ある産婦人科医のひとりごと

産婦人科医療のあれこれ。日記など。

大野病院医療事故:初公判11月以降に 第2回公判前手続き、争点絞り込めず(毎日新聞)

2006年08月13日 | 報道記事

どの妊婦さんも、癒着胎盤の可能性は否定できません。癒着胎盤があっても分娩前には何の症状もありませんし、癒着胎盤の有無を分娩前に判定することはできません。まして、癒着胎盤の程度や範囲を分娩前に判定することは、現代医学をもってしても、未だ不可能とされています。

癒着胎盤の頻度は、一人の産婦人科医が一生に一回遭遇するかしないかのきわめてまれな頻度(1万分娩に1回)ではありますが、どの産婦人科医もそれが一生のうちのいつなのか?全く予測できません。もしかしたら、それは今日なのかもしれません。

(私個人の場合は、産婦人科に入門した直後に、たまたま、癒着胎盤で大量に出血した症例と遭遇しました。もしかしたら、定年退職までにあと1回くらいは同様の症例に遭遇することもあるかもしれません。)

この癒着胎盤の大出血の修羅場を経験している産婦人科医は少なく、大ベテランの百戦錬磨の産婦人科医でもほとんどの人は未経験と思われます。

全癒着胎盤は全く剥離できませんから、そのまま閉創するなり、子宮全摘をするなり、治療方針を患者や家族とゆっくり相談する余裕もあり、どの施設でも救命は十分に可能だと思います。

部分癒着胎盤では、用手剥離で一部は剥離可能で、用手剥離中にいきなり大出血が始まります。癒着胎盤の大出血は、噴水のように吹き上がる大出血で、短時間の間に、5リットル、10リットルとものすごい勢いで失血します。子宮摘出はきわめて困難です。輸血を際限なくどんどんできる病院で、スタッフ(産婦人科医多数、優秀な麻酔科医など)も大勢いるような病院でないと、誰が執刀していても救命はかなり難しい状況となります。

癒着胎盤の診断は摘出子宮の病理検査によってのみなされ、術前診断は不可能ですから、このような事態を術前に予見することはできないし、県立大野病院の当時の医療供給体制下では、誰が執刀医であったとしても、母体を救命することはきわめて困難であったと考えられます。

癒着胎盤について

癒着胎盤の定義について

癒着胎盤に関する個人的な経験談

****** 毎日新聞、2006年8月12日

大野病院医療事故:初公判11月以降に 第2回公判前手続き、争点絞り込めず /福島

 県立大野病院で帝王切開手術中に女性(当時29歳)が死亡した医療事故で、業務上過失致死と医師法違反の罪に問われた同病院の産婦人科医、加藤克彦被告(38)の第2回公判前整理手続きが11日、福島地裁であった。今回も争点を絞り込むまでには至らず、初公判は11月以降にずれ込む見通しとなった。
 この日も1回目と同様、裁判官3人、検察官3人、弁護人8人と加藤医師が出席し、約1時間行われた。
 弁護側は手続き後の記者会見で、胎盤の癒着の範囲について、「癒着は子宮の後壁部分だけで、胎盤をはがそうとした判断に誤りはない」と話した。これに対し検察側は「(胎盤の癒着は)弁護側が主張する範囲にとどまらない」との見解を示しており、公判では一つの争点となりそうだ。
 また、弁護側は、保存されている子宮の細胞片をカメラで撮影し専門家に鑑定してもらう方針を示すとともに、検察側に対し関係する医師や看護師の供述調書の開示を求めたことも明らかにした。次回は9月15日に行われる。【松本惇】

(毎日新聞、2006年8月12日)

****** 朝日新聞、2006年08月12日

争点整理、進まず

 大熊町の県立大野病院で帝王切開の手術中に女性(当時29)が死亡した事件で、業務上過失致死と医師法違反の罪で起訴された同病院の産婦人科医加藤克彦被告(38)の裁判で、2回目の公判前整理手続きが11日、福島地裁(大澤廣裁判長)であった。検察側と弁護側で争点整理が進まず、当初10月中と見込まれた公判の開始が11月以降にずれ込む見通しとなった。

 弁護側によると、今回は看護師ら病院関係者の供述調書の開示を求めたほか、検察側に押収された女性の子宮の標本をもとにして、弁護側が、胎盤が子宮に癒着する「癒着胎盤」の程度や癒着範囲を調べることも決まったという。

 加藤被告の供述や病理解剖の結果から、弁護側は、「(女性の)子宮の後壁では胎盤が癒着していたが、そこ以外は無理にはがすような部分はなかった」とみている。一方、検察側は「(癒着の程度や範囲は)弁護側が主張する範囲にとどまらない」と主張している。

 弁護側は癒着の程度や場所を具体的に明らかにするよう求めたが、検察側は明確に回答しなかったという。検察側は「癒着胎盤の程度の概念論争をするつもりはない」としている。両者の議論がかみ合わず、争点整理が進まなかったため、公判開始が遅れる見通しとなった。

(朝日新聞、2006年8月12日)

****** 参考

県立大野病院事件、第1回公判前整理手続き、福島地裁 

公判概略について