癒着胎盤というきわめてまれな症状に対する医師の措置の是非が問われることになる。初公判は来年一月二十六日。全国の医療団体などが注目する事件は女性の死亡から二年を経て、舞台を法廷に移す。

 起訴されたのは大熊町・・産婦人科医加藤克彦被告。起訴状によると、加藤被告は平成十六年十二月十七日、楢葉町の女性の帝王切開手術を執刀し、癒着した胎盤をはがし大量出血で死亡させた。女性が異状死だったのに二十四時間以内に警察署に届けなかった。

 弁護団によると、地裁が示した争点は表の通り。特に、癒着胎盤をはがしたことに対する妥当性では検察、弁護側の意見が対立している。検察側は「剥離を中止して子宮摘出手術などに移るべきだった」、弁護側は「出血を抑えるため剥離を続けるべきで、子宮摘出は最終手段」と主張している。

 争点の1-4は剥離の是非がポイント。弁護側は癒着の程度、範囲ともに検察側の認定よりも軽度と見ている。検察側が剥離による出血が多く、女性の死亡を予見できたとみているのに対し、弁護側は剥離行為以外が原因の出血もあり、予見できなかったと反論している。死亡と手術の因果関係では、加藤被告に過失があったかどうかを争う。

 手術ではさみのような医療器具クーパーを使ったことについて検察側は手ではがせなかったために用いたことを問題視したが、弁護側は「剥離の範囲を最小にし、より早く行うために使うことがある」とした。

 5の医師法違反の認識では、検察側は「被告は死体に異状があると認めた」とし、弁護側は「被告に異状死の認識がない」と反論。異状死の基準があいまいで、報告義務は憲法の黙秘権などに反するとしている。

 6の供述の任意性について弁護側は「被告の言い分を聞いてもらえなかった部分がある」としている。加藤被告は捜査段階で、手術による女性の生命への危険を予見できなかったとして容疑を否認している。

 癒着胎盤は、胎児と母体をつなぐ胎盤が子宮内の壁と癒着するケース。出産の後に通常行われる胎盤の除去が難しくなる。一万人に数例の珍しいケースとされ、加藤被告は事件前、執刀経験がなかった。

来年末に結審へ

 協議では後半の進行予定も決まった。来年末には結審する見込み。

 初公判では検察側、弁護側それぞれが冒頭陳述し、証拠書類を調べる。第二回から第五回までは、検察側が請求した証人尋問。手術に立ち会った医師や鑑定医が証言台に立つ。第六回以降は弁護側請求の証人尋問で、鑑定医などの出廷が見込まれる。いずれも午前十時から午後五時まで。

公判日程は次の通り。

初公判=1月26日
第2回=2月23日
第3回=3月16日
第4回=4月27日
第5回=5月25日

 福島地検福島地検の片岡康夫次席検事は十四日、公判前整理手続きの終了について「第一回公判で主張を明らかにし、事実関係の立証に勤めたい」とコメントした。

裁判に全国的注目

 事件発生から初公判までの経緯は左表の通り(省略)。県立病院医師の逮捕や全国の医療団体による抗議声明などを受け、裁判は全国的な注目を集めている。

 女性が帝王切開手術中に亡くなったのは平成十六年末。県は翌年三月に「病院側のミス」と認めた。今年二月、富岡署が「証拠隠滅の恐れがある」などとして加藤被告を逮捕し、県病院局を家宅捜索した。県立病院医師の逮捕は初めて。福島地検は同年三月、加藤被告を起訴した。

 起訴後、日本産科婦人科学会や日本産婦人科医会が「医療過誤ではない」とする声明を相次いで発表した。

 産婦人科医が不足する地方医療の現状がある一方、医療過誤が刑事事件として立憲されにくい背景もあることも、話題を呼ぶ一因となっている。

(以上、産科医不当逮捕事件
http://www.yk.rim.or.jp/~smatu/iken/sankafutotaiho/20061214.htm
より転載しました。)

****** 福島民友、2006年12月15日

争点7つに絞り込む/大野病院医療事故

 業務上過失致死と医師法(異状死の届け出義務)違反の罪に問われた県立大野病院の産婦人科医加藤克彦被告(39)=大熊町下野上=の公判前手続きの第6回協議が14日、福島地裁(大沢広裁判長)であり、争点を7点に絞り込んだ。同日で公判前手続きは終了した。

 争点は(1)癒着胎盤が分かった後の胎盤はく離の中止義務の有無(2)癒着部位と程度(3)出血部位と程度(4)死因と因果関係(5)はく離における手術用はさみ使用の妥当性(6)医師法による異状死届け出義務違反の有無(7)被告医師の供述の任意性。

 検察側は、女性患者の手術に加わっていた医師や看護師、検察側の病理鑑定を行った医師や専門医など11人を証人として申請。これに対し弁護側は、3人の採用を留保、8人に同意した。

 協議後に記者会見した主任弁護人の平岩敬一弁護士は、「胎盤はく離の途中で癒着胎盤が分かった場合、癒着胎盤をまずはく離した対応は医師として正当。これが過失となれば医療行為ができなくなる」と無罪を主張した。

 初公判は来年1月26日。その後は月1度の割合で公判を開き、2月以降は順次、証人尋問を行う予定。

(福島民友、2006年12月15日)


初公判は来年1月26日に 福島の病院医療事故

2006年10月13日 | 報道記事

コメント(私見)

県立大野病院事件に関して、福島地裁で第4回公判前整理手続きが行われ、今後の裁判では、「手術中に胎盤の癒着が分かった時点で(手術の)中止義務があったか」が主な争点になるということらしいです。

癒着胎盤かどうか?は胎盤の癒着剥離中に大出血が始まった時点で初めてその疑いを持つことができ、摘出子宮の病理検査によって初めてその診断が可能となります。

実際の臨床の場で、胎盤が剥がれにくいケース(付着胎盤)はいくらでもあります。しかし、真の「癒着胎盤」は1万分娩に1例とも言われている非常にまれな疾患です。胎盤がいくら剥がれにくくても、実際は、ほとんどの場合(99.99%)で胎盤は剥離可能なのです。

 癒着胎盤で母体死亡となった事例

 癒着胎盤について

産科では1リットル程度の出血は正常範囲で、2リットル近い出血も日常茶飯事です。時に、10リットルを越すような大出血が突然始まって母体は出血性ショックで意識を消失し、緊急大量輸血を実施しながら全身麻酔下の緊急子宮摘出手術を実施しなければならないような場合もあります。そういう緊急事態がいつ発生するのかは全く予測できません。

産科の歴史は出血との闘いの歴史で、『大出血が始まる前に、それを予見すること』ができないので太古の昔からみんなさんざん苦労してきたのです。

Williams Obstetrics, 22nd Edition
Chapter 35. Obstetrical Hemorrhage

Obstetrics is "bloody business."
Even though hospitalization for delivery and the availability of blood for transfusion have dramatically reduced the maternal mortality rate, death from hemorrhage still remains a leading cause of maternal mortality. From 1991 through 1997 in the United States, hemorrhage was a direct cause of more than 18 percent of 3201 pregnancy-related maternal deaths, as ascertained from the Pregnancy Mortality Surveillance System of the Centers for Disease Control and Prevention (Berg and colleagues, 2003).

ウイリアムス産科学、第22版  第35章 産科出血
産科は出血との闘いである。分娩のために入院するようになり、輸血もしやすくなって、母体死亡率は劇的に減少したが、いまだに出血が母体死亡の最大原因であることに変わりがない。1991年から1997年までの米国における妊娠関連母体死亡3201例のうちの18%以上において、出血が直接の死因であった。

****** 毎日新聞、2006年10月12日

大野病院医療事故:初公判は来年1月 弁護側が意見書提出----公判前手続き /福島

地裁で第4回公判前整理手続き

県立大野病院で帝王切開の手術中に女性(当時29歳)が死亡した医療事故で、業務上過失致死と医師法違反の罪に問われた同病院の産婦人科医、加藤克彦被告(39)の第4回公判前整理手続きが11日、福島地裁であった。この日は手続きを12月で終了し、初公判を来年1月26日午前10時から開くことを決めた。

手続きでは、第2回公判を2月23日、第3回を3月16日に開くことも決めた。また弁護側は、(1)手術前の癒着胎盤の予見可能性(2)手術中の大量出血の予見可能性(3)医師法の異状死の定義のあいまいさ(4)今回の起訴が医療現場に与えた悪影響----といった内容を柱とする「予定主張等記載書面」と証拠に対する意見書を提出した。

争点とみられる「手術中に胎盤の癒着が分かった時点で(手術の)中止義務があったか」については、「義務があった」とする検察側に対し、弁護側は「止血をするために胎盤剥離をするのが臨床では当然のこと」と主張している。また、弁護側は医師法違反については、異状死の定義があいまいなうえ、被告は院長に報告し違法性はないとの主張をする予定だ。

次回手続きは11月10日に行われ、弁護側が提出した書面に対して検察側が意見を述べる。12月14日の手続きで争点を最終的に整理し、手続きを終える予定だ。【松本惇】

(毎日新聞、2006年10月12日)

****** 共同通信社、2006年10月12日

初公判は来年1月26日に 福島の病院医療事故

帝王切開手術で女性=当時(29)=を死亡させたとして、業務上過失致死などの罪に問われた福島県立大野病院の産婦人科医加藤克彦(かとう・かつひこ)被告(39)の第4回公判前整理手続きが11日、福島地裁で開かれ、初公判を来年1月26日に開くことで地裁、検察側、弁護側が一致した。

この日、弁護側は公判で主張する内容をまとめた書面を提出。今後、これに対し検察側が意見を述べ、争点を絞り込んで年内に公判前整理手続きが終了する見込み。

これまでの手続きで、胎盤が子宮に癒着していると認識した際、胎盤のはく離を中止すべきだったかどうかが、公判の主な争点となる見通しになっている。

(共同通信社、2006年10月12日)

****** 福島民報、2006年10月12日

来年1月26日初公判/福島地裁/2大争点、全面対決/大野病院医療過誤訴訟

大熊町の県立大野病院の産婦人科医が業務上過失致死と医師法違反の罪に問われた医療過誤事件で、公判前整理手続きによる第4回協議が11日、福島地裁で開かれ、来年1月26日に初公判を開くことを決めた。

弁護団によると、初公判は午前10時から午後5時まで審理を行い、冒頭手続きのほか証人尋問まで進む。第2回は2月23日、第3回は3月16日を予定している。3回では結審しない見込みで、4月以降の予定は年明けに決める。公判前整理手続きは11月10日の第5回、12月14日の第6回で終える。

第4回協議では弁護団が主張や証拠をまとめた書面を提出した。検察側の証拠についてカルテなどは同意するが、供述調書はほぼすべて不同意とする意思を示した。公判では無罪を主張し、全面的に争う。

起訴されたのは大熊町下野上、産婦人科医の被告(39)。起訴状によると、被告は平成16年12月17日、楢葉町の女性の帝王切開手術を執刀した際、癒着した胎盤をはがし、大量出血で死亡させた。女性が異状死だったのに、24時間以内に警察署に届けなかった。

(福島民報、2006年10月12日)

****** 福島民友、2006年10月12日

初公判は来年1月26日/大野病院医療過誤

業務上過失致死と医師法(異状死の届け出義務)違反の罪に問われた県立大野病院の産婦人科医加藤克彦被告(39)=大熊町下野上=の公判前整理手続きの第4回協議が11日、福島地裁(大沢広裁判長)であり、初公判は1月26日に開かれることが決まった。以降の公判は2月23日、3月16日の予定。弁護側はこの日、検察側が出した供述調書について、内容と証拠採用を不同意とし、胎盤に関する病理医の岡村州博(東北大)、池ノ上克(宮崎大)、解剖医の中山雅弘(大阪府立母子総合医療センター)の3医師を証人として裁判所に申請する方針を示した。

(福島民友、2006年10月12日)


大野病院医療事故:裁判所が争点初提示 初公判12月に (毎日新聞)

2006年09月17日 | 報道記事

コメント(私見)

胎盤を剥離する際に、突然、大出血が始まって、その時点で初めて、『もしかしたら、これは癒着胎盤かもしれないぞ』と、執刀医は判断することができます。その際、執刀医は、まずは通常の止血の処置を試みて、どうしても止血ができない場合に限り、最終的に子宮摘出を決断することになります。

癒着胎盤であるかどうかは、摘出した子宮の病理検査によって初めて診断できます。癒着胎盤を強く疑い、子宮を摘出したが、摘出子宮の病理検査で癒着胎盤が否定されることもあり得ます。大量の出血が始まる前には、そもそも癒着胎盤と診断することは不可能です。

また、帝王切開では、1000~2000ml程度の出血であれば、日常よく経験する通常の出血量の範囲であり、その程度の通常の出血量のうちに、いきなり子宮摘出を決断することは普通あり得ません。

助産師にしろ、産婦人科医にしろ、分娩を取り扱っている以上は、取り扱う分娩件数の多少にかかわらず、いつ癒着胎盤の症例に遭遇するかは、全く予測できません。一生涯、遭遇しなくて済むかもしれないし、今日の勤務中にも遭遇するかもしれません。すなわち、プロとして分娩を取り扱っている以上は、どの妊婦も癒着胎盤の可能性があることを常に肝に銘じ、いつ癒着胎盤の症例に遭遇しても直ちに対応できる準備と覚悟が必要だと考えています。

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大野事件の続き... (いなか小児科医)

大野事件、公判前整理手続き (今日手に入れたもの)

参考:

癒着胎盤で母体死亡となった事例

癒着胎盤について

日本産科婦人科学会、日本産婦人科医会:
県立大野病院事件に対する考え

****** 毎日新聞、福島、2006年9月16日

大野病院医療事故:
裁判所が争点初提示 初公判12月に
--公判前整理手続き


 ◇第3回公判前整理手続き

 県立大野病院で帝王切開手術中に女性(当時29歳)が死亡した医療事故で、業務上過失致死と医師法違反の罪に問われた同病院の産婦人科医、加藤克彦被告(39)の第3回公判前整理手続きが15日、福島地裁であった。今回は裁判所から初めて争点についての考えが示された。手続き終了は11月となり、初公判は12月にずれ込む見通しだ。

 手続きでは、裁判所から「胎盤の癒着がわかった段階で、大量出血を予見して剥離(はくり)を中止し、子宮を摘出すべきだったか」が主たる争点との考えが初めて示された。これについて弁護側は手続き後の記者会見で、「止血をするために胎盤をはがすことは臨床では当然のことで、出血を放置して子宮を摘出することは危険だ」と主張した。これに対し検察側は、「大量出血をする前に子宮を摘出すべきだと主張しており、(止血することが重要だとする弁護側の主張は)前提となる事実が異なっているように思われる」と話した。

 次回は10月11日に行われ、弁護側が主張を記載した「予定主張等記載書面」を改めて提出する。11月10日に検察側が意見を述べて手続きを終了する見込みだ。【松本惇】

(毎日新聞、2006年9月16日)

**** 日医ニュース、オピニオン、2006年9月5日
http://www.med.or.jp/nichinews/n180905n.html

医療崩壊を食い止めるために

飯野奈津子(NHK解説委員)

 昨今,医療事故を起こした医師に対して刑事責任を追及する流れが加速している.この流れが医療現場にもたらす影響を懸念する飯野奈津子氏に,その問題の深刻さを指摘してもらった.
(なお,感想などは日本医師会・広報課までお寄せください)

 「これまで,生活を犠牲にしてでも患者のために頑張ってきたけれど,もう限界です」.こんな手紙を,病院勤務の医師からもらうことが多くなった.これまで寝食を忘れて真面目に仕事をしてきた医師たちが,医療を巡る現状に悲鳴を上げ始めた.その原因の一つが,ここ数年,医療事故を起こした医師に対する刑事責任追及の流れが加速していることである.「罪に問われる基準が明確にされないまま,結果が予想外で重大だというだけで犯罪者にされてはたまらない」,そんな医師たちの思いが伝わってくる.
 こうした医師たちの思いを増幅させたのが,福島県立大野病院の産婦人科の医師が逮捕・起訴された事件だ.〇四年十二月,帝王切開の手術を受けた女性が死亡し,今年になって,執刀した医師が,業務上過失致死と医師法違反の罪で逮捕・起訴された.
 この事件に対して,日医をはじめとする,百近くの医療関係団体が,相次いで抗議文や声明文を出した.「明らかな過失もないのに,医師を逮捕するのは不当.医療関係者の不安が増大している」と訴えている.医師の過失が刑事責任を問われるほどのものかどうかは,裁判の過程で明らかになるだろうが,この事件が医療関係者に与えた衝撃は,あまりにも大きい.

刑事責任追及の流れがもたらすもの

 それにしても,なぜ,刑事責任追及の流れが加速しているのだろう.医療事故が起きた時,被害者が望むのは,なぜ事故が起きたのかその真相を明らかにして,医療側にミスがあれば謝罪して欲しい.そして二度と同じ事故を繰り返さないよう対策をとって欲しいということである.ところが,多くの場合,医療側から事故の原因について,十分な説明がない.
 そうしたなかで,被害者の側ができることといえば,現状では,民事の裁判に訴えるしかない.ところが民事裁判では,被害者の側に立証の責任があるので,医療の専門家を相手に争うのが難しく,真相が究明できないことも少なくない.そこで,被害者の側が期待するのが警察の力である.自分たちの手で解明が難しい事故の真相を,刑事裁判の場で解明して欲しいと願い,そうした期待を受けて,警察が積極的に動き出したということだと思う.
 しかし,事故を起こした医師個人の責任を追及する刑事裁判の場でも,被害者の思いは満たされない.事故は多くの場合,医療体制上の問題が複雑に絡んでいるが,刑事裁判では,問題の全容を解明することが難しく,事故の再発防止につながらないからだ.
 しかも,刑事責任追及の流れが,医療の萎縮ともいえる深刻な事態を招いている.産科だけでなく,事故と背中合わせの外科や小児科,救急などの医療現場から,医師が撤退を始め,難しい医療を敬遠する動きが出てきている.
 例えば,埼玉県の救急の現場では,病院が患者の受け入れを断るケースが増えているという.埼玉県が,たらい回しがひどすぎるという住民の苦情を受け,去年七月と八月,県内の消防本部を対象に緊急に調査を行った.それによると,四万件あまりの搬送のうち,患者の受け入れを病院に断られ,五回以上要請を繰り返したケースが四百三件,受け入れ先を決めるのに三十分以上かかったケースが二百四十二件あった.なぜ病院は患者を受け入れないのか,その理由を尋ねると,「専門外だったり,難しい患者を診たりして事故を起こせば,刑事責任を問われかねない.だから安易に患者を受け入れられないのだ」という.こうした医療の萎縮ともいえる現象が広がれば,私たち患者の側が,必要な医療を受けられなくなってしまう.事態は深刻で,社会全体で早急に対策を考えなければならない.

求められる医師と患者の相互理解

 では,今後,どんな対策が必要なのだろう.欧米諸国では,予期しなかった患者の死に医療行為が関係していた場合,第三者が公正に原因を究明する仕組みができている.日本もそうした体制づくりを急ぎ,医療側と患者側が対立する裁判に変わる紛争処理の仕組みをつくることが緊急の課題だ.そのうえで,全体のなかのどのような過失を刑事責任に問うのか,その基準を明らかにする必要もある.どんなに手を尽くしても結果が予想外だったら,刑事責任を問われるのではないかという医療関係者の不安が広がっているからだ.
 そして,何より大切なのは,日常の診療のなかで,医療者と患者が互いに理解を深め,信頼関係をつくっていくことだと思う.医療は,常に人の死と隣り合わせで,不確実性が高い.手術を始めてみないと本当の病状が分からなかったり,予期できない合併症が起きたりすることがある.患者の側は,病院に行けば必ず病気を治してくれると期待するのだが,そうした医療の不確実性を理解することが必要だ.
 同時に,医療が不確実で専門性の高い分野であるからこそ,医療側自ら,患者の側に説明する責任があるのだと思う.民事裁判に訴える医療事故被害者の多くが,「事故が起きた時に医療側から納得できる説明があれば,裁判を起こすことも,警察に期待することもなかった」と話している.医療側がそうした被害者の声に耳を傾け,患者側も医療者への感謝の気持ちを忘れずにいることが,医療の質を高めることにつながっていくのだと思う.

マスコミが果たすべき役割

 最後に,私たちマスコミの役割にも触れておく.医療崩壊スパイラルともいえる医療現場の状況を,伝え続けなければならないと強く感じている.これまで,医師が現場の状況について語ることは少なく,国民に深刻な状況が十分伝わっていないと感じるからだ.医療費が抑制されれば,確かに国民の負担は軽くなる.しかし,その結果として,必要な医療が受けられなくなってしまっては元も子もない.
 医療現場の荒廃を食い止めるには,社会全体で危機感を共有して,取り組みに必要な負担も分かち合わなければならない.安心して医療が受けられる体制を再構築するために,マスコミが果たすべき役割は大きい.そのことを自覚して,報道を続けていきたいと思う.

飯野奈津子(いいのなつこ)
NHK解説委員.昭和58年国際基督教大卒.同年に初めての女性記者としてNHKに入局,その後,警視庁,厚生省などを担当し,平成11年より現職.担当は社会保障(医療・年金・介護など),女性問題.主な著書に,「患者本位の医療を求めて」(NHK出版)などがある.

日本医師会ホームページより)


大野病院医療事故:初公判11月以降に 第2回公判前手続き、争点絞り込めず(毎日新聞)

2006年08月13日 | 報道記事

どの妊婦さんも、癒着胎盤の可能性は否定できません。癒着胎盤があっても分娩前には何の症状もありませんし、癒着胎盤の有無を分娩前に判定することはできません。まして、癒着胎盤の程度や範囲を分娩前に判定することは、現代医学をもってしても、未だ不可能とされています。

癒着胎盤の頻度は、一人の産婦人科医が一生に一回遭遇するかしないかのきわめてまれな頻度(1万分娩に1回)ではありますが、どの産婦人科医もそれが一生のうちのいつなのか?全く予測できません。もしかしたら、それは今日なのかもしれません。

(私個人の場合は、産婦人科に入門した直後に、たまたま、癒着胎盤で大量に出血した症例と遭遇しました。もしかしたら、定年退職までにあと1回くらいは同様の症例に遭遇することもあるかもしれません。)

この癒着胎盤の大出血の修羅場を経験している産婦人科医は少なく、大ベテランの百戦錬磨の産婦人科医でもほとんどの人は未経験と思われます。

全癒着胎盤は全く剥離できませんから、そのまま閉創するなり、子宮全摘をするなり、治療方針を患者や家族とゆっくり相談する余裕もあり、どの施設でも救命は十分に可能だと思います。

部分癒着胎盤では、用手剥離で一部は剥離可能で、用手剥離中にいきなり大出血が始まります。癒着胎盤の大出血は、噴水のように吹き上がる大出血で、短時間の間に、5リットル、10リットルとものすごい勢いで失血します。子宮摘出はきわめて困難です。輸血を際限なくどんどんできる病院で、スタッフ(産婦人科医多数、優秀な麻酔科医など)も大勢いるような病院でないと、誰が執刀していても救命はかなり難しい状況となります。

癒着胎盤の診断は摘出子宮の病理検査によってのみなされ、術前診断は不可能ですから、このような事態を術前に予見することはできないし、県立大野病院の当時の医療供給体制下では、誰が執刀医であったとしても、母体を救命することはきわめて困難であったと考えられます。

癒着胎盤について

癒着胎盤の定義について

癒着胎盤に関する個人的な経験談

****** 毎日新聞、2006年8月12日

大野病院医療事故:初公判11月以降に 第2回公判前手続き、争点絞り込めず /福島

 県立大野病院で帝王切開手術中に女性(当時29歳)が死亡した医療事故で、業務上過失致死と医師法違反の罪に問われた同病院の産婦人科医、加藤克彦被告(38)の第2回公判前整理手続きが11日、福島地裁であった。今回も争点を絞り込むまでには至らず、初公判は11月以降にずれ込む見通しとなった。
 この日も1回目と同様、裁判官3人、検察官3人、弁護人8人と加藤医師が出席し、約1時間行われた。
 弁護側は手続き後の記者会見で、胎盤の癒着の範囲について、「癒着は子宮の後壁部分だけで、胎盤をはがそうとした判断に誤りはない」と話した。これに対し検察側は「(胎盤の癒着は)弁護側が主張する範囲にとどまらない」との見解を示しており、公判では一つの争点となりそうだ。
 また、弁護側は、保存されている子宮の細胞片をカメラで撮影し専門家に鑑定してもらう方針を示すとともに、検察側に対し関係する医師や看護師の供述調書の開示を求めたことも明らかにした。次回は9月15日に行われる。【松本惇】

(毎日新聞、2006年8月12日)

****** 朝日新聞、2006年08月12日

争点整理、進まず

 大熊町の県立大野病院で帝王切開の手術中に女性(当時29)が死亡した事件で、業務上過失致死と医師法違反の罪で起訴された同病院の産婦人科医加藤克彦被告(38)の裁判で、2回目の公判前整理手続きが11日、福島地裁(大澤廣裁判長)であった。検察側と弁護側で争点整理が進まず、当初10月中と見込まれた公判の開始が11月以降にずれ込む見通しとなった。

 弁護側によると、今回は看護師ら病院関係者の供述調書の開示を求めたほか、検察側に押収された女性の子宮の標本をもとにして、弁護側が、胎盤が子宮に癒着する「癒着胎盤」の程度や癒着範囲を調べることも決まったという。

 加藤被告の供述や病理解剖の結果から、弁護側は、「(女性の)子宮の後壁では胎盤が癒着していたが、そこ以外は無理にはがすような部分はなかった」とみている。一方、検察側は「(癒着の程度や範囲は)弁護側が主張する範囲にとどまらない」と主張している。

 弁護側は癒着の程度や場所を具体的に明らかにするよう求めたが、検察側は明確に回答しなかったという。検察側は「癒着胎盤の程度の概念論争をするつもりはない」としている。両者の議論がかみ合わず、争点整理が進まなかったため、公判開始が遅れる見通しとなった。

(朝日新聞、2006年8月12日)

****** 参考

県立大野病院事件、第1回公判前整理手続き、福島地裁 

公判概略について


県立大野病院事件、第1回公判前整理手続き、福島地裁

2006年07月22日 | 報道記事

裁判の諸手続きに関しては、「公判前整理手続き」とか言われても、私には何が何だかさっぱり訳がわかりません。また、この事件に関しては、それぞれの立場によっていろいろな意見があるかとは思いますが、加藤先生が不当な基準によって刑事罰に処せられることがないように、裁判の今後の経過について、注視していく必要があると考えています。

****** 福島民報、2006年7月22日

大野病院医療過誤の公判前手続き/癒着胎盤措置が争点

 大熊町の県立大野病院の産婦人科医が業務上過失致死と医師法違反の罪に問われた医療過誤事件で、公判前整理手続きによる第1回協議が21日、福島地裁で開かれた。無罪を主張する弁護団はその後に会見し、癒着胎盤というまれな疾患だった被害者への処置について「胎盤をはく離させたほうが出血をおさえられる場合が多い」という主張を打ち出した。検察側は胎盤をはがしたことを過失としており、癒着胎盤への措置の是非が争点の一つになりそうだ。

(福島民報、2006年7月22日)

****** 朝日新聞、2006年7月22日

公判前手続き開始

 大熊町の県立大野病院で帝王切開の手術中に女性(当時29)が死亡した事件で、業務上過失致死などの罪に問われて逮捕・起訴された同病院の産婦人科医、加藤克彦被告(38)の公判前整理手続きが21日、福島地裁(大澤廣裁判長)で始まった。争点整理などが目的で、今後、数回の会合を経て、今秋の公判開始を目指す。弁護側は記者会見し、「産科医一人の病院で彼はできる限りのことをした。事件は別の産科医が担当しても起こりえた」などと真っ向から反論していく姿勢を明らかにした。

 公判前手続きには、保釈後、自宅待機していた加藤被告が弁護人8人とともに参加した。弁護側は検察側に対し、起訴状や検察側の立証内容をまとめた「証明予定事実記載書」についての補足説明を求めた。

 手続き後、弁護団は福島市内の県弁護士会館で会見を開き、「子宮から胎盤を剥離(はくり)したほうが出血を抑えられる場合は多く、加藤医師はできる限りの処置をした」などとし、改めて被告の無罪を訴えた。

 また、一緒に手術した麻酔科医が記載した手術中の出血量の記録に基づき、「胎盤剥離を終えた時点で出血量は約2500ccと、多くなかった。その後20分間で約4500ccと大量出血しているのは何らかの理由で子宮が十分に収縮しなかったのが原因の可能性がある」と指摘した。その上で「大量出血は予見はできなかった」とした。

 女性の死亡を24時間以内に警察署に届け出なかった点については「加藤医師には医療ミスの認識がなく、病院の規則に基づいて院長にも相談している」として医師法違反にあたらないと主張。検察側の「院長にも正しく報告していない」とする見方と対立した。

 一方、検察側は「癒着胎盤には癒着の度合いに差があるのが前提。剥離困難な癒着胎盤では、無理に胎盤の剥離を継続した場合に大量出血を引き起こす危険がある」とした上で、今回のケースについて「手で剥離することが困難なほどの癒着が認められ、剥離を中止すべきだった」とした。

 また、「検察側は起訴状や証明予定事実記載書への求釈明に十分応じていない」とする弁護側の訴えに対して、検察側は「引き続き、手続きは行われる予定であり、弁護側が現段階でそう判断するのは早計」とした。

 第2回の手続きは8月11日に行われ、早ければ10月に初公判が開かれる見通し。

 ―県立大野病院事件とは―
 04年12月、県立大野病院で帝王切開手術を受けた前置胎盤の女性(当時29)が、手術開始から約4時間半後、出血性ショックなどで死亡した事件。05年3月に公表された県の事故調査報告書をきっかけに県警が捜査。06年2月、執刀した産婦人科医加藤克彦医師(38)が業務上過失致死と医師法(異状死の届け出義務)違反の疑いで逮捕され、3月に起訴された。

 関係者の話をまとめると、手術は加藤医師のほか、麻酔科医と外科医の3人体制で実施。胎児摘出後も胎盤がはがれ落ちないため、加藤医師が胎盤を手で剥がしていた途中、胎盤が子宮後壁に癒着していることに気づいた。手術用ハサミ「クーパー」の先端でそぐように、一部はクーパーで切って胎盤を剥離した。

 通常、胎盤が剥がれると子宮が収縮し、血管が圧迫されて止血が進むが、今回はそののち大量出血した。

 準備していた輸血用血液5単位(1単位は200cc)では足りず、いわき市の血液センターに輸血製剤を依頼。1時間15分後の血液到着を待って子宮を摘出したが、まもなく女性は死亡した。この女性にとって帝王切開手術は2度目。子宮温存の希望があったとされる。

 起訴状は、癒着が認められた時点で直ちに子宮摘出に移るべきだったなどと指摘。胎盤の無理な剥離を過失とした。また術後24時間以内の警察への届け出を怠ったと指摘した。

(朝日新聞、2006年7月22日)

****** 読売新聞、2006年7月22日

大野病院妊婦死 争点「胎盤はく離」是非
公判前整理手続き 弁護側は無罪主張

 大熊町の県立大野病院で2004年12月、帝王切開の手術中に県内に住む女性(当時29歳)が出血性ショック死した医療事故で、業務上過失致死と医師法(異状死体の届け出義務)違反の罪に問われた産婦人科医師加藤克彦被告(38)の第1回公判前整理手続きが21日、福島地裁で開かれた。この手続きは、審理の迅速化を図るため、公判前に非公開で争点を絞り込むもので、弁護側は「女性に対する処置に過失はなかった」などと無罪を主張した。

 手続きには裁判官、検察官、弁護人に加え、加藤被告も出席して、午前10時から同11時50分まで行われた。この日は、争点の絞り込みには至らず、第2回公判前整理手続きを8月11日に行うことを決めた。早ければ10月にも初公判が開かれる見通し。

 手続き後、会見した県立大野病院事件弁護団長の平岩敬一弁護士(横浜弁護士会)は「癒着胎盤でも胎盤をはく離させた方が出血を抑えられる場合も多い」とした上で、「最大の争点は、癒着胎盤を認識したら、胎盤のはく離を中止し、子宮を摘出するのが医師の注意義務かどうかだ」と語った。

 一方、福島地検の片岡康夫次席検事は「本件の場合、胎盤のはく離が困難なほど強度に癒着しており、無理にはく離を継続するべきではなかった」とした。

 起訴状によると、加藤被告は、胎盤が子宮に癒着し、大量出血する可能性を認識していたにもかかわらず、本来行うべき子宮摘出を行わず、胎盤を無理にはがして大量出血を引き起こしたなどとされる。

(2006年7月22日  読売新聞)

****** 毎日新聞、2006年7月22日

大野病院医療事故:全面対決の構図に--公判前整理手続き /福島

 県立大野病院の医療事故で起訴された産婦人科医の加藤克彦被告(38)の公判前整理手続きが21日始まり、弁護側が全面否認の方針を示したことで、法廷では被告弁護側と検察側が真っ向から対立する構図となった。
 午前10時から始まった手続きには裁判官3人、検察官3人、弁護士8人と加藤被告が集まり、1時間50分間行われた。
 手続き後に会見した加藤医師の弁護団は総勢11人。加藤医師が手術用はさみで胎盤をはがしたことについて弁護団は会見で「そうした措置は珍しくない」と述べた。また、大量出血も「胎盤をはがしたあとの出血量は異常に多いわけではなかった」とし、大量出血の原因については「まだ分からない」と述べた。
 弁護側は検察側に起訴状などに関する求釈明に応じるように求めており、この日も再度要請した。福島地検は「釈明の必要があるものは釈明した。まだ手続きの途中で、この時点で弁護側が『検察側が十分に応じていない』と発表することは早計であり、誠に遺憾」との見解を示した。【町田徳丈】

7月22日朝刊

(毎日新聞) - 7月22日15時0分更新

****** 共同通信、2006年7月21日

医師に過失なしと弁護団 具体的争点整理は持ち越し

 帝王切開手術で女性=当時(29)=を死亡させたとして、業務上過失致死などの罪に問われた福島県立大野病院の産婦人科医加藤克彦被告(38)の公判前整理手続きの第1回協議が21日、福島地裁であった。地裁、検察、弁護団とも医療専門用語の意味を事前に擦り合わせることを確認したが、具体的な争点については8月11日の次回協議以降に持ち越した。
 平岩敬一主任弁護士らは協議後、福島市内で記者会見し「大量出血の予見可能性がなく、過失はなかった。胎盤をはがす方が出血を抑えられることが多く、女性も子宮摘出を望んでいなかった。異状死という認識もなかった」と起訴事実を否認し、無罪を主張する考えを示した。
 加藤被告の逮捕、起訴をめぐっては、医師会が抗議声明を出すなど反発が広がっている。

(共同通信) - 7月21日17時14分更新

****** 毎日新聞、2006年7月21日

<帝王切開死亡事故>第1回公判前整理手続き行う 福島地裁

 福島県立大野病院で帝王切開手術中に女性(当時29歳)が死亡した医療事故で、業務上過失致死と医師法違反の罪に問われた同病院の産婦人科医、加藤克彦被告(38)の第1回公判前整理手続きが21日、福島地裁で行われた。弁護側は、無罪を主張する方針を示した。初公判は10月ごろの見込みという。

(毎日新聞) - 7月21日20時21分更新

******

福島民報、2006年7月20日、社会面記事

****** 参考

大野病院医療事故:産婦人科医弁護団の動き(毎日新聞)

大野病院事件に関する地元紙の報道


大野病院事件に関する地元紙の報道

2006年07月12日 | 報道記事

****** 福島民報、2006年7月8日

大野病院医療過誤 
証拠調べ意見書を提出 公判前手続きで弁護団

 大熊町の県立大野病院の産婦人科医が業務上過失致死と医師法違反の罪に問われた医療過誤事件の公判前整理手続きで、弁護団は七日、福島地検の証拠調べ請求に対する意見書などを福島地裁と福島地検に送った。

 意見書には各証拠に対する同意、不同意の意思を示した。福島地検が出した起訴状と証明予定事実記載書への求釈明書、証拠開示の請求書も合わせて提出した。

 福島地裁、福島地検、弁護団の三者の協議は二十一日に福島地裁で開かれる。一回では争点整理が終わらない見込みで、八月十一日にも協議の予定。初公判は九月ごろとみられる。

 起訴されたのは産婦人科医加藤克彦被告(三八)。起訴状によると、加藤被告は平成十六年十二月十七日、○○町の女性の帝王切開手術を執刀した際、癒着した胎盤をはがし、大量出血により死亡させた。女性が異状死だったのに、二十四時間以内に警察署に届けなかった。

「朝から夜まで長時間公判に」 弁護団

 弁護団によると、加藤被告の公判は異例の長時間の裁判となりそうだ。

 通常の公判は一回あたり、長くても四、五時間程度。だが今回は裁判員制度をねらった公判前整理手続きを適用したこともあり、開廷時間が七、八時間となることが予想される。審理の迅速化を狙った試みといえる。

 主任弁護人の平岩敬一弁護士は「朝から夜までの公判となる。月一回程度のペースで開くことになりそうだ」と話している。

(福島民報、2006年7月8日)

****** 参考:

大野病院医療事故:産婦人科医弁護団の動き(毎日新聞)

読売新聞:大野病院の妊婦死亡 「公判前整理手続き」適用

「公判前整理手続」とは?


大野病院医療事故:産婦人科医弁護団の動き(毎日新聞)

2006年07月09日 | 報道記事

****** 毎日新聞、2006年7月8日

大野病院医療事故:起訴状の詳しい説明など求める--産婦人科医弁護団 /福島

 県立大野病院で帝王切開手術中に女性が死亡した医療事故で、起訴された産婦人科医(38)の弁護団は7日、福島地裁と福島地検に対し、検察側に起訴状についてより具体的な説明を求める求釈明や証拠開示請求など4種類の書面をファクスと郵送で送付した。第1回公判前整理手続きは、21日に同地裁で行われる。【松本惇】

(毎日新聞、2006年7月8日)

****** 河北新報、2006年6月14日

大野病院事件「命の危険回避怠る」 ~福島地検 事実記載書を提出

 福島県立大野病院(大熊町)で帝王切開手術を受けた女性=当時(29)=が死亡し、産婦人科医の加藤克彦被告(38)が業務上過失致死罪などに問われた事件で、福島地検は13日までに、公判で立証する内容を記した「証明予定事実記載書」を福島地検と弁護側に提出した。同事件の公判前手続きは、記載書を基に論点整理が進められる。
 検察側は記載書で「加藤被告は大量出血を予見できたのに子宮に癒着した胎盤をはがし、子宮の摘出など女性の命の危険を回避する注意義務を怠った」との主張を展開。手術に立ち会った病院関係者らの供述を基に加藤被告の過失を立証する内容となっている。弁護側は「帝王切開手術や癒着胎盤の病理状態について理解に欠けた主張があり、釈明を求めたい」としている。弁護側は7月7日までに、記載書に対する意見書を地検と地裁に提出。三者による第1回公判前手続きは7月21日に開かれる。

河北新報、2006年6月14日

****** 福島民報、2006年6月9日

きょう証明予定事実書提出/大野病院医療過誤 公判前整理 福島地裁に地検

 大熊町の県立大野病院の産婦人科医が業務上過失致死と医師法違反の罪に問われた医療過誤事件の公判前整理手続きで、福島地検は9日、立証予定の事実を示す証明予定事実記載書を福島地裁に提出する。
 弁護団は7月7日に記載書に対する意見書を出す。記載書と意見書を踏まえた福島地裁、福島地検、弁護団の3者の協議を7月21日に行う。初公判は9月ごろになる見込み。
 起訴されたのは大熊町下野上、産婦人科医被告(38)。
 起訴状によると、被告は平成16年12月17日、楢葉町の女性の帝王切開手術を執刀した際、癒着した胎盤をはがし、大量出血により死亡させた。女性が異状死だったのに、24時間以内に警察署に届け出なかった。

(福島民報、2006年6月9日)

参考:

読売新聞:大野病院の妊婦死亡 「公判前整理手続き」適用

「公判前整理手続」とは?
NHKイブニング信州、ニュースのはてな、2005年11月21日

「公判前(ぜん)整理手続」とは、刑事裁判の審理を早めようと取り入れられた手続きです。

11213 従来の刑事裁判では、検察側と弁護側のやりとりは全て公開の法廷で行われます。裁判が始まってから検察側は証拠などを示して事実を立証し、弁護側はそれを受けて被告の弁護を行います。そのため、審理の進行は月に一回程度のペースになり複雑な事件の場合は判決までに10年以上かかることも珍しくありませんでした。

11214 そこで、新たに導入されたこの「公判前整理手続」では、裁判を始める前に、非公開で検察官と弁護士が裁判官の前でそれぞれの主張を明確にし、争点を整理します。そして証拠調べの請求や開示をしたり裁判の日程などを決めます。

日程は3日から5日ぐらい連日で法廷を開き、合わせて1週間程度で判決まで言い渡すのが目標です。


大野病院事件「表彰」は妥当?(県議会一般質問)

2006年06月30日 | 報道記事

****** コメント

この事件に関しては、「癒着胎盤の術前診断は不可能であること」、「癒着胎盤は非常にまれな疾患で、治療の難易度はきわめて高いこと」などから、事件が報道された当初から、日本全国の多くの専門医達が異口同音に逮捕は不当と主張しています。また、日本医師会、日本産科婦人科学会をはじめとした非常に多くの医療関係の団体が、今回の事件に対して「逮捕は不当」とする声明を相次いで発表しました。

そのことは警察側でも十分に承知しているはずなのに、あえて、県警本部長が今回の事件の「功績?」により富岡署を表彰したというのは、確かに、非常に奇妙な話だと思います。福島県警のトップが、「治療に最善を尽くした医師であっても、治療の結果次第で、今後もどんどん逮捕しなさい!」と組織全体に対して命令を下し、そのことを世間に対しても堂々とアピールしているわけです。警察権力によって地域内のあらゆる医療行為が全面的に禁止されたようなものだと思われます。

****** 河北新報、2006年6月29日

 福島県立大野病院(大熊町)で2004年に帝王切開手術を受けた女性=当時(29)=が死亡し、産婦人科医が業務上過失致死などの罪で逮捕、起訴された事件で、県警本部長が医師逮捕で富岡署を表彰したことの可否が28日、県議会一般質問で取り上げられた。

 質問した県議は「(事件は)治療に最善を尽くした医師が逮捕された国内初の出来事。どんな基準で富岡署が本部長表彰に該当したのか」と疑問を投げ掛けた。綿貫茂本部長は「事案の重要性と困難性を認め、表彰した」と答えた。

 事件は、子宮壁に胎盤が密着する「癒着胎盤」だった女性が帝王切開手術中に出血性ショックで死亡。富岡署は今年2月、無理に胎盤をはがそうとしたのが原因として執刀医(38)を逮捕した。日本産科婦人科学会などは「難度の高い手術で刑事責任を問われたらメスを持てない」と一斉に反発、「逮捕は不当」とする声明が相次いだ。

 富岡署が4月14日に本部長表彰を受けた際も、大阪府保険医協会などが「不当な『表彰』の辞退を要求する」との声明文を同署に提出した。

(河北新報、2006年06月29日)


読売新聞:医療事故 摘発どこまで

2006年05月27日 | 報道記事

****** コメント

今回の事例(福島県立大野病院事件)に関しては、日本産科婦人科学会、日本産婦人医会をはじめとして、全国医学部長・病院長会議、日本医師会、日本医学会など、ありとあらゆる日本の医師の団体がこぞって、「医療ミスはなかった、正当な医療行為であった、逮捕は不当であった」と主張しています。

最近は、マスコミの論調も変わってきて、この医療事故に関する限り、「医療ミスは存在しなかった、逮捕は不当であった」というニュアンスの報道がほとんどとなってきつつあります。

このような状況でありながらも、検察側は裁判を長引かせて、あくまでも加藤医師を有罪にしようと、最後の最後まで頑張り抜くというのでしょうか?

癒着胎盤は、非常にまれながら、一定の確率で必ず誰かに発生します。私自身、産科医療に従事する限り、いつ癒着胎盤に遭遇するか全く予想もできません。癒着胎盤の治療の難易度は非常に高く、必ずしも全例で救命できるとは限りません。もしも、この裁判で加藤医師が有罪となるようであれば、産科医療に従事すること自体が刑罰に値すると断罪されたも同然で、そんなことになれば、多くの産科医が産科医療から一斉に離れていくことになるでしょう。

検察が今やろうとしていることは、産科医療だけにとどまらず、日本の医療そのものを根本から破壊しようという非常に無謀な行為だと思います。

真実は誰の目にも明らかになってきたと思うのですが、実際の裁判のゆくえは、裁判官の考え方次第で決まりますから、最終的な判決がどうなるのかは全く予断を許しません。国民みんなが、この裁判の動向を注視してゆく必要があると思います。

****** 読売新聞、2006年5月24日

検察官 第5部 あすへの模索

医療事故 摘発どこまで

医療界は「現場萎縮」反発

 1人の医師の逮捕が大きな波紋を呼んだ。

 福島県大熊町の県立大野病院で2004年12月、帝王切開の手術中に女性(当時29歳)が失血死した医療事故。執刀した産婦人科医(38)が今年2月、福島県警に逮捕され、3月10日に業務上過失致死などの罪で起訴された。

 「大量出血は予見できたはずで、無理に胎盤をはがすべきでなかった。医師の判断ミスだ」。福島地検次席検事の片岡康夫(48)は、起訴の理由をそう説明した。

 「女性は医師を信頼していたのに、麻酔で何も分からないまま亡くなった。この事実は軽視できない」と、被害者感情にも触れた。

 医療事故で医師が逮捕されるのは異例だった。また、同病院で産婦人科医はこの医師1人で、年間約230件の出産を手がけていた。

 「事件は産婦人科医不足という医療体制の問題に根ざしている。医師個人の責任を追及するのは、そぐわない」。日本産科婦人科学会などは逮捕・起訴を強く批判した。

              *

 年間1万件以上とも推計される医療事故死で、近年、医師個人の刑事責任を問う事件が増えている。警察庁のまとめでは、警察から検察への送致件数は1997年の3件から昨年は91件に増加。医療事件の判例に詳しい元福岡高検検事長で弁護士の飯田英男(67)によると、医療事件の起訴件数(略式含む)は、98年までの約50年間は137件だったが、99年から6年間79件に上る。

 増える一方の事件を処理するため、東京地検は02年4月、刑事部に医療専従班を設けた。しかし、昨年から今年にかけ、東京女子医大事件と杏林大病院割りばし死事件で、相次いで医師に無罪が言い渡された。

 東京地検で薬剤エイズ事件の公判を担当した検事の青沼隆之(51)は言う。「医療事故は、非常に立証が難しい。だが、事故が起きた時の原因や責任を追及する制度が整っていない現状で、悪質な過誤やカルテ改ざんを前に、我々が手をこまぬいているわけにはいかない」

              *

 「医療現場は常に死や傷害と隣り合わせ。専門知識に乏しい警察や検察に、罪となる医療を過不足なく判断する能力があるとは思えない」。昨年4月、虎の門病院泌尿器科部長の小松秀樹医師(56)は、最高検の「医療事故等研究会」に講師として招かれ、医療事故捜査を批判した。最高検が昨年、研究会を設置した背景には、「捜査は医療現場を萎縮させるだけで、再発防止に役立たない」という医療界からの指摘があった。

 欧米では、医療事故に基本的に刑罰を適用しない代わりに、第三者機関などが独自に原因を調査し、医師に免許はく奪を含む処分を厳しく行っている。対照的に、日本では、医師の行政処分は、刑事事件で罰金以上の刑が確立した場合などに限られてきた。

 こうした刑事司法頼りから脱却しようと、厚生労働省は02年12月、刑事裁判の確定を待たずに、処分する方針に転換。昨年9月からは、治療中に起きた不審死について、第三者の医師や弁護士が死因究明と再発防止策を検討するモデル事業を実施している。

 東京女子医大事件で二女(当時12歳)を失った平柳利明さん(55)は、「捜査で医療界の隠ぺい体質には変化が生じたが、原因究明には限界も感じた」と話す。飯田は「捜査機関とは別に専門医が調査し、その結果に基づき行政処分するシステムができれば、検察が扱うべき事案は、患者取り違えのような悪質なものに限られる。今はその過渡期だ」と分析する。

 「重大事件が相次ぎ、医療不信が高まる中、検察は遺族感情に突き動かされて刑事罰を積極的に適用してきた。しかし、すべてを刑事事件にするのがいいのかどうか」。ある検察幹部は、揺れる胸の内をそう語る。刑事司法がどこまで医療事故に踏み込むべきか。最高検の研究会は明確な結論を出せないでいる。

(検察官、弁護士の敬称略)

以上、読売新聞、2006年5月24日