ある産婦人科医のひとりごと

産婦人科医療のあれこれ。日記など。

地域周産期医療の現場で、我々が今なすべきことは何だろうか?

2006年04月30日 | 飯田下伊那地域の産科問題

このまま現状を放置すれば、地域の周産期医療は滅亡の方向にどんどん向かってゆく一方である。今、我々が早急に取り組まねばならないことは一体何だろうか?

現状では、地域の中核病院に分娩が集中する流れは止められそうにない。従って、まず、中核病院の産婦人科医、助産師の数を現状の2~3倍に増やしてゆく必要がある。しかし、医師供給元である大学病院自体が医師不足に陥っている以上、医師数の増員も急には難しいことは確かだ。現場の対応としては、まず、現在の業務内容を徹底的に見直して、当面は現状の医師数で何とかすることを考えなければならない。

中核病院と開業医との連携をいっそう強化し、開業医の先生方にもできるだけ病院の産科業務に参加していただく。具体的には、低リスクの妊婦の検診はできる限り開業医で実施していただき、婦人科外来も癌検診や軽症患者は開業医の先生方にお任せし、中核病院の外来業務の負担をできる限り軽減する。開業医の先生方にも病院の当直業務の一部を受け持っていただくように協力を要請してゆく。

医師と助産師の業務内容を見直す。助産師外来などを充実させ、医師はハイリスク妊婦の管理に集中し、低リスクの妊婦の妊娠管理・分娩管理は助産師を中心として行う。医師と助産師の協力体制を強化し、正常に経過していた妊婦に異常が発生した場合には直ちに医師が対応できるようにする。

今回、新しい試みとして、産婦人科専属のクラークを1人配置し、紹介状、紹介状の返書、生命保険の診断書などの代行入力・プリントアウトなどの業務をフルタイムでしてもらえるようになった。これらの書類の処理には今まで膨大な時間と労力を費やしていたが、有能な専属クラークが迅速に事務処理してくれるようになって書類処理の負担はかなり軽減された。

また、将来において地域で活躍してくれる臨床医が枯渇しないように、奨学金制度などによる医学生に対する支援、医学生の臨床実習、研修医の教育、専門医教育などを積極的に行なって、将来的に地域に根ざした臨床医が多く育ってくれるように努力をする必要がある。大学病院との連携を強化し、この地域内においても、臨床医としての入門期の指導から、基本~高度の技術習得の修行、専門医資格の取得、キャリア形成まで可能な体制を構築して、将来の地域医療を担う臨床医は地域でも育ててゆく地道な努力を継続してゆく必要がある。

しかしながら、地域医療の現場で我々が当面できることは知恵を絞って可能な限り実施してゆくとしても、我々現場の人間にできることには限界がある。また、我々の体力・気力もこの先いつまでもつかわからない。現場の必死の努力で地域の周産期医療が何とか崩壊せずに持ちこたえているうちに、国の方で抜本的な制度改革を早急に行っていただきたいと思う。


湘南新聞:産婦人科医不足(神奈川県の場合)

2006年04月30日 | 地域周産期医療

湘南新聞、2006年(平成18年)4月15日(土)《1609号》
http://www.scn-net.ne.jp/~shonan-n/news/060415/060415.html

「お産できなくなる」――産婦人科医不足

昼夜を問わぬ分娩に立ち会わねばならない産婦人科医の労働条件は過酷だ。激務のうえに高い訴訟率、少ない診療報酬、医学生の産婦人科離れなどの要因が重なり、慢性的な医師不足から脱却できないでいる。

足柄で分娩件数を制限
将来ヘリコプターで搬送という事態も

県立足柄上病院は大学医局から医師の派遣を受けられず、産婦人科を閉鎖した。今月4日から診療を再開したが、月に10件程度の分娩しか受けつけていない。このため400人ほどの妊婦が小田原市民病院や秦野赤十字病院などでの分娩を余儀なくされている。横須賀地区でも深刻な医師不足が続いており、横浜市南部地域の病院に妊婦が集まっているという。
  茅ケ崎市内では、すでに産婦人科を廃止した総合病院があり、また閉鎖を検討している総合病院もある。12~13軒あった市内の診療所(開業医)も今では3軒しかない状況で、ある総合病院の産科医は「近い将来、もしかしたら、東京や横浜までお産に行かなくてはならない状況が生まれるかもしれない」と警告する。
  この病院には常勤、非常勤合わせて6人の産科医がいる。常勤の医師は3日に1回は泊まり勤務。過酷な労働だ。深夜に帝王切開の手術をすることもあると言う。「労働基準法はあってないようなもの。夜、一睡もできなくても翌日、外来患者を診なくてはならないし、手術のときもある。病院は重症患者が集まるので、医療ミスを起こさないとも限らない。24時間体制で働く診療科と、そうでない診療科とでは報酬に差をつけるべき」と主張する。
  04年12月、福島の県立病院で帝王切開した女性が死亡、執刀医師が今年2月に逮捕された事件にも言及。「これをきっかけに萎縮診療、医療体制の弱体化が広まる」と懸念した。「地域でも5年、10年後、お産ができる病院がなくなるかもしれない。ヘリコプターで妊婦を東京、横浜に搬送という事態になるかもしれない」

里帰り分娩が難しくなる

県産科婦人科医会によると、県内の産婦人科医師数は勤務・開業医合わせて約1000人。60歳以上の高齢者が多く、若い医師が少ない〝逆ピラミッド型〟。医学生の産婦人科離れと少子化が医師不足に拍車をかけている。
  産婦人科医師を養成する大学病院の医局では、系列の総合病院に医師を派遣できない事態が続いている。過疎地になればなるほど医師不足は深刻だ。全国で毎年約300人が大学産科医局に入局するが、今年は200人程度で、県内には10人しか入局していない。
  同医会では県内で分娩を取り扱っている病院と診療所合計184カ所に分娩中止の有無を調査した。結果、10年後に分娩を取り扱う施設が122カ所に減る見込みであることが分かった。昨年約7万件あった分娩数が10年後には約6万件となり、約1万人が「出産難民」になると推計。
  昨年2369件あった平塚の分娩件数は10年後に1655件に減り、700人余りが市内で分娩できなくなる計算。平成14年2383件に対し、17年は2369件と減少。横浜・川崎を除いて、最もお産ができなくなるおそれがあるのは小田原・足柄地区。昨年の分娩件数は2786件だったが、10年後には1500人強が地元でお産できなくなる事態に発展する、と推測。藤沢市では10年後、1000人強が市内で出産ができなくなると推測。秦野・伊勢原・大磯・二宮と茅ケ崎・寒川の2地域では逆に増加するとの推計が出た。今後は里帰り分娩が難しくなるケースが増えると予測している。
  

妊婦集中と加重労働という悪循環
病院と開業医の連携必要

平塚市内の産婦人科医師数は病院・開業医合わせて20人程度。平塚市民病院に7人、共済病院3人、残りが開業医だ。以前はお産が中心だったが、今は産科を廃止し、婦人科のみで運営する開業医が多くなったという。65歳を過ぎると8割が産科を廃止し、不妊症などを専門に診る婦人内科や更年期後の女性患者を扱うケースが主になるという。分娩は昼夜を問わないため、高齢の医師にとっては相当の負担なのだ。
  平塚市民病院産婦人科部長の持丸文雄医師は「3日に1回の泊まり勤務という過酷な労働で、危険、きつい、といった3K的な職場なので、やめて条件のいい病院に移る医師も少なくない。医療事故での訴訟額も高いので、なり手が少ない」と現状を訴える。
  産科医師数は医師全体の約5%であるにもかかわらず、訴訟件数は約12%を占めるという。示談・民事の損害賠償額は高額で、医師賠償責任保険を圧迫しているといわれる。病院内で起きた事故の賠償については病院の責任において保険金で支払うことになるが、個人の医師が訴えられることもある。このためほとんどの医師は損保会社と契約しているという。患者は病院と主治医を訴える場合があり、とくに子どもが脳性マヒになるなど重度の障害を負うと訴訟額は1億円を超すといわれる。
  持丸医師は言う。「産婦人科医師は将来の夢が描けない。診療所がお産をしなくなっているし、病院の産科数も減少している。昔は産婆さんが赤ちゃんを取り上げたが、今は医師がかならず立ち会わなければならない。お産の数は減少しているが、それ以上に産科医が減って、お産する場所がなくなっている」
「分娩取り扱いを中止する施設が増加すると、取り扱う施設に妊婦が集中し、総合病院の産科医は加重労働になる。これを解消するには中等度以上のリスクを持つ妊婦の検診を重点的に行い、分娩を取り扱わない開業医はリスクの低い妊婦を診るシステムの構築が必要だ」

インタビュー 県産科婦人科医会・八十島 唯一 会長
訴訟多く若い医師の志望少ない
診療点数の見直しを

産婦人科医師不足の抜本的な解決策はあるのか。神奈川県産科婦人科医会の八十島唯一会長に医療現場の現状と課題について聞いた。
  ――医師不足は深刻な状況なのですか。
「県内ではお産する場所がなくなるという事態にまでは発展していませんが、足柄上病院の問題や横須賀地区での医師不足は深刻な状況です。お産は予定日があるし、待ったなし。妊娠している人は困っています。足柄上病院は産婦人科を再開しましたが、月に10件程度と分娩を制限しているので、妊婦は小田原市立病院や秦野赤十字病院に集まっています。横須賀地区の人は横浜市南部地区の病院に集中しています」
  ――開業医も不足しているのですか。
「開業医には助産師が集まりません。それから医師も高齢化しています。新規にお産を取り扱うという開業医はいません。先細りしていくばかりです」
  ――最大の原因は何だと思われますか。
「開業医については助産師不足と医師の高齢化。60歳以上の人が多く、体力的にきついから産科を廃止してしまう。勤務医は昼夜を問わない過酷な診療のため。病院によっては月に10日以上当直しなければならないところもあります。開業医が減少し病院でのお産が増えたので、勤務医はますます過酷な労働状況です」
「医療事故による訴訟が多いことも医師不足に拍車をかけています。産婦人科は事故件数は少ないのですが、額が大きい。訴訟を起こされたらとても払える額ではありません。訴訟が後を絶たない今、医学生の志望が少ない。このため、大学医局からの若い医師の派遣ができないのです」
  ――過疎地の人が横浜でお産するケースが増えているそうですが。
「横浜にはお産のできる病院が多いからです。過疎地域ではお産のできる病院が少なく、横浜など都市部に集まってきています。
  県内の産科医は約1000人いますが、以前に比べて減少傾向。60歳以上の高齢者が多く、若い医師が少ない。平成6年~16年まで全国で医師が約4万人増えましたが、産科医は約900人減少しています。医師全体の数が増えているにもかかわらず、産科医だけは減少しているのです。開業医が産科を廃止し、婦人科だけにするところも増えています。今後は妊婦の検診だけを開業医が扱い、お産は総合病院という形態が増えると思います。そうなると、お産を扱う総合病院にとってさらに負担になります。しかも内科や眼科などの診療科と同じような報酬なので、なり手がいません」
  ――抜本的な解決策はないのですか。
「国は『連携強化病院とそれをサポートする連携病院に再編成する』と言っています。核となる公的病院に5人なら5人、10人なら10人と医師を集中させる。一つの核となる病院にお産を集中させ、医師不足を解消するという考え方です。産科医の診療点数を上げるなど、抜本的な解決が必要です」


東京新聞:地方中核病院の勤務医不足

2006年04月29日 | 地域周産期医療

********* 感想

愛知県は医学部を有する大学が4つもあって、医学生の出身地も地元の占める割合が非常に多いという印象があるのですが、その愛知県でさえも、このような深刻な産婦人科などの勤務医不足の状況に陥っている所があるのを知って、非常に驚きました。

****** 東京新聞、4月27日

診療機能の低下招く

地方の勤務医不足 

 人口の少ない地方都市で、中核病院の勤務医不足が深刻化。産婦人科が閉鎖されたり、手術を伴う時間外の救急(二次救急)ができなくなる病院も出ている。若い研修医たちの「都会志向」や、地方病院の診療体制、労働条件の悪化も、流れに拍車をかけているようだ。地域医療の根幹が揺らいでいる。 (佐橋 大)

 「産婦人科につきましては、四月からの医師確保ができないため、休診とします…ご迷惑をおかけします」

 愛知県新城市の中心部にある新城市民病院の総合受付には、産婦人科休診の告知が立て掛けられていた。産婦人科の窓口にはシャッターが下り、薄暗いロビーに無人の長いすが並ぶ。

 静岡県境と接する人口五万人の町。同病院を中核とする奥三河の医療圏は、面積で愛知県の二割を占める。しかし、産婦人科の休診により、この地域でお産ができる所は、八床の産婦人科医院一軒だけになった。

 同市の妊娠三カ月の女性(35)は、車で三十分ほど南の同県豊川市の病院で産むことにした。「上の子がまだ小さいので心配。自宅の近くで出産したかった」と残念がる。

 同病院の小児科も、五月から入院の受け入れをやめる。派遣元の岐阜大(岐阜市)が常勤医二人のうち一人を引き揚げ、残った一人では夜間の入院患者に対応しきれないためだ。孫二人を連れて来院した同市内の女性(65)は「安心して子どもが育てられない」と病院の機能縮小を嘆いた。

 内科も、大学からの医師引き揚げや開業で、この数年で医師が十三人から四人に激減。四月から新規の外来患者を受け付けなくなった。

 外科は、派遣元の名古屋大学が三月で三人全員を引き揚げ、浜松医大(静岡県浜松市)から急きょ四人の派遣を受けた。

 昨年一年間で病院全体の常勤医の25%が減少する異常事態。同病院は四月から時間外の二次救急患者の受け入れを断念。夜間などに手術が必要な急患は、隣の豊川市へ運ばれる。

 背景にある問題の一つは、地方病院に医師を供給してきた大学病院本体の医師不足だ。

 昨年度まで産婦人科医二人を同病院に供給してきた藤田保健衛生大(愛知県豊明市)では、産婦人科医局の医師が十二人にとどまる。「講義や高度な手術、診察、当直勤務などをこなすため、本来は十五人から二十人の医師が必要」という。

 二〇〇四年に新しい臨床研修制度が導入されて以降、研修医が大学病院ではなく、都会の有名病院を目指す傾向が出ている。藤田保健衛生大もそれまでは毎年二、三人が入局していたが、〇四、〇五年はゼロ。本年度も一人だけ。その間に、開業などでスタッフが四人減った。産婦人科以外も事情は同様とみられる。

 「大学の医師不足だけが、引き揚げの理由ではない。他の科が縮小されると、産婦人科が単独で残っても責任ある医療を提供できない」と、同大学産婦人科の宇田川康博教授は説明する。

 内臓に持病のある妊婦の出産には、内科との連携が欠かせない。生まれてきた子どもの健康状態が不安定なら、昼夜の別なく小児科医と協力しなければならないが、一人勤務ではそれも困難。

 総合病院の機能低下が、医師不足をさらに加速させているようだ。

勤務医不足の問題は各地で起きている。勤務が過酷な産婦人科、小児科が目立つ。

 指摘されるのは次のような「悪循環」だ。

 <1>新臨床研修制度の導入で都会の大学病院や有名病院に研修段階から医師が流出。

 <2>地方の大学病院からの医師派遣が減った地方病院での勤務環境が悪化し、それに嫌気がさして開業する勤務医が増加。

 <3>人が減った地方病院で働く可能性のある地方の大学病院を目指す研修医がさらに減る。

 新臨床研修制度は、一般的な病気を幅広く診療できる医師の養成を目指す。医師資格取得後二年間の臨床研修を「努力義務」から「義務」に格上げし、内科や外科、麻酔科など各診療科の経験を必修に。大学病院と大規模な一般病院が研修プログラムを公開し、研修医が研修先を自由に選べるようにした。

 それまでは、研修医の多くが大学に残り、専門的なトレーニングを受けながら、雑用もこなす労働力になっていた。厚労省によると、その割合は、新制度前の二〇〇三年では72・6%にのぼる。

 ところが、自由に研修先を選べるようになると、大学に残る研修医は半数程度になった。専門的な医療が中心の大学病院より、一般的な症例に多く接する一般病院の人気が高く、都心の病院の方が、給料がいいためだ。

 臨床研修を終えた医師の地方大学へのUターンは、思うように進んでいない。福井大病院(福井県永平寺町)に今春進んだ医師は十九人と、研修制度導入前に比べ半減。信州大病院(長野県松本市)は四割程度。地方病院への人材供給源は先細りするばかり。産婦人科医全体では研修導入前の六割、小児科医では半数しか大学病院に入局していないという。

 研修医の大学離れは、大学病院の魅力不足に加え、関連する地方病院の厳しい勤務環境も一因とされている。静岡県内のある病院の医師は「本来は病院全体で医師が二十三人は欲しいのに、医師派遣の減少などで、今では十三人まで減った。ぎりぎりの人数で、風邪をひくこともできず、講習や学会にも思うように行けない。地方に行くメリットが見えてこなければ、地方の勤務医のなり手は減るばかりだ」と危機感を募らせる。周囲では、開業する勤務医も最近多いという。

   ×   ×

 名古屋市で開かれた勤務医不足問題を考えるシンポジウムでは「今の地方病院の環境で、やりがいの創出は無理」「地方の求める厳しい勤務条件に最近の若い医師は、ついて来られない」などの指摘が病院勤務の医師から相次いだ。

 厚生労働省は、地域の中核病院に医師を集約し、少人数で過酷な勤務をこなす医師を減らす方針。当直の頻度など勤務環境が改善すれば、医師の地方病院離れは食い止められるという考えだ。研修医の九割が、休暇や給与など条件次第で「医師不足地域で働いてもよい」と答えた調査が根拠。

 同省医政局指導課の山下護課長補佐は「各科一人や二人の勤務は、医師の労働環境として厳しく、難しい手術に対応できない。病院までの距離が遠くなる患者も出るが、より安全な医療が受けられることを理解してほしい」と訴える。

 これを具体化したのが、国会で審議中の医療制度改革関連法案。都道府県が医師の適正配置についての協議会を設け、協議会の決定に公立医療機関は従わなければならないと規定した。

 四月の診療報酬の改定では、産婦人科医と小児科医の待遇改善のため、乳幼児診察の深夜などの加算額を増額し、ハイリスク出産の入院基本料加算を新設。診療科による医師の偏在を是正したいという。


拡大産婦人科医療提供体制検討委員会配付資料

2006年04月27日 | 地域周産期医療

http://www.jsog.or.jp/news/html/announce_27APR2006.html

                                   お知らせ

日本産科婦人科学会第58回学術講演会会期中(平成18年4月22日~25日)に開催されました「拡大産婦人科医療提供体制検討委員会」(平成18年4月24日)において配付されました資料につき、公開いたします。本委員会では、今後の検討及び最終報告書とりまとめの際に参考とさせていただくため、今回の中間報告書及び緊急提言を含む産婦人科医療提供体制に関する諸問題について、会員の皆様ならびに一般の方からのご意見、ご提案を募集いたします。下記のメールアドレスまたはFAX番号まで、お送りいただきたく、お願い申し上げます。

平成18年4月27日

                                         社 団 法 人  日本産科婦人科学会
                         理事長  武 谷 雄 二
                   産婦人科医療提供体制検討委員会
                                                       委員長  海 野 信 也

※ご意見・ご提案受付先
社団法人日本産科婦人科学会宛
メールアドレス:nissanfu@jsog.or.jp
Fax:03-5842-5470(番号のお間違いなきようお願いします)

拡大産婦人科医療提供体制検討委員会配付資料

1. 産婦人科医療提供体制検討委員会設置企画書
2. 中間報告書―産婦人科医療の安定的提供のために―要約
3. 中間報告書―産婦人科医療の安定的提供のために―
4. 緊急提言
5. 大学および関連病院に関する実態調査
6. 医師確保総合対策
7. 「小児科・産科における医療資源の集約化・重点化に関するワーキンググループ」報告書について


衆議院厚生労働委員会 奥田美加先生発言

2006年04月26日 | 地域周産期医療

奥田先生のお話は、全くもって身につまされました。他人事でないです。ビデオを見て、奥田先生の一言一言が胸にズンと響きました。

逃げ遅れてしまって、産科医療の現場に取り残される立場にいると、日に日に激務となってゆく現実があります。

また、取り扱う症例数が増えれば、死産や母体死亡などに遭遇する確率は今後確実に増えてゆきます。

昨今、患者側の医療に対する不信は増す一方で、分娩の結果が悪いのはすべて医療ミスと短絡的に考える人が多くなっています。いくら丁寧に説明したとしても納得はしてもらえないかもしれません。

>分娩施設を整理し、一分娩施設あたりの産科医の数を今の2倍から3倍以上に集約する必要があると思います。早急に労 働環境を改善しないと、若手は産科を選びませんし、やっている人もどんどん辞めていきます。

医療現場をこのまま自然の経過に任せていたんでは、今後も事態は確実に悪化する一方だと思います。産科医療生き残りのためには、(もしかしたらもうすでに手遅れかもしれないけれど、)県内をいくつかのブロックに分けて、各ブロック内で産科医の集約化を早急に実行に移して、中核病院の産科医の労働環境を辞めないでも済むように改善する必要があると思っています。

(以上、私見)

2006年4月25日 衆議院厚生労働委員会 奥田美加先生発言

横浜市立大学附属市民総合医療センター母子医療センター産科の現場責任者で主任の奥田と申します。当センターは、地域の周産期の基幹病院として、ハイリスク分娩を引き受けるとともに、教育病院として、正常分娩の予約も一定数引き受けております。当 センターの一勤務医として、現在の産婦人科医師の勤務状況の実態について述べさせていただきます。

この一年程度で、周辺の分娩取り扱い施設が相次いで分娩を取りやめました。 当センターは、早産などのベビーを受け入れるNICUを持ち、救命救急センター を備えておりますので、いかなるリスクの妊婦さんでも引き受ける必要があります。本来は、高度のリスクを有する母体を引き受けるために、中程度のリスクやリスクのない方は他の施設で多くお引き受けいただきたいのですが、その影響で、分娩予約が殺到し、あっという間に分娩予約枠が一杯になります。重い合併症をお持ちの方で、他の施設での分娩が極めて困難なケースは無理にで もお引き受けしますが、昨今は少しでもリスクのある妊婦さんを抱えたがらな い施設も増え、どこにも行き場のない中程度のリスクの方もお引き受けせざる をえません。さらに、どこにも受診したことのない妊婦さんがいきなり陣痛が来て救急車を呼ぶようなケースも、最近ではどこでも受けてもらえず、すべて周産期センターに集中しますので、病棟が満床でもとにかくお引き受けして対応します。限界以上の分娩件数をこなしているのが現状です。

先日のある一日を例にお話します。午前中は外来業務、午後に帝王切開の予定が2件、午前10時頃、他院から、 重症患者様の受け入れ要請がありました。当院に到着したのが13時頃、緊急を要する状態でしたので、予定の方より先に手術室に入院したのが14時頃、 帝王切開手術が終了し、もとの予定の方が手術室に入室し、16時52分に分娩、予定二番目の方はじつに夜の19時に分娩となりました。その執刀をしている最中、病棟で分娩進行中の方の胎児の状態が良くない、とのことでこれも帝王切開になる、との連絡が入り、他のメンバーで平行して帝王切開術を開始、19時57分にそのベビーが出生しました。当センターの手術室は全国で も有数の忙しさだと思います。この間に病棟では別の分娩もありましたので、 スタッフ全員が21時過ぎまで残っていました。なお、私は前日の当直医で、 前日の朝から当日の朝までフルに働き、午前中の外来をこなし、4件の手術のうち2件の手術に指導医として入り、すべて終了して帰宅したのは23時も過 ぎており、翌日もまた当直業務でした。

このほか、深夜勤務帯、すなわち0時から8時までの間に8件のお産があり、担当医が持病の喘息発作を起こしてしまったり、夜中の2時過ぎ、18分間の あいだに3件の分娩が重なったこともあります。夜中に他院から搬送された緊急帝王切開の最中に次の依頼の電話が入り、続いてお引き受けして帝王切開をしたこともあります。大出血で救命処置を必要とする患者様の横に切迫早産の 母体搬送の方が運び込まれることもあります。分娩は、胎児心拍モニターを監視しながら行いますが、そのモニターのパター ンが急に悪化することはよくあり、必要と判断すれば患者様を走って手術室に 運んで帝王切開をして、決断から10分ほどで赤ちゃんを出すことも日常のこ とです。数秒から数分で対応を決断しなければならないストレスはかなり大きいものです。

もちろん、24時間365日同じように忙しいわけではありませんが、分娩は 時間を決めて出来るものではありませんので、物事が同時に重なって起こるこ とはしばしばあります。当直帯に2~3名の医師での対応は不可能なことがしばしばです。一睡もせず、どうにか乗り切ったとしても、疲れきってしまい、 当直医は翌日すぐ帰らせてあげたいのですが、業務をこなすには人手が足り ず、少々の仮眠を取れればいいほうです。代休はありません。病院からは夜勤明けは休むよう言われておりますが、業務の量からとても翌日休んでいては臨床の業務がこなせません。とりわけ、責任を負った立場ではなおさら業務を減 らせないのが通常です。2交代や3交代にする人手もありませんので、当直医は36時間連続勤務も通常のこととして働いております。

また、大学病院ですから、学生の指導にも時間を割き、若手医師の教育や、医療の進歩に貢献すべく臨床データを学会発表するなどの努力もしております。 そのデータをまとめたり、若手の発表の指導をしたり論文の添削をしたりするのは、日常業務が終わってからですから、やっと医局の机に座るのが21時過 ぎ、それからパソコンをたたいてデータ処理を夜中の2時過ぎまでやり、一度帰って翌朝7時には病院にいる、そんな日々も決して珍しくありません。他に、患者様の診療に必要な文献を検索し読む、という時間も同じように深夜 となります。さらに私の役割では、院内の委員会や対外的な委員会も数多くあ り、月に少なくとも数回はそうした会合に出席する必要があります。出るだけでなく、これら会議の準備が必要な場合はそれも深夜休日の仕事です。

平日に一回当直があり、他に緊急手術や患者家族とのお話、診療の下調べなどのために残り、休日に帝王切開で呼ばれて一回登院、という平均的な週の在院 時間をざっと計算してみると、85時間くらいになるでしょうか。4週間で3 40時間です。これに休日の当直が2回あれば340+48=388時間。

フルメンバーが揃ってやっとこの事態ですから、女医さんが妊娠しても、やっ と規定ぎりぎりの産休を取らせてあげるのが精一杯です。私もそうですが、た いてい産後8週で仕事に戻ります。産休中に、欠員の補充はありえません。育休を取る体制もありません。WHOは「6ヶ月間は母乳以外何も必要ない」と言っており、当院でも母乳育児を推進していますが、当の産科医自身が、それを完遂できません。私には小学一年生になる息子がひとりおりますが、そんな日々ですから、息子の起きている姿を何日も見ない、ということはしょっちゅうです。今日こそは、と思い切って早く帰れる日でも帰宅時間は精々20時です。土日祝日も家にいられず、たまにいるときは緊急の際に呼ばれて駆けつける自宅待機ですから、食事中に携帯電話が鳴り、やっといてくれたおかあさんがまた出かけてし まう、と半泣きになっている息子を置いて病院に向かうこともしばしばです。 病院から電話をかければ「ねえ今日帰ってくる?」と聞かれます。我が家は、71歳になる私の母が老骨に鞭打って息子の面倒と、私が全くやら ない家事とを一手に引き受けてくれますので、こうしてフルに働くことができますが、そういう家族のバックアップがない女医さんが同じように働くのは難しいです。こんな生活をしている折に、大学の医局を離れて健診センターに就職した人 は、9-5時で土日は休み、という生活で、我々より多くの給料を貰ってい る、という話を聞くと、もちろんお金のために働いているわけではありません が、なんだかガックリときてしまい、使命感だけではモチベーションを保ちき れなくなりそうになります。妊娠し、子を生み育てるという人々を守るべき立場の我々が、自分たちのこれ らの生活を守れずにいます。子供を産んでお母さんになった同僚や先輩後輩 が、一線を退く選択をして、辞めていく方もたくさんいます。子育てと産科医 が両立できなくなったとき、産科医であることを切り捨てる、その気持ちも痛 いほど分かりますから、引き留められません。女医が増えるということは、一定の確率で辞めていく人がいるので辞める人数が増えることになります。

そして現場で、そこでできる範囲内で最善を尽くしても、結果が悪い、という ことは、ある一定の確率で起こります。妊娠分娩というものが、たった数分で急変し母児の生命に関わることがある、ということは我々にとって常識ですが、それに遭遇した患者様はそれが全てであり、その悲しみと怒りの矛先が医療者に向くのもよくあることですから気持ちはわかります。たとえそれが、どんな対応をしてもその子を救えなかった、という事態であったとしても、しば しば我々を責められます。それも患者様のお気持ちですから、誠意を持って対応しております。悪気は全くありません。手を抜かず精一杯やっています。産 科には一生懸命今の医学の最良を尽くしても結果が不幸になることがままあります。とりわけ救急を担う我々にはなお頻繁に起こります。でも結果が悪ければすべ てそれが罪になり、我々は罪人として責められる、というのなら、悪い結果になる可能性が誰にでもありうる分娩自体が不可能になります。このことは熱心に産科に取り組む医師ほど悪い結果に接する機会が増え、さらにやりきれない報われなさを感じることが多くなっています。

労働条件が他の科に比べて劣悪なこの仕事に好んで就こうとする人は、今どき の若い方には特にいらっしゃらないのではないでしょうか。この春に初期研修を終了した研修医は神奈川県に約600名いるそうですが、産婦人科を選択 したのは10名です。すでに産婦人科医を選択した人の中でも、周産期は敬遠 されます。昨今の分娩施設減少を受け、当センターで分娩回数を増やすべく整 備しようとすれば、「周産期があるせいで産婦人科医を目指す若手医師が減っ ていくからこれ以上忙しくするな」と、仲間から悪口を言われる始末です。横浜市立大学の産婦人科に所属する医師は、毎年10人前後ずつ辞めるか、フ ルの勤務から退きます。もっと労働条件と報酬のいい職場に移る人、産科自体 を辞める人、完全に仕事を辞める人、昼間の外来業務だけ手伝う人、子育ての ためにしばらく休むと言って戻れない人、分娩を取り扱わないクリニックを開業する人、いろいろです。産婦人科医の全員が、分娩を扱っているわけではな くなっています。産科医が疲れきってやめていき、人数が減ってさらに忙しくなって疲れて辞め る、という悪循環を断ち切るには、分娩施設を整理し、一分娩施設あたりの産科医の数を今の2倍から3倍以上に集約する必要があると思います。早急に労 働環境を改善しないと、若手は産科を選びませんし、やっている人もどんどん辞めていきます。

産科医療は誰かがやらなければならないですし、産科を専門としている私は、 現在の仕事は確かに好きですが、こんな状況ですので、自分が辞めもせず死に もせずに何とかやれているのが不思議です。いま、頑張っている産科医は、も う少しなんとか踏ん張れると思いますが、次世代が増えなければ、もう限界だ と思います。

以上、現場で働く一産科医として述べさせていただきました。ありがとうございました。


緊急提言(日産婦委員会):ハイリスク妊娠・分娩を取り扱う病院は3名以上の常勤医を!

2006年04月25日 | 地域周産期医療

現時点では、産婦人科医1~2人体制の公立・公的病院の産婦人科で周産期医療が支えられている地域は非常に多いのが現実である。

実働の産婦人科医の総数がどんどん減り続けて、分娩施設が急減している現在の状況の中で、今回の緊急提言通りに、公立・公的病院の産婦人科医1~2人体制を一気に解消しようとすれば、公的な分娩施設の総数を現在の半数以下に思い切って減らす必要があり、全国の産婦人科医の配置を大幅に入れ替える必要がある。これを強行突破で実行しようとすれば、全国的に地域住民の反対・署名運動の嵐が巻き起こることは間違いないだろう。

従って、今後、各地域で、住民、行政、医療機関で、十分に話し合う必要があるが、それぞれ違う立場の人達の利害をうまく調整して、地域全体の意思を統一することはなかなか困難と思われる。

また、今後、各広域医療圏の公的な分娩施設をセンター化していく中で、産婦人科医3人体制という中途半端な規模では全く不十分であることは共通の認識としていただきたいと思う。忙しい病院で、3日に一度当直して徹夜で仕事をし、その上、昼間も休まず働き続けるというのは絶対に無理な話だ。ハイリスク妊娠・分娩を取り扱うセンター的な分娩施設の常勤産婦人科医数の最終的な到達目標は最低でも10人程度とすべきであり、今回の緊急提言の常勤医3人という数字は、あくまで地域の周産期医療が絶滅するのを回避するための緊急避難的な暫定目標であり、決して最終的な到達目標ではないことを提言の中でも強調していただきたいと思う。

*** 検討委員会の資料、緊急提言

                    日本産科婦人科学会
            産婦人科医療提供体制検討委員会

本委員会は、中間報告書の提出に際して、以下の点について緊急の提言を行います。本提言の趣旨をご理解の上、何卒、迅速かつ適切なご対応をお願い申し上げます。

緊急提言

ハイリスク妊娠・分娩を取り扱う公立・公的病院は、3名以上の産婦人科に専任する医師が常に勤務していることを原則とする。

提言の理由

1. 産婦人科医の不足の原因の一つが、その過酷な勤務条件にあることは、既に周知の事実である。しかし、平成17年度の本学会・学会あり方検討委員会の調査においても、分娩取扱大学関連病院のうちで、14.2%が一人医長、40.6%が常勤医2名以下という事実が明らかとなっており、勤務条件の改善傾向は認められていないと考えざるを得ない。

2. それに加えて、地域の病院によっては、産婦人科の勤務条件改善の必要性が理解されず、一人でも産婦人科医を確保すれば、分娩取扱を継続できるという考え方に立って、産婦人科医確保の努力を行っているという現状がある。

3. 産婦人科医を志望する医師および医学生に対して、近い将来の産婦人科医の勤務条件の改善の見通しを提示するためには、この状況を改善する明確な意思を学会が示す必要があると考えられる。

4. 本提言を実効のあるものとするために、各地域の医療現場で働く産婦人科医師は主体的にその活動の場を再編成すべきである。


産婦人科常勤医、2年で8%(412人)減

2006年04月25日 | 地域周産期医療

****** 読売新聞、2006年4月24日
http://headlines.yahoo.co.jp/hl?a=20060424-00000314-yom-soci

大学病院などの産婦人科常勤医、2年で412人も減少

 全国の大学病院やその関連病院に勤務している産婦人科の常勤医が2年余りの間に8・0%(412人)も減少している実態が24日、横浜市で開かれている日本産科婦人科学会で報告された。

 調査は、同学会の検討委員会(委員長=吉川裕之・筑波大教授)が、全国110の大学病院とその関連病院を対象に、2003年4月と05年7月の時点でのデータを比較した。

 それによると、5151人だった常勤医は4739人まで減少したほか、分娩(ぶんべん)を取り扱う関連病院の数も1009施設から9・4%(95施設)減少し、914施設になっていた。

 こうした減少傾向について、同委員会では、新卒の医師が医師免許取得後2年間に様々な分野を研修する臨床研修が04年度から義務化されたことによる影響で、大学病院の医局への医師供給が減ったことに加え、産婦人科医が置かれた過酷な診療環境から、他の診療科などに移る医師も少なくないとみている。

 同学会の武谷雄二理事長は「経済的に豊かな日本で、安全なお産が危機的状況に陥っている」としている。

(読売新聞) - 4月24日21時33分更新

****** 朝日新聞、2006年4月24日http://www.asahi.com/health/news/TKY200604240390.html

産婦人科医、2年で8%減 非常勤への異動など影響か

 全国の大学病院と関連病院に常勤する産婦人科医が2年間で8%減り、お産の扱いをやめた関連病院も相次いでいることが、日本産科婦人科学会(日産婦)の調査で分かった。24日、日産婦が開いた産婦人科医師不足対策などを話し合う会議で公表した。

 日産婦の「学会のあり方検討委員会」(委員長=吉川裕之・筑波大教授)が全国110の大学病院を対象に、各大学病院とその関連病院の状況を尋ね、109の大学病院から回答を得た。

 常勤産婦人科医の総数は03年4月には5151人だったが、05年7月には4739人に減った。特に近畿(13.4%減)、北陸(10.2%減)両地方での減少が目立った。お産を扱う関連病院も03年の1009病院から、2年間に95病院(9.4%)減っていた。

 日産婦は、常勤産婦人科医減少の主な要因として、複数の診療科で研修を受ける臨床研修制度が04年度にスタートしたことや、常勤から非常勤への異動などを挙げる。その一方で、常勤の産婦人科医に占める女性の割合は年々急激に大きくなっているといい、吉川委員長は「意欲はあるのに、出産や子育てで当直が出来ないばかりに、非常勤に回らざるを得なくなる女性医師も多い」としている。

(朝日新聞、2006年04月24日23時07分)


産婦人科医療を安定的に供給する体制の提案、日本産科婦人科学会

2006年04月23日 | 地域周産期医療

産科医療の集約化が必要な地域では、関係者間の利害を調整して、なるべく早く産科医療の集約化を実行に移す必要があると思います。その際、地域内における利害の調整が一番難しいと思いますが、万一、地域全体の産科施設が全部消滅してしまった後では、集約化したくてもできなくなってしまいます。地域によっては、非常に緊急的な課題になっていると思われます。

****** 読売新聞、2006年4月22日

救急対応中心に「産科診療圏」、産科婦人科学会が提言

 産婦人科医不足が診療に影響を与えている問題で、日本産科婦人科学会(理事長・武谷雄二東大教授)は22日、横浜市で総会を開き、産婦人科医療を安定的に提供するための体制を検討してきた委員会の中間報告を明らかにした。

 中間報告によると、20~30年後の産婦人科医療提供体制として、人口30万~100万人(出生数3000~1万人)ごとに、24時間態勢で救急対応できる中核病院を中心とした産科診療圏を設ける。

 各都道府県は、各産科診療圏の必要な産婦人科医数や産科病床数、助産師数を定め、それらを確保する。

 高齢の妊婦や高血圧などの合併症を伴う「ハイリスク妊娠・出産」を取り扱う公立・公的病院は原則、産婦人科専任医師3人以上が勤務していることが必要とする、緊急提言も盛り込んだ。福島県立大野病院で帝王切開中に妊婦が大量出血で死亡し、1人しかいなかった産婦人科医が今年2月逮捕された事件を受けたものとみられる。

(以下略)

(2006年4月22日、読売新聞)


病院の広報:当院産科の状況

2006年04月21日 | 飯田下伊那地域の産科問題

今後の実際の分娩件数は、『分娩予約件数+緊急母体搬送受け入れ件数+帰省分娩受け入れ件数』ですから、分娩予約件数が従来の実際の分娩件数の2倍程度ということは、今後の実際の分娩件数は従来の2倍では済まないということです。

当科のスタッフをさらに大幅に増員してセンター化を目指すか?、科をたたんでスタッフごと近隣のいくつかの広域医療圏の病院群と合併して非常に大きなセンターをどこかに作ることを目指すか?、何かさらなる有効な方策を考えざるをえない状況に早晩なってゆくのは必至と我々もみな考えてます。

とりあえず、この春での科の消滅を何とかくい止められましたが、来年の今頃にまだ科が存続しているかどうか?は全く確信が持てません。同僚の先生も、「先のことを考えると、不安で夜寝られなくなる...」とよくぼやいてます。

飯田市立病院ニュース(2006年4月発行、No.21)

お母さんが望む「よいお産」をめざして

 平成十八年三月末までに、飯田下伊那地域で三つの医療施設が出産の取扱いを止めました。それにより当院の分娩件数は、昨年までの月平均四十件が約二倍となり、四月以降の分娩予約件数は月平均八十件前後となっています。

 当院では分娩件数の増加に伴う院内の体制・対応を検討してきましたが、二月に産婦人科医が一名増え、現在四名体制となっています。

 施設面では、一月の初めから病棟の改修工事を行い、分娩室を一室増やしました。また、外来では医師が診察する場所と助産師が計測する場所を分けるために間仕切り工事をしました。これにより、妊婦健診などを受けられる皆さんへのプライバシーについて配慮できるようになりました。

 このほかに、妊婦さんとゆっくりお話ができる機会をつくるために「助産師外来」を始めました。対象者は三十七週以降の妊婦さんで、妊婦健診と赤ちゃんの心音やお母さんのお腹のはり具合などを診させてもらっています。特に、「どんなお産をしたいか」などの希望をお聞きして、分娩時には出来るだけお母さんの希望がかなえられるようにしています。最近では、「横を向いたまま」や「四つんばい」のお産や、へその緒がついたままで赤ちゃんを抱っこする「カンガルーケア」も行っています。

 また、お母さんと赤ちゃんがずっと一緒にいられるようにと考え、完全母児同室としてお部屋での授乳も始めました。

 私たちはこうした取り組みを続けながら、お母さんや、ご家族が望む「よいお産」を一緒に考え支援させていただきますので、いつでもお気軽にご相談ください。

【産婦人科】

編集・発行/飯田市立病院広報編集委員会


大阪府保険医協会: 福島県警本部の産婦人科医師逮捕に関する不当な「表彰」の撤回求め要求書提出

2006年04月20日 | 大野病院事件

http://osaka-hk.org/cgi/topics/s_news.cgi?action=show_detail&txtnumber=log&mynum=159

☆大阪府保険医協会は2006年3月9日、福島県大野病院産婦人科医師の逮捕に関し、「理事会抗議声明」を発表し、関係方面から大きな反響をえました。

☆しかし4月14日、産婦人科医師を逮捕した富岡署を県警本部が表彰したとの驚くべき報道がされました。

☆保険医協会は4月19日付で、福島県警察本部 綿貫茂本部長に対し「表彰」の撤回を求め、また富岡警察署 警察署長に対し「表彰」の辞退を求める以下の「要求書」を送付しました。
 

福島県警本部 綿貫茂本部長 殿

                                                  大阪府保険医協会
                                                     闘争本部委員会
                                                        産婦人科部会
                                                外科・整形外科部会
                                                           皮膚科部会

福島県警本部の不当な「表彰」の撤回を要求する

■日頃は凶悪犯の逮捕や難事件の解決など、福島県民の安心と安全のためにご尽力いただいていることに敬意を表します。

■私たちは、全国10万人余の医師が加入する全国保険医団体連合会に所属し、大阪府下の開業医や勤務医6,300人が加入する医師団体です。国民の医療を守り改善すること、そして安心してよい医療を行えることを願って、さまざまな取り組みを進めているところです。

■さて、平成18年4月14日、福島県警本部は福島県立大野病院の医師を逮捕した事件で、富岡署に本部長賞を授与し栄誉を称えたことが報道されました。

■しかし今回の逮捕は、既に我々大阪府保険医協会や医師会、日本産婦人科学会、産婦人科医会、周産期医療の崩壊をくい止める会など全国の多くの医師団体からの抗議声明で指摘されたごとく、現代医科学の学問的水準においても日本の産科医療水準においても不当なものであり、多くの関係有識者が疑問を表明しているとおり極めて不透明なものです。

■またご承知のように、国会の審議でも、逮捕に疑問の声が上がっているところの現在係争中の事案であり、まだ有罪が確定したわけではない国民注視の問題です。

■しかるに、今後医療崩壊を招く一里塚になりかねないこの事案に対して、いち早く警察内部で表彰を行うことは、この「逮捕」の“正当性”を強弁・誇示しようとするものであり、抗議声明を出した全国の医師団体をはじめとする関係世論に対する恫喝と挑戦に他なりません。

■私たちは、本部長賞をただちに撤回することを要求します。

■あわせて、貴殿のご見解をいただきたく申し入れるものです。


富岡警察署 警察署長殿

                                                  大阪府保険医協会
                                                     闘争本部委員会
                                                        産婦人科部会
                                                外科・整形外科部会
                                                           皮膚科部会

福島県警本部の不当な「表彰」の辞退を要求する

■日頃は凶悪犯の逮捕や難事件の解決など、福島県民の安心と安全のためにご尽力いただいていることに敬意を表します。

■私たちは、全国10万人余の医師が加入する全国保険医団体連合会に所属し、大阪府下の開業医や勤務医6,300人が加入する医師団体です。国民の医療を守り改善すること、そして安心してよい医療を行えることを願って、さまざまな取り組みを進めているところです。

■さて、平成18年4月14日、福島県警本部は福島県立大野病院の医師を逮捕した事件で、富岡署に本部長賞を授与し栄誉を称えたことが報道されました。

■しかし今回の逮捕は、既に我々大阪府保険医協会や医師会、日本産婦人科学会、産婦人科医会、周産期医療の崩壊をくい止める会など全国の多くの医師団体からの抗議声明で指摘されたごとく、現代医科学の学問的水準においても日本の産科医療水準においても不当なものであり、多くの関係有識者が疑問を表明しているとおり極めて不透明なものです。

■またご承知のように、国会の審議でも、逮捕に疑問の声が上がっているところの現在係争中の事案であり、まだ有罪が確定したわけではない国民注視の問題です。
 
■しかるに、今後医療崩壊を招く一里塚になりかねないこの事案に対して、いち早く警察内部で表彰を行うことは、この「逮捕」の“正当性”を強弁・誇示しようとするものであり、抗議声明を出した全国の医師団体をはじめとする関係世論に対する恫喝と挑戦に他なりません。

■私たちは、本部長賞をただちに辞退することを要求します。

■あわせて、貴殿のご見解をいただきたく申し入れるものです。

                                                  Date: 2006/04/20

****** 参考

大阪府保険医協会の抗議声明

朝日新聞:医師逮捕事件 富岡署を表彰


日本医師会:唐澤会長、木下常任理事記者会見

2006年04月20日 | 大野病院事件

**** 日医白クマ通信、No.371、2006年4月19日(水)
http://www.med.or.jp/shirokuma/no371.html

唐澤会長、木下常任理事記者会見
産婦人科医の逮捕・起訴による医療現場への影響を懸念

 福島県立大野病院の産婦人科医が、医師法第21条違反と業務上過失致死の疑いで逮捕・起訴された問題で、唐澤祥人会長は、4月18日、木下勝之常任理事とともに日医会館で記者会見を行い、この問題に対する日医の考えを改めて説明した。

 唐澤会長は、まず、医師が逮捕・起訴されてしまったことについて、「類似した事例と比較しても、大きな疑問を感じざるを得ない」と捜査当局の対応を疑問視。そのうえで、今回のように医師法第21条が拡大解釈され、捜査機関がいきなり捜査権を行使するような事態が全国各地で起きれば、医療現場に混乱が生じ、国民にも悪影響を及ぼしかねないとその問題点を指摘した。

 また、今回のように医療の経過中に不幸な出来事が起きてしまった場合には、単に責任追及するのではなく、その原因を医療関係者自らが究明していくことが大事になると強調。加えて、どのような場合に届出を行うべきかについて議論を行い、国民の合意を得たうえで、新たな医療事故の届出制度を構築することを求めた。

 今後の日医の具体的な対応については、木下常任理事が、(1)早いうちに会内に委員会を立ち上げ、医師法第21条の問題についての議論を開始すること、(2)委員会のメンバーには医療関係者だけではなく、司法の関係者にも加わってもらうこと―などを説明した。

◆問い合わせ先:日本医師会広報課 TEL:03-3946-2121(代)


産科医不足 お母さんの声を、もっと

2006年04月20日 | 地域周産期医療

最近の分娩施設の減り方は急激だ。地域に分娩施設が一つもないような状況になってしまってからでは、その地域では分娩施設の集約化はできない。その地域では、もうすでに手遅れということになってしまう。いったん産科空白地域となってしまってから、産科医の募集から始めて、産科をゼロから立ち上げるのは至難の業だ。全国各地の産科医療の厳しい状況を見渡して現状を認識し、広域医療圏の全体が手遅れになってしまう前に、今、地域で一致協力して有効な手を打たねばならない。

****** 信濃毎日新聞、2006年4月19日

産科医不足 お母さんの声を、もっと

 産科医不足から、全国で病院や診療所の産科休止が相次いでいる。県内も例外ではない。

 産科がなくなるという問題に直面して、上田市などで母親らがお産の在り方を考える会をつくり、活動している。医師不足解消への特効薬はない。助産師、看護師など、出産にかかわるマンパワーを結び付け、母子を支える仕組みをつくることから、取り組みを始めたい。

 県産婦人科医会が昨年12月に行った調査によると、回答があった107施設のうち、5年間で20施設が産科を休止した。お産を受け入れている施設は53カ所あった。さらに15施設が産科休止や医師減少の可能性があると答えている。出産の場はこれからも減りそうだ。

 産科は、いつ始まるか分からない出産に備えて当直が多く、緊張を強いられる。ほかの診療科に比べて、訴訟が多いという事情もある。厳しい労働環境から、産科をやめて婦人科診療に切り替える医師が増えており、若い医師も産婦人科を敬遠している。

 こうした事態に、厚生労働省は、地域の中核となる病院に医師を集める「集約化」で対応しようとしている。下伊那地域では、主に飯田市立病院が出産を担当し、地域の診療所が妊娠中の健診を行うシステムが今年から始まった。

 「集約化」で医師の労働条件は良くなり、お産の安全性も高まるだろう。同時に、子育ての原点であるお産に「安心」を求める、産む側の視点を忘れないようにしたい。

(中略)

 上田市のグループは、「集約化」した場合でも、身近な場所で、助産師に継続して支援してもらえるシステムが必要だと訴えていた。

(中略)

 まず、お産の当事者が声を上げることだ。そして、医師、助産師、行政関係者らとともに、病院の配置など、地域の実情に合わせた対応策を考えていきたい。

(信濃毎日新聞、2006年4月19日)


福島県警察本部長のスピーチ

2006年04月19日 | 大野病院事件

福島県警察本部長のスピーチ(平成18年3月9日)
http://www.fukushima.mmd.ntt-east.co.jp/rotary/katsudo/05-06/kiji/03_09/

上記のインターネットの記事より一部引用

 『さて、私共がお話する場合、大きく分けて犯罪の話と、交通の話があるのですが、今、県内の犯罪は非常に危ない状況にあることをご理解頂く趣旨で、今日は犯罪のお話をさせて頂きたいと思います。その前に、会員の皆さんにはお医者さんが多いと伺いましたので一言申し上げたいと思います。
 最近ご心配をおかけしている事案(医療ミスにより医師が逮捕)がございますが、医師とは非常に難しいお仕事であり、結果だけをとらえて云々するということは問題ではないか、と考えております。そうでないと難しい手術などが出来なくなってしまうのではないかと思います。医師の医療行為の結果を犯罪としてとらえる場合には、非常に慎重な検討が必要ではないかと考えております。
 もう一つは、今回の事案について県内外からご意見などを頂くのですが、そのほとんどが事実関係をよくご存じなくて意見を言われるというケースで、大変残念に思うということと、もう一つは医学的なアドバイスをされる方が多いのですが、私共警察は医療上の知識がありませんので、なにかあった場合にはそれを専門の方に鑑定して頂いた上で判断をさせて頂いております。
 例えば橋が落ちたとか、爆弾が爆発したなど警察官がいくら勉強しても限度がありますから、専門家に伺うわけです。ですからご意見がおありの場合は、今後公判廷の場で述べて頂ければ幸いかと思います。今回は大変残念な事案ですが、私共は法律に基づいて捜査を致しておりますことをご理解賜りたいと思います。』

******* 参考

朝日新聞:医師逮捕事件 富岡署を表彰

福島県警表彰に対する反応


信濃毎日新聞:安曇野で母親グループ意見交換会

2006年04月19日 | 地域周産期医療

産婦人科医の1人でもいる病院での院内助産院ならばまだ話もわかる気がしますが、もしも、産婦人科医が1人もいない病院で、『助産師が多数いるのに分娩を取り扱えないのでは病院経営上もったいないから、院内助産院でも始めてみるか』というような病院管理者の発想であれば、(法律的に違法行為にはならないのかもしれませんが)病院のリスクマネージメント上はきわめて危険だと思われます。

産婦人科医がいない病院内で分娩を取り扱い、分娩経過中に何か異常が発生した場合には、医学的な緊急対応が院内で全く実施できないので、病院内であっても、実質上、自宅分娩と何ら変わりがありません。母体死亡、周産期死亡のリスクが何十倍にも増大するのは確実です。いざという時の緊急帝王切開は誰が実施するのか?帝王切開の実施時期が遅れて、母体死亡、死産、脳性麻痺となった場合の法的な責任は誰がとるのか?というような多くの問題があると思われます。

産婦人科医がちゃんと管理していて全く過失がないような場合でも、結果が悪ければ訴訟となるケースがあり、最近は担当医が不当に逮捕される事例まであって問題となっている御時世だというのに、助産師だけで分娩を取り扱って適切な医療介入ができず結果が悪かった場合に、担当助産師が逮捕されずに済むという補償は全くありません。場合によっては、病院管理者が管理責任を問われて逮捕される可能性だって十分にあり得ると思います。

病院から産婦人科医が1人もいなくなってしまった場合に、残された助産師達は現在の職場に残っている限り助産業務ができなくなってしまいます。地域の貴重な人的医療資源である助産師達が活躍の場を失ってしまうことは非常に問題だと思います。病院に取り残されてしまった助産師達が、今までの豊富な経験を生かして今後も地域で助産師として活躍できるように、(地域内の産婦人科医、助産師、小児科医、麻酔科医などが集約される)地域中核病院に助産師達を円満に再就職させるよう全面的に支援することをまずは考えるべきだと思われます。

地方では、この問題を一つの病院、一つの自治体だけで解決しようとしても絶対に無理だと思います。時代は急速に移り変わっています。広域医療圏が一体となって、地域として今後いかにこの時代の変化に対応してゆくか?をみんなで真剣に考えなければならないと思います。広域医療圏内で、行政、医療関係者、地域住民などが集まって、今後の地域の周産期医療体制のあり方について、よくよく話し合ってみる必要があるのではないでしょうか?

****** 信濃毎日新聞、2006年4月17日

安曇野で母親グループ意見交換会 助産師・産婦人科医も参加

県内の病院で産婦人科医の不足から産科休止が相次ぐ中、安曇野市と上田市でこの問題に取り組んでいる母親グループが16日、「信州で産みたい!育てたい!」と題する意見交換会を、安曇野市堀金保健センターで開いた。母親、助産師、産婦人科医ら約30人が参加し、各グループ代表者の意見発表と、出席者全員によるディスカッションを行った。

安曇野赤十字病院(安曇野市)では7月から、常勤の産婦人科医がいなくなる。「安曇野のいいお産を作る母の会」の亀井智泉代表(39)=安曇野市=は、「赤十字病院に新しい医師が来ない場合は、別の方法を考えなければならない」と問題提起。市内の母親に対するアンケート結果を基に、「妊産婦は気軽に相談できる場所を近くに求めている」とし、助産師をはじめ看護師、薬剤師、栄養士らが妊産婦と家族を支える「母子健康センター」が必要と提言した。

(中略)

ディスカッションに参加した安曇野赤十字病院の荻原院長は、「常勤産科医確保のめどは立たないが、『近くの医療機関で産みたい』というのが妊産婦の率直な思い」とし、「安曇野赤十字でも院内助産院を設けられるか、検討したい」と述べた。


医師不足 負の連鎖

2006年04月18日 | 地域医療

大学病院の医師引き揚げなどによる医師不足で激務となり、誰かが耐えられなくなって辞めていくと、残された医師はますます激務となるという負の連鎖で、地方病院の医師数がどんどん減ってしまい、休診、病棟閉鎖などが加速度的に広がりつつある。

特に地方の産婦人科医不足は最近問題化して、しばしば報道でも取り上げられるようになった。現在、地方の一般病院に産婦人科志望の若い医師を集めることは至難の業である。若い医師にとって魅力ある病院とは、豊富な症例数、充実した研修体制、専門医の資格取得が可能であること、責任ある仕事を任せてもらえること、あまり激務でないこと、女性医師が辞めずに働き続けられる柔軟な勤務体制、託児所の設置、待遇がよいこと、などいろいろと考えられる。病院としても、知恵を絞って、若い医師達に病院の魅力をアピールできるように様々な工夫をしていかなければならないと思う。

****** 読売新聞、2006年4月16日

研修医戻らず 細る地方大学病院

義務化された臨床研修を終えた1期生が今月から、それぞれの進路に進んだが、大学離れの傾向がくっきりと表れた。大学病院の診療体制が先細りするうえに、大学からの医師派遣に支えられる地域医療にも大きな影響を与えそうだ。既に、医師不足で休診など診療を制限する病院も現れている。(医療情報部 坂上博、田村良彦)

待遇いいと一般病院へ

「せっかく育てた医師の大学外流出が、これほどひどい状況になるとは思わなかった」

 弘前大卒後臨床研修運営委員会の水沼英樹委員長(産婦人科教授)は、危機感を募らせる。同大医学部は1学年100人だが、2年間の臨床研修終了後、専門医研修の場に同大を選んだのはわずか19人となった。

 水沼教授は「青森県出身者は入学者の2、3割で、大学に残る医師は従来40人ほどだったが、新研修制度の導入で、大都市の一般病院に流れる医師が増え、流出に拍車がかかった」と話す。

 読売新聞が全国80大学に対して行ったアンケート調査も、地方大学が従来の半数ほどしか確保できそうにない厳しい現状を浮き彫りにした。

 新研修制度の導入以前は、新人医師の7割が大学に残り、専門に進んだ。ところが新制度では、臨床研修先として半数が一般病院を選び、そのまま一般病院で専門研修に進んだ医師が多い。

 厚生労働省が昨年3月、行った調査では、臨床研修で一般病院を選んだ理由として、「症例が多い」(40%)、「研修プログラムが充実」(32%)を挙げる医師が多かった。

 千葉県内の一般病院で、臨床研修に引き続き、専門医研修を始めた男性医師(26)は、「大学に比べて医師数が少ないので、たくさんの治療経験を積めるし、病棟長など責任ある仕事もやらせてもらえる可能性もある。腕を磨くには、一般病院の方が良い」と話す。

 大学病院は、教育機関でありながら、専門医を育成するための研修プログラムを整備していないところも多く、医師の臨床能力を育てる努力を怠っていた面がある。

 また、研修医には、先輩医師の学会準備など雑用が任され、給料など待遇面でも一般病院に劣っていた。一般病院との競争が始まり、「大学」という看板だけでは医師を集めることが難しくなってきた。

(以下略)

(読売新聞、2006年4月16日)

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京都新聞(2006年04月17日掲載)

医師不足 地域医療が壊れそうだ

   地方の医療機関で医師不足が深刻になっている。放射線科、麻酔科などで目立ち、とくに小児科と産婦人科は危機的といっても過言ではない。

 島根県の隠岐島では今春、常勤の産婦人科医がいなくなった。出雲市の県立病院から島の総合病院に派遣されていた医師を、本院に引き揚げられたためだ。

 島で出産を扱う病院は、この総合病院しかなく約六十人の妊婦さんは八十五キロ離れた松江市など本土の病院で出産せざるをえなくなった。

 地元自治体と県は、六十人それぞれに最高十七万円の出産費用助成を決定するなど対応に四苦八苦という。

 医師不足による、苦境は全国各地の地方都市で広くみられ、地域の拠点となる病院で特定診療科の閉鎖、休診が相次いでいる。

 京都府北部でも、京丹後市のように市立病院の常勤医師が半減したところがある。今月、府北部五市二町の首長らが時局講演に訪れた谷垣禎一財務相に窮状を「直訴」する場面もあった。

 大都市との医療格差が、これ以上広がれば、地域社会の崩壊につながりかねない。小児科や産婦人科医の不足は少子化を一層、加速させるだろう。

 政府、与党は国会に医療制度改革関連法案を提出して審議に入っている。医療費抑制だけでなく「大都市と地方に医師をどう再配置するか」を焦点にした議論が欠かせない。

 医師の教育・養成から報酬、配置を一体的に考え直す必要があろう。都道府県は保健医療計画などで目標を示してはいても、できることに限りがある。政府が全国の医療需要をトータルにつかみ、配置のバランスを図るべきだ。

 医師が地方を離れ、なぜ大都市に集まるのか。小児科や産婦人科では、他科より過酷な勤務の割に報酬は高くないことも一因だろう。

 大学病院の若い勤務医や、臨床研修を終えた研修医が一般病院に移る傾向も見られる。医師不足になった大学病院などは、地方の病院に派遣している医師を引き揚げざるをえない。

 特定の診療科で、医師のなり手自体が減っていることも大きい。日本小児科学会の調査では、二〇〇三年に大学病院やその関連病院で新たに小児科医になったのは五百二人。それが〇六年は二百七十六人に急減した。

 病院の小児科医が減れば、残った小児科医の勤務はより過酷になり、小児科離れがさらに進む。事情は産婦人科も大差ないようだ。この悪循環を、なんとしても断ち切らなければならない。

 厚生労働省は、出産や育児のために離職した女性医師を登録して再就職できるようにする制度「女性医師バンク」を打ち出した。医師の働きやすい環境づくりこそ重要だ。こうした工夫を都道府県や自治体レベルでもさらに進め、医師不足を解消したい。

(京都新聞 2006年04月17日掲載)