ある産婦人科医のひとりごと

産婦人科医療のあれこれ。日記など。

岩手県医師会、広島県医師会の抗議声明

2006年03月23日 | 大野病院事件

岩手県医師会会長  石川 育成
     日本産科婦人科学会岩手地方会
              会長  杉山 徹
     岩手県産婦人科医会
              会長  小林 高

抗議声明

 はじめに、平成16年12月、福島県大野病院にて帝王切開を受けられ、お亡くなりになられた方とご遺族に対し、心よりの哀悼の意を捧げます。
 平成18年2月18日、この帝王切開術を執刀した加藤克彦医師が業務上過失致死および医師法違反の容疑で逮捕、その後起訴されました。すでに福島県では事故調査を行い、報告書が作成されたうえで処分も終了し、加藤医師はその後も大野病院唯一の産婦人科医として献身的に 勤務し続けており、「逃亡のおそれ」、「証拠隠滅のおそれ」とする福島県警の今回の逮捕・起訴理由は到底我々には理解出来ないものであります。また、医師法違反の容疑は、異状死を警察に届出なかったこととされますが、そもそも異状死の概念や定義が曖昧な上に、今回は医学的に予測困難な癒着胎盤が原因であり、医療行為の過失がすべての原因とは考えられず、届出義務は生じないものと判断します。岩手県医師会、日本産科婦人科学会岩手地方会、岩手県産婦人科医会は、今回の逮捕・起訴が不当と判断し、また、司法の介入に正当性がないことに対して強く抗議いたします。
 業務上過失致死容疑は、癒着した胎盤を無理に剥離して大量出血をきたし、死に至らしめたということですが、癒着胎盤はすべて予見できるわけではなく、臨床の場で予見困難な場合は用手的に剥離を試みることが通常に行なわれます。医学的な見地からは胎盤の一部が剥離困難で強度な癒着があった場合、剥離を中止すべきか、剥離を進めるべきかを判断し、その結果を予見することは非常に困難であります。さらに、大野病院の置かれた環境、輸血供給の現状での加藤医師の判断は妥当な範囲内であったと考えられます。すなわち、医師の裁量権の範疇であり、業務上過失致死容疑には該当しないものと考えます。
 我々医師は日常の診療において、日夜いかなる状況に於いても最善の医療を提供することを目標としております。しかし、医学の発展があっても、分娩周辺期の不幸な事象を完全にゼロにすることはできず、残念ながら、医療ミスとは別に今回の件のようにある一定の確率で不可避かつ不幸な事態は起こり得ます。どれだけ努力しても、結果論で責任を問われ、逮捕、起訴されるようであれば、もはや産婦人科医は危険性を伴うであろう分娩に対し、積極的な介助を行うことは不可能となり、これは患者さんにとっても不幸なことだろうと考えます。さらに、現実的には、産婦人科を志す医師の減少に拍車がかかり、地域医療への影響も大きく、過疎地域においては分娩ができない事態へと発展すると推察できます。 
 繰り返しになりますが、今回の事件において加藤克彦医師は最善を尽くしたと考えます。不幸な結果は真摯に受け止めなければなりませんが、最善を尽くした医療結果に対して刑事罰を課さねばならない過失があるとは到底思えません。警察や司法に適切な医学的考察に基づく再考をしていただくよう要請致します。
 以上、私たちはここに加藤克彦医師を支援するとともに、逮捕、起訴に対して強く抗議するものであります。

******* 広島県医師会の声明文

福島県立大野病院産婦人科医逮捕・起訴について

 声明文

 まずは、今回お亡くなりになった患者様とそのご家族の皆様には衷心より哀悼の意を表します。

 去る2004年12月福島県立大野病院産婦人科医師が行った帝王切開術において癒着胎盤のため大量出血を来たし、その結果児は救命できましたが、残念ながら必死の努力にも拘わらず母親は死亡しました。これに関連して執刀医が業務上過失致死および医師法違反で2006年2月18日逮捕され3月10日には起訴されました。
 大量出血の原因となった癒着胎盤という疾患は、約1万の妊娠にひとりというまれなもので、また術前診断も困難で、かつ産科疾患の中でも治療が特に難しいとされています。母体の死亡という非常に残念な最悪の結果となりましたことに対しましては、医学の無力さと限界を感ぜざるを得ません。そして、今回のこの不幸な結果は、特に治療上過失とされるような行為があったという訳ではないと確信しております。もちろん医学的には反省や再発防止を含んだ議論があるのは認めますが、直ちに逮捕されなければならない事例とは思えません。また、起訴理由になっている異状死の報告義務違反についても、執刀医である加藤克彦医師は患者の死亡が確認されたすぐ後に上司である院長に報告しており、院長はその時点では「医療過誤による異状死とはいえず、報告の義務はない」と判断されていることより、少なくとも加藤医師については異状死報告義務違反には当たらないと考えます。
 さらに、2004年12月に発生したこの事例について1年2ヶ月も経ってからの逮捕の理由のひとつが「証拠隠滅のおそれ」とのことでありますが、すでに2005年4月には証拠物件であるカルテ等は差し押さえなどの処分もなされていますし、その後も同医師は大野病院において産婦人科診療に当たっておられますので、上記のような理由で逮捕する根拠は薄弱というほかなく、警察権の過剰行使といっていいのではないかと思います。
 医師が扱わねばならない多くの疾患の中には、時に予見できない合併症や予見できたとしても、それをはるかに凌駕するような合併症が起こることは避けがたいことであります。結果論でああすればよかった、こうすれば良かったというのは、神ならぬ身の一般臨床医にとってあまりに酷な要求であり、「判断ミスは許さない」、「結果が悪ければ逮捕」というのではわれわれ医師は今後前向きに治療をすすめることができなくなり、ひいては医療レベルの低下を来たし、結局は患者さんへの不利益につながるものと思います。
 以上に述べた理由から、このたびの逮捕はリスクのある難病に対して真摯に診療をおこなう医師たちのやる気をそぐような処遇であり、いわば不当逮捕とも言えるのではないかと考えており、まったく容認することはできません。私たち広島県医師会常任理事会は福島地検および福島県警が加藤医師に対する起訴をただちに取り下げることを強く要求するものであります。私たちは今後、こういった事例が二度と起こらぬように、中立的な立場で適正な医学的根拠に基づいた判断の上で事の是非を判定できるようなシステムが構築されることを強く望むとともに、それに向かって努力していきたいと思っています。

平成18年3月20日広島県医師会常任理事会


福島県立大野病院事件に対する日本医師会の考え

2006年03月23日 | 大野病院事件

日本医師会ホームページ、日医白クマ通信(3月23日)

福島県立大野病院事件で日医の考えを説明

 福島県立大野病院で帝王切開手術の執刀(平成16年12月)を行った産婦人科の医師が、医師法第21条違反と業務上過失致死の疑いで逮捕・起訴された問題で、櫻井秀也・寺岡暉両副会長ならびに藤村伸常任理事は、3月22日、記者会見を行い、この問題に対する日医の考えを説明した。

 記者会見では、まず、藤村常任理事が、a.関係各所への事実関係の確認等を行うとともに、弁護士を現地へ派遣して調査を行ったこと、b.「医師法第21条の問題」は全会員に関連のあるものとして適確な対応が必要であるが、詳細が不明なため、慎重に対応することを確認したこと―など、これまでの日医の対応を報告。

 そのうえで、櫻井副会長が、今回の件に関する問題点として、次の3点(「医師が逮捕されてしまったこと」「逮捕の容疑として、業務上過失致死が挙げられていること」「医師法第21条に規定されている異状死の届出義務違反に問われていること」)を指摘するとともに、診療中の患者さんが医療上の事故によって死亡した疑いのあるような場合には、第三者機関に届け出ることのできる仕組みを構築することを求めた。

 今後の対応については、寺岡副会長が、「当面の対応としては、『診療行為に関連した死亡の調査分析モデル事業』を全国規模に広げ、事例届出の窓口の一元化を図るべき」としたほか、藤村常任理事は、会内に委員会を立ち上げ、医師法第21条の廃止の是非を含めた検討を4月にも開始することを明らかにした。


産科医不足問題、長野でシンポ

2006年03月23日 | 地域周産期医療

産科医不足が深刻化する中、県内の産婦人科を持つ病院や診療所の半数で、医師の高齢化などを理由にお産の取り扱いをしていないことが分かりました。これは長野県産婦人科医会(厚生労働省の特別研究班)が長野市で開いたシンポジウムで報告したものです。調査は常勤の産婦人科医がいる県内の全ての病院と診療所119施設を対象に行なわれ、回答のあった107施設のうち、医師の高齢化などを理由に分べんを扱っていないとした施設は54施設で、およそ半数に上っています。また、現在分べんに対応している53の施設の中で15の施設が「今後、分べんの取り扱いを止めたり、医師が減少したりする可能性がある」と答えていて、産科医不足の深刻さを浮き彫りにしています。

********信濃毎日新聞(3月22日)

「安心のお産を」産科医不足問題、長野でシンポ

 全国的な産科医師不足問題を考えるシンポジウムが21日、長野市内で開かれた。厚生労働省は、医師確保が難しい地域で医師を中核病院に集約させる方針を示しており、参加者から「産む側の声に耳を傾けて」といった訴えが相次いだ。

 シンポジウムは厚労省産婦人科医療提供体制の緊急的確保に関する研究班の主催。産科休止を巡る動きが広がっている県内で住民の声を聞こうと企画した。母親、医療、行政関係者ら約150人が参加した。

 この日報告された県産婦人科医会の調査(昨年12月)によると、回答があった107施設のうち、20施設が過去5年間で産科を休止、53施設が現在、お産を受け入れている。県内では緊急手術などを受け入れる2次医療施設(地域の中核的な総合病院)で扱うお産が全体の53%を占めるが、そこに勤務する医師86人のうち、今春に開業や県外への異動で7人が退職予定。15施設は産科休止や医師減少の可能性が「ある」と回答し、産科医不足が進む見通しになっている。

 調査をまとめた信大医学部の金井誠講師は「医師の補充は難しく、産科医療体制が崩壊する地域が出てしまう。医療関係者や住民による地域ごとの対策会議を設け、具体案を考えていくべきだ」と提案。上田市産院の存続運動に取り組んだ桐島真希子さんは「大病院でのお産は流れ作業のイメージがある。医師の集約が避けられないならば、母親の声を聞いて安心してお産できるよう考えてほしい」と訴えた。

(以下略)


産科問題について地域住民との意見交換

2006年03月23日 | 飯田下伊那地域の産科問題

産婦人科医がどんどん減って、地域の産科施設が激減している今、何も対策を講じなければ、早晩、地域から産婦人科機能が消滅してしまうことは確実です。地域の産婦人科機能を維持するためには、今、地域としてどう対策を講じたらいいのか?ということを地域全体で考えるべき時だと思います。

***** 中日新聞、長野 (3月22日)

医師ら住民と意見交換 飯田で産科問題懇談会

 飯田下伊那地方の産婦人科病院が相次いで産科をやめている問題で、南信州広域連合や地元の産科医師らが対応を話し合う産科問題懇談会が二十日夜、飯田市役所で住民の意見を聞く会を初めて開いた。出席した出産経験者からは、飯田市立病院だけでなく、開業医など多様な産み方ができる体制づくりを求める意見が相次いだ。

 意見を聞く会のメンバーは、飯伊地方の保健師や保育士、育児サークル、松川町の下伊那赤十字病院の存続運動をする「心あるお産を求める会」などの女性十九人。産科問題懇談会の医師らから「当事者の母親からも意見を聞くべきだ」との意見が出たことから開かれた。

 出席した母親らからは、「飯田市立病院への集約も大事だが母親が産み方を選べる環境にしてほしい」、「助産師をもっと活用してはどうか」、「検診と出産する病院が違うのは、妊婦にとって不安が大きい」などの意見が出された。

 また、二月から飯田市立病院へ産科医一人が信州大学から派遣されていることに対し、「下伊那日赤に回すことはできないか」とする要望が出された。

 これに対し、市立病院の産婦人科医師は「一人増えて四人でも足りない。市立病院を十年、二十年後もお産が続けられる核となる病院にしていくことが必要」と答えた。 【西尾玄司】